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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第6章 カールスルーエ反乱
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6-16 エーレの戦い

 世暦(せいれき)1914年7月20日


 カールスルーエ伯爵領北西に位置するマクデブルク子爵領。その南東に位置する都市エーレはカールスルーエ軍およそ3千を目視で確認した。



「前軍、臨戦態勢を取れぇえっ‼︎」


「あの反逆者供を血祭りに上げろぉおっ‼︎」



 マクデブルク兵達は、防御設備に劣るエーレを出て、カールスルーエ軍との間に敷かれた塹壕へと身を潜める。


 デュッセルドルフ派であるマクデブルク子爵は事前にカールスルーエ伯爵の反乱を察知しており、伯爵領の位置から先ずエーレが攻撃されるであろう事は想像に難かった。

 そして、迎撃態勢を固める時間が十分にあった為、反乱軍到着時には、既に万全の防衛態勢を敷き、領内から掻き集めた8千もの軍勢をもって迎え撃つ準備が出来ていたのだ。


 最早、マクデブルク軍の勝利は固く、名声欲しさに当主であるグラントラム・ゲッツ・マクデブルク子爵自ら戦場に出張り、敵の軍勢を見て嘲笑った。



「カールスルーエの阿呆が! たったあれだけで我等を倒そうと言うのか? 我等デュッセルドルフ派を、()いては帝国に弓引く蛮行。貴様等一族郎党、四肢を引き裂き、バラした身体を城門に晒してしてやるぞ‼︎」



 マクデブルク子爵は高揚感に満ちていた。

 彼にはこれといった取り柄もなく、ただ公爵の御(こぼ)れを貰う事しか能が無い豚、としか思われていない。これといった名声が無かったのだ。


 しかし、これに勝てば戦上手の貴族として名が上がる。兵力的に有利と言えど、勝ちは勝ちになるのだ。

 勿論、マクデブルク子爵が指揮を()る訳ではなく、部下に丸投げするのだが。


 子爵は後方陣地にて悠々自適に、ワイングラスを片手に戦争を見物する。



「さて、カールスルーエの阿呆は、どうやってこの大軍を破る気かねぇ……」



 興味本位というか馬鹿にする言い草である。彼にとって相手がどう無様に負けるのか、それを高みの見物しようという悪趣味な腹だったのだ。


 しかし、先に動いたのはマクデブルク軍であった。

 このまま防衛に専念させれば味方の犠牲が少なくて済むだろうが、芸がないので先制し殲滅しようと考えたのである。


 魔術兵を先頭に、通常兵がそれに続き、大軍をもって敵へ突入する。これも芸が無いと言えば無いが、圧倒的に兵力差で有利なら、これが1番ベストな策であった。


 マクデブルク軍は、遥か前方にて防御態勢を敷き始めたカールスルーエ軍を目指し、駆ける。



「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎」」」



 雄叫びを上げ、敵を目指すマクデブルク兵達。彼等は、此方に銃口を向け立ち尽くす敵の姿を、魔術兵達が身体強化を発動しながら目視する。



「アレ……?」



 この時、数人の兵士が敵の持つ銃に違和感を覚えた。

 反乱軍が握る銃。それが見た事の無い形状だったのだ。


 その事に気付いた数人のマクデブルク兵士達。彼等が首を傾げた時だった。


 敵が握る1つの銃から、無数の弾丸が、連続的に発射された。


 弾丸は前衛の魔術兵達を襲い、数発受け続け魔力が削り切られる。


 結果、魔術兵達の多くが蜂の巣となり絶命。背後にいた通常兵も次々と蜂の巣にされる。


 マクデブルク軍第1陣1500は抵抗すら出来ず呆気なく壊滅した。




 一方的な光景、味方の無残な死。それを目の当たりにした塹壕のマクデブルク兵達は言葉を失い、絶句し、寒気が襲う。

 そして、それはマクデブルク子爵も同様で、恐怖のあまり立ち上がり、手のグラスを地面に落とした。



「なんなんだアレは……我が軍がまるで塵のように…….」



 現実に追い付けず、呆然と立ち尽くすマクデブルク子爵。その隣にいた護衛兵士はボソリと呟き始める。



「"機関銃"……いや、あり得ん! アレは重たくて軽々しく運べん筈……いや、まさか! 作ったというのか……?」



 マクデブルク子爵は何か知ってそうな護衛を睨み、ヒステリックに喚く。



「何を知っとるのだ! 話せ! コレは命令だ‼︎」


「いえ、しかし……」


「命令だと言っとるだろうがぁあっ‼︎」



 マクデブルク子爵の怒号に、護衛も我に帰り、淡々と話し始める。



「戦場で普段使われる機関銃を重機関銃と呼称すれば、アレは"軽機関銃"と呼ばれるものです」


「それが何故、我が軍に大打撃を与えられるのだ⁈」


「普通の小銃は1発撃つごとにボルト操作が必要である為、タイムラグがあります。しかし、機関銃にはそれが無い。つまり……魔術兵の身体強化を破る程の弾数を短時間で浴びせられます。それが敵兵全体、しかも小回りが効く軽量化された物を2千の兵全員が持っていたら……」


「魔術兵でも簡単に殺される、というのか……」



 マクデブルク子爵はガタンと椅子に腰を落とす。兵器技術の差が圧倒的だったのだ。



「いや……そうだ……まだ此方の兵力が数倍ある。これで防衛戦をすれば……そうだ! 勝てる、勝てるぞ‼︎」



 4倍近い味方の兵力。戦争は数の勝負。その、まだ見える勝機にマクデブルク子爵は活力を取り戻す。


 しかし、隣の護衛を含め、数十人の兵士、指揮官達は気付いていた。


 "この戦いは惨敗で終わると"




 その後、塹壕と大砲を利用して防衛戦を展開するマクデブルク軍だったが、軽機関銃有するカールスルーエ軍に押されて行く。

 最後まで敵軍へも多くの犠牲を出させながら奮戦するマクデブルク軍だったが、時を置かずして8割の兵力を失い潰走する。

 その際、マクデブルク子爵も重傷を負い、後にその傷が元で急死。


 戦端が開かれて僅か1日をもって、エーレは陥落した。

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