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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第6章 カールスルーエ反乱
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6-38 無精髭の団長

 一時撤退した傭兵達は現状打開の為、各団長達を集めて対策を練ろうとする。

 しかし、予想以上の苦戦を強いられる現状への苛立ち、それしか露わにならなかった。



「おいっ! 俺達だけ働いて、貴様等は悠々と後方待機し続けるとはどういう事だ⁈」



 声を荒げた大柄の男。連日の戦い双方で最前線で戦い、最も多くの犠牲を出している傭兵団の団長である。



「貴様等が戦いに参加しない所為で、こっちの犠牲が馬鹿にならねぇんだよ! お前達も戦え‼︎」


「知った事か……我々とお前達は仲間ではない。只雇い主が同じで、与えられた仕事も同じなだけだ。協力して戦う動機はない」



 冷静に批評した眼鏡の男。先程の男とは逆に2日連続後方待機していた傭兵団の団長である。



「そもそも、前線で戦うのは貴様等の勝手だ。何故、そんな勝手に我々が付き合う必要がある?」


「戦うのは雇い主からの指示の筈だ! 戦わぬ貴様等が異常なのだ!」


「我々には我々の戦い方がある。今は戦う機ではいから戦わぬだけだ。いちいち此方の戦い方に口出ししないでいただきたいものだ」


「俺達が多大な犠牲を出して城壁を突破した所を、貴様等は悠々と無傷で略奪し回る気なだけだろ‼︎ 傭兵の風上にも置けぬクズ供が‼︎」


「貴様等にだけは言われたくない。貴様等が先立って戦うのは、いち早く、より多くの町民の財と女を確保する為だろう。そちらの方がよっぽどクズだろう」


「貴様ぁあっ‼︎」



 傭兵達の中では深刻な対立が激化していた。特に、積極的に戦いに参加した傭兵団と、参加せず戦力を温存する傭兵団とで、口論と罵倒の応酬が絶えず、各傭兵団間の亀裂は深みを増すばかりであったのだ。


 やはり、纏め役の司令官が居ないが大きいらしく、欲望にしか興味が無い複数の傭兵団が利己的で排他的な為、2万の大軍は最早分裂状態となっていく。



「はぁ……見事に敵の術中だな……」



 罵倒し罵り合う他の傭兵団長を眺めながら、無精髭の団長は呆れて溜め息を(こぼ)す。この時点で敵の意図に薄々勘付いていたのだ。



「敵は間違いなく傭兵団同士の対立激化を狙っている。だから、あれだけ無茶な策で先遣隊を潰しに掛かったんだろう」



 初戦に於いて城門をわざと開けさせ、侵入して直ぐの所に火器射線の交差ポイントを作り殲滅した。しかし、これは敵を意図的にせよ街に招き入れる事になる為、初戦で敗北、となる危険があった。



「そこにあの化け物剣士(ルートヴィッヒ)。アレに出くわしたら当然、前線部隊の士気は落ち、犠牲が倍増する。結果として、戦いに参加した傭兵団は士気低下と犠牲続出への不満の捌け口として、責任を押し付けるのが簡単な後方待機組に八つ当たりする、と……」



 無精髭の団長はまた溜め息を(こぼ)す。



「これだけの事を計算尽くでやってるとしたら、あの剣士に負けず劣らずの化け物だな、敵の司令官」



 この時、彼が思い出したのは、宣戦布告して来たこの地の領主だった。



「あの貴族のボンボンが司令官か? そうだとしたら……」



 あの時の強烈な殺気、戦場慣れした風格。それに、協調性に欠ける傭兵達とはいえ2万の敵を軽々と翻弄する技量。


 それ等が頭で組み合わさった時、無精髭の団長、彼の口元が軽く歪んだ。



「おいっ! 貴様‼︎」



 大柄の団長の怒声で無精髭の団長はふと我に帰る。



「ん? 俺に言ったのか……?」


「当然だ‼︎ 貴様も悠々と後方待機していた一味だからな!」


「それは失敬。……それじゃあ、俺もそろそろ働くとしようかね」



 眼鏡の団長とは違いアッサリと承諾した無精髭の団長に、大柄の団長は拍子抜けし、面食らう。



「そ、そうか……」


「で、働くついでに1つ提案だ」



 無精髭の団長は他の団長達が見守る中、人差し指を立てる。



「実は気になってたんだが……敵の城門はここだけか?」


「うむ? 何が言いたい?」


「つまり、もう1個あんじゃねぇかって話だ。なぁ? 眼鏡の兄ちゃん」



 ニヤリと口元を歪めながら視線を向けられた眼鏡の団長は、軽い舌打ちをした。



「何故気付いた」


「そりゃあ、同じ後方組同士。チマチマとなんかやってるのは見えたんでね。街の偵察でもしてたんだろう? そして、別の攻略方法を見付け、自分達だけ抜け駆けしようと画策してたんじゃねぇのか?」



 図星を突かれたらしく眼鏡の団長は片眉をピクリと反応させ、また大柄の団長による怒声が飛ぶ。



「貴様ぁあっ‼︎ それはどういう事か説明しろ‼︎」


「貴様に怒鳴られる筋合いはない。何か? 貴様は仲良しごっこでもしたいのか? 幼稚な脳みそが考えそうな事だ」


「もういい! 貴様をここで斬り刻んで、それで終いだ‼︎」


「まぁまぁ!」



 2人を仲裁するように無精髭の団長が割って入る。



「御二人共静粛に……思惑が露見した以上、眼鏡の兄ちゃんの策は潰された。ならば、その策を皆で分かち合い有効活用すべきだろう?」



 潰した当人に(さと)され眼鏡の団長は不快気に口をへの字にし、大柄の団長は矛を収め、無精髭の団長の話に耳を貸す。



「貴様の思惑は何だ?」


「まぁ、簡単に言えば、皆んなで兵を出し合い、別の門から侵入しよう、て話だ」


「そんな簡単じゃねぇだろ。この門ですらこの有様だ! 別の門だって変わりゃしねぇよ」


「その可能性は勿論あるが、多分、敵はコッチの門に兵力を集中させている筈だ。何せ俺達はコッチに居る訳だしな。まぁ、もしそっちも強固そうなら、退いてコッチの門に専念すりゃ良い訳だしな」



 無精髭の団長の提案に、皆一様に考え込み、吟味する。

 しかし、このままの戦闘は苦味しかない以上、断念可能な味の分からぬ策を選ぶべきだと早々に気付く。



「よしっ! 貴様の意見を取り入れよう!」



 大柄の団長を皮切りに、各団長は全員賛同し、早速各傭兵団で人選が始められる。


 そして、言い出しっぺの無精髭の団長も仲間達から人選を始めるが、選んだ者達に突拍子も無い命令を下す。



「お前等……別の門に着いたら即座に逃げろ」



 別の門から街を攻略しようというのに、交戦もせずに逃げ出せと言うのだ。



「おいおい……流石にそりゃ不味いだろう。他の傭兵団の非難の的になりますぜ?」


「いや、そうはならん。何故なら、もう1つの門は魔獣の森に隣接してるからな。眼鏡の兄ちゃんは隠してたが、間違いねぇだろう。魔獣に追われました、で解決できる」


「なるほど……その眼鏡の団長さんは、他の傭兵団が魔獣の奇襲に苦戦してる所を、独断で先行して門を開けようって訳だ。軽々と門を開けれる策でもあんのかねぇ……」


「それは大体予想はつく。俺達と同じだ」


「あ〜なるほど……ん? じゃあ、逃げさす理由はなんだ? まさか魔獣? いや、俺達も戦いのプロですぜ? 事前に居るとわかってりゃ、魔獣ごときに遅れはとらんだろう」


「普通ならな……」



 無精髭の団長の顔に不敵な笑みが浮かぶ。



「何せこれは敵司令官の()()()だ。下手(へた)に深入りし過ぎるのは危険だろう?」



 とんでもない事実に、仲間達は面食らう。



「ちょっと待て! 団長は罠だと知っててこの策提案したのか? 何故?」


「そりゃ、敵を見極める機会が欲しかったんだ。この罠の状態を見るのに仲間を送り込む機会が欲しかった。提案しなきゃ、眼鏡の兄ちゃんが独断で動き、目撃者無く全滅していたかもしれねぇ。だからだ」



 敵司令官の罠の存在を看破した無精髭の団長。しかし、その罠の中身を知る事が、この戦いの結末を決定付ける何かを見る事と同義だと思えて仕方なかったのだ。



「さて、パンドラの箱の中身は何だろうなぁ……」



 魔獣の森、そこに眠る最悪の猛獣。その存在を傭兵達は知る由もない。

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