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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第6章 カールスルーエ反乱
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6-14 暗躍者、再び

 カールスルーエ伯爵邸。今、その執務室には2人の男が居た。

 1人はカールスルーエ伯爵であり、彼はデスク後ろの窓から外を眺めている。

 もう1人は客用ソファーに座りながら、出されたコーヒーを堪能していた。



「う〜ん。なかなか良い豆ですなぁ……」



 スーツ姿の30近いであろう男。彼はコーヒーの匂いを嗅ぐと、カップに口を付ける。



「で、使者殿……あの話は(たが)えませんな?」



 伯爵に強く言及。それに男は平然と笑みを浮かべる。



「ええ、勿論ですとも。我々が貴方の反乱を援助致します。実際、この2、3ヶ月は武器と資金の援助を致してきたではありませんか!」


「すまない……私はこの反乱に人生が掛かっているのでね……心配になるのだ」


「御安心を伯爵。今現在、本国から"最新兵器"を密かに運んでおる所です」


「それは我々を勝たせてくれるのだろうな? 只でさえ兵力が少ないのだ……使えぬでは困るぞ?」


「それは貴方方の器量次第。兵器自体は間違いなく、群を抜く一級品ですとも! それを上手く扱えば、勝利は硬いかと……」



 男の話に、伯爵は取り敢えず安堵すると、次に、未だ(くつろ)ぐ彼へ怪訝な顔を示す。



「しかし……まさか貴方方が反乱に手を貸すとは思いませんでした……貴方方からすれば、帝国存続の方が利があるでしょうに……」


「確かに帝国は巨大な舟です。我々も残って頂いた方が都合が良いとは思いますが、所詮は泥舟。我々に利があるのは鉄舟です。泥舟もやりようによっては利になりますが……なかなか沈まぬ泥舟は邪魔になるのですよ」


「そういう考え方ですか……まぁ、反乱が成功すれば此方は関係ありません」


「そうです! 反乱を成功させる事が今は肝心! そちらも、兵器が到着次第動けますでしょうな……?」


「同然だ! 貴方方スポンサーからの要求ですからな。不利は被らせませんよ」


「それは結構……」



 男はコーヒーを飲み干すと、カップをテーブルに置き、ソファーから立ち上がる。そして、伯爵へと恭し気に頭を下げた。



「伯爵様、貴方様の反乱が成功する事を祈ります。名残り惜しくはありますが……これから私は別の予定がございますので失礼させて頂きます。それでは……」



 最後に心の籠らぬ笑みを伯爵に向けると、男は静かに部屋を後にした。



「まったく……不気味な男だ……」



 男が去った後の扉に、伯爵は少し不快気に目を細めて眺めながら呟いた。


 スーツの男、いや彼のバックに居る者達自体、伯爵は信頼していない。

 彼の言葉、一挙手一投足、不気味さしか無かったからだ。


 しかし、信用はしている。


 どちらにしろ彼等が援助してくれるのは事実であるし、彼等が居なければ反乱が敗北で終わるのが目に見えているからだ。



「奴等の思惑は関係ない……せいぜい利用させて貰おう」



 カールスルーエ伯爵は反乱完遂のみに視野を向けた。成功のみが、彼が生きれる道なのだから。




 カールスルーエ伯爵邸を後にしたスーツの男。軽快な口笛を吹きながら出て来た彼の前に、1台の車が現れる。



「おやおや……お出迎えとは珍しい……」



 移動で足腰を使わずに済む事に、彼が少し喜んでいると、その車の後方座席に1人の女性が座っている事に気付く。



「これはこれは……ヨーク第1秘書様ではありませんか!」



 男がニコやかに歓迎したヨークと呼ばれた人物。彼女は栗色の髪を肩まで伸ばし、猫の耳と尻尾を持った猫人の若い女性で、およそ1ヶ月前、ヒルデブラント要塞攻防戦、その裏で暗躍していた赤褐色髪のスーツ姿の男、彼に報告を行っていた者である。



「ボトロップ、無駄口は後にしなさい。あの方から言伝があります」


「ほぉ……? 何かな? 俺に与えられた仕事はちゃんとしているのだがなぁ……」



 ボドロップは不敵な笑みを浮かべつつ、車に乗り込み、ヨークの隣に座る。そして、発車した車の中で、彼女は彼に1つの封筒を手渡した。



「何ですかな……?」


「更なる計画書です。最早、伯爵へは手を打ち終わったので、次の行動に移れ、との事です」


「やれやれ……人使いが荒い御方だ……」



 ボトロップは肩をすくめると、封を開け、中身の計画書に目を通す。すると、彼の口元が更に楽し気に歪んだ。



「これはこれは……なかなかの大仕事ではないか!」


「不服ですか……?」


「とんでもない! 更なる面白味しかない仕事を与えて下さり、あの御方には感謝しかない!」



 実に楽しそうな笑みを浮かべるボトロップ。次なる仕事に早くも心震わせていたのだ。



「それにしても……カールスルーエ伯爵も憐れだ。我々に踊らさているとも知らずに……しかも、破滅と言う名の演目を」


「彼にも彼の正義があるのでしょう。その正義から生まれる盲目さを利用するのが、私達の仕事です」


「やれやれ……あの御方は、本当に恐ろしい……」



 肩をすくめ、微笑を浮かべ続けるボトロップ。カールスルーエ伯爵の反乱ですらあの御方には前座ですらない。


 そして、そんな前座を遊ばせてくれる彼に、ボトロップは心の底からの感謝を送るのだ。



「さてさて……時代は混沌のまま移りゆく。回りに回ってかき混ぜられて、世界は破壊を繰り返す。欲が溢れる世界の中で、それが我等の糧とならん。……さて、世界はこれからどうなるのだろうねぇ……」



 ボトロップは窓から見える空を眺めながら、不敵に口元を歪める。平和を願う全ての者を嘲笑うかの様に。

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