表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第6章 カールスルーエ反乱
270/450

6-27 追う者

 世暦(せいれき)1914年8月9日


 ドライの街に北から異様な一団が姿を現わす。


 全員が統一性の欠片も無い服を身に纏い、全員が薄汚く汚れた雰囲気である。


 何より、全員がバラバラの武器を所持しており、一般人でない事は確かだろう。


 そう、彼等はミュンヘン公爵に雇われた傭兵達であった。



「チッ! もぬけの殻じゃねぇか!」



 傭兵の1人が不快気に足下の小石を蹴り飛ばす。



「立て続けに街には誰も居ねぇ……前の街には食料や貴重品置きっ放しだったが……人が居ねぇから奪う楽しみがねぇ。女も犯せねぇし最悪だ!」


「まったくだ……ツマらねぇったりゃありゃしねぇ!」



 下品極まる発言が傭兵隊から次々に告げられる。しかし、その量は尋常ではなかった。


 ドライの街に入った傭兵。その数は2万近くにも達していたのだ。



「あ〜あっ! 折角略奪し放題っつぅ仕事を受けたのに、これじゃあ意味ねぇじゃねぇか!」


「帝国の叛逆者殿の領都で散々略奪しまくってた奴が何を言うんだ……」


「精々はした金程度だ! ほとんどミュンヘン公爵のお抱え兵士どもに先越されたんだよ!」



 傭兵。主に金さえ積めば何でもやる戦闘のエキスパート達である。

 そして、特定の拠点を持たず、安らげる場所も無く、常に命の危険と隣り合わせでもある彼等は、大抵戦場が職場であり、その中で、略奪、強姦、殺人を娯楽として楽しむ傾向がある。勿論、例外も多いが。


 今回の反乱鎮圧に参加した傭兵は、欲望の権化たるミュンヘン公爵が集めた者達であり、類は友を呼ぶがごとく、先程述べた傾向ばかりの奴等が集まってしまった。


 カールスルーエ伯爵領でミュンヘン公爵が抑えた街では、公爵麾下(きか)の地方軍に混じり、彼等はあらゆる欲望を具現化させていたのだ。



「チッ……まぁ良い……こっちに前の街の奴等が来たのは間違いねぇ。こっから何処へ行ったのか、だ……」


「あっちじゃねぇか……?」



 数人の傭兵が、ヴンダーの街へと続くタイヤ痕と足跡を見付ける。



「あっちに行けば、前の街の奴等が居るって事か……」


「ひゃっほー! また犯し放題だぜ‼︎」


「よっしゃ! 行くぞぉおっ‼︎」


「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎」」」



 正に蛮族と呼ぶに値する様子だろう。彼等に道徳などという言葉は皆無であり、あるのは欲望を満足させるという興奮のみであった。


 しかし、どうやら全員が完全なる野蛮という訳ではないらしい。



「やれやれ……品が無い……あんな奴等の同僚と思われるのは御免だな……」



 呟いた男。彼も傭兵の1人であった。


 その風貌は、ボロボロの軍服に無精髭、背は平均より低めで、片手には酒が入った水筒を握っている。

 小汚い軍人崩れ、彼は正にそれなのだろう。


 無精髭の男は、水筒の酒を飲むと、足跡を追って行く他の傭兵達を軽い(さげす)みの目で見詰める。



「まったく……平然と虐殺や強姦に走るなんぞ、人の道外れ過ぎだろう。精々略奪に留めんのが人ってもんだ」


「それでもロクでもないですぜ」



 手厳しいツッコミ。無精髭の男と同じ傭兵団の仲間である。



「俺達は傭兵。一応、金銭は貰ってんだから、略奪する意味はない訳ですからなぁ」


「あんだけで物足りる訳ないだらう? 命懸けの仕事でアレだけじゃ割に合わねぇ。だから略奪するしかねぇ」


「だったら、俺達もそろそろ行こうぜ……奴等に先越されちまう!」



 仲間の意見に、無精髭の男は鼻で笑う。



「そう慌てんな……どうせあの馬鹿共は最初、女漁りに夢中になる。金品には手を付けねぇ。その隙に、俺達は財を奪いとれば良い……出来れば脅しでな」



 団長はニヤリと笑みを仲間に向けると、水筒の酒を喉に流し込むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ