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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第6章 カールスルーエ反乱
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6-37 城壁の戦い

 ヴンダー西門。昨日の奇策の効果により、門突破を断念した傭兵達は、純粋な城壁突破に策を変更する。

 しかし、エルヴィンの読み通り、複数の傭兵団が纏め役無しに戦っている為、連携など皆無であり、傭兵団(ごと)に行動がバラバラであった。


 ある所は、我先にと城壁をよじ登り、


 ある所は、犠牲を回避する為後方で待機し、


 ある所は、略奪のみを楽しむ為、戦闘地帯のすぐ後ろで出し抜こうと目を光らせる。


 結果として、まともに戦っているのは3割程しかおらず、数の利が全く活かせていなかったのだ。



「本当に、アイツの考え通りになったな……」



 城壁でよじ登った敵を斬り裂き、蹴落とし、投げ飛ばしながら仲間達へと指示を飛ばすルートヴィッヒは、内心で主人であるエルヴィンの策略家としての冴えに感嘆する。



「おそらく、アイツは一歩下がって物事を見るのが上手いんだろう。冷静を保てると言った方がわかり易いな」



 頭の中で考えを整理しながら、目前に現れた敵を接敵から1秒未満で斬り伏せ、立て続けに城壁に手を掛けていた敵の腕を斬り落とし、その敵を城壁下へと落下させる。


 まるで呼吸するかのように軽々と傭兵達を撃破するルートヴィッヒに、味方は嫉妬しつつも心の中で喝采を浴びせ、敵はあまりの強さに戦慄し士気が低下していく。


 それは半ば意図してルートヴィッヒが実行したものであり、それを命じたのはエルヴィンであった。


 軽々と実行するルートヴィッヒも化け物だが、彼に可能だと見越して命じるエルヴィンも大概だと言える。



「これに一体どんな小賢しい策が混じってる事やら……目に見えない分、いつの間にか致死率上がってるから、敵からしたらタチが悪い。まったく……アイツとだけは戦争したくないぜ」



 エルヴィンは基本、特別な事は何もしない。大抵がありふれた古典的で陳腐且つ決定打に成り得ない策ばかり使うのだ。


 しかし、だからこそ恐ろしい。


 彼は大した事無い策を多用し、積み重ね、勝利という階層へと届かせる。


 目立たない勝ちへの階段を地道に積み上げて、知らぬ間に敵を敗北へと追いやるのだ。


 敵からすればいつの間にか負けている。知らぬ間に敗北の烙印を押されるので、未然に防ぐ事が出来ない。


 それがエルヴィンが天才と呼ばれるには値しないながらも優れた将足り得る理由の一端であった。


 ルートヴィッヒは自分へ与えられた命令に含まれた敵への無味無臭薄色の毒が持つ性質に興味を持ちながらも、敵を黙々と撃破し、味方を鼓舞しながら敵の戦意を挫いていく。

 或いは、それがエルヴィンの目的とも取れるのだが、長年の付き合いからアイツがこれで終わらない事は薄々感付けた。



「ま、俺達に害がある訳じゃねぇし、後で聞けばいっか」



 策への興味を振り払い、敵との戦いに集中しようとしたルートヴィッヒ。


 しかし、ふと前を見た瞬間、敵は次々と撤退を始めていた。



「……は? 何か早々と退いてくぞ?」



 城壁から降り、此方の銃射程から遠ざかる傭兵達。結果としてまた勝利を得た訳だが、早過ぎる撤退にルートヴィッヒは釈然としなかった。



「退き際が良過ぎるな……罠か?」



 そう思い、警戒するルートヴィッヒだったが、実は何もおかしい事はなく、自然な退き際であった。


 この戦いでルートヴィッヒは、無意識のうちにに50人近い敵を撃破しており、それに恐れをなし怯んだ敵の隙を見て、味方が優れた統率と連携により次々撃破していった。

 結果として味方の犠牲8人で約600人の敵の損害を出していたのである。


 敵としては圧倒的不利な損害に態勢を立て直さざるを得なかった訳なのだ。



「まったく……1人で戦況を動かすとは、まるで共和国の武神だな」



 同じく城壁で指揮を()っていたエアランゲン隊長はルートヴィッヒをそう評し、味方は誰も異論を唱える事は出来なかった。


 2日目の戦いも、結果はエルヴィン達の勝利に終わり、この時放たれた毒に、傭兵達が気付く事はなかった。

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