6-26 逃げる者
世暦1914年8月7日
カールスルーエ伯爵領から逃げて来たクラインの人々は、もぬけの殻となったドライの街を見て立ち尽くした。
「誰も居ない……おいっ! 誰も居ないぞ‼︎」
「馬鹿な! 確かに生活の跡かある。居る筈だ!」
街中探しても誰も居ない。人1人、生き物1匹存在しない。
空っぽの街となったドライ。手を持つ存在自体が居ないのだから、逃げて来たクラインの人々に救いの手が伸びる事もない。
「どうする……? ここでも一応、伯爵領からは抜けてるぜ? 安全じゃないか?」
「討伐軍の奴等が追って来てない可能性が何処にある‼︎ 助けてくる奴等の所で守って貰うのが妥当だ!」
「じゃあ、移動するしかねぇ……だが何処へ?」
誰も居ない街。助けてくれる者も居ない街。居ても仕方がないが、フライブルク男爵領の地理を知らない彼等にとって、進むべき方角など分かる訳がない。
「どうするんだよ……討伐軍が来なくても、俺達は飢え死にだ……」
「食料もあと2日分……もう無理だ……」
希望が見えず、破滅の未来しか見えないクラインの人々。彼等の表情は段々と曇っていく。
「進むしかねぇよ」
結局はそれなのだ。行くしかない、助けてくれる者達が集まる場所へ。
そして、クラインの人々は歩き始め、ふと、あるものを見付ける。
「これ、タイヤ痕だぜ!」
「こっちには足跡があるぞ‼︎」
「街の奴等どっかに逃げたんだ!」
「どっちに行った?」
「…………こっちだ!」
残された移動の痕跡。それ等は勿論、ヴンダーへと向かったドライの人々の物だった。
そして、それはクラインの人々を勇気付けさせるには十分だった。
この先に、助けてくれる人々が居るかもと。少なくとも人々が居るのだと。
僅かに希望で明るくなった表情を持って、クラインの人々はヴンダーへと向かって行く事になった。
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