1-21 漫然たる不安
エルヴィン達とヴァランス大佐達が森の中で交戦していた頃、共和国軍第2、第3大隊は既にヴァルト村へと到着していた。
到着早速、村を見回った両大隊だったが、人1人の気配も確認出来ず、残されていた兵糧、武器、弾薬は悉く焼き尽くされていた。
エルヴィン達は村を出発する前、負傷兵を重傷の者を中心に本国へと逃がし、持ち切れなかった物資へ、敵に奪われないよう、去り際に火を放っていたのだ。
第1大隊の状況を知らない為、帝国兵全員が逃げたと思った共和国兵達は苦い顔をしたが、それ以上に、補給を手に入れらなかった事に落胆する。
「兵は逃げたと考えるべきだろうが……まさか、武器、弾薬、食料まで焼くとはな。できれば、食料ぐらいは確保したかった……」
「敵にやるぐらいなら、燃やしてやる! とでも思ったんでしょうよ」
壮年の兵士、赤髪の兵士、共に本隊の状況を知らず、本隊の到着を待っていた。逃げた敵を今直ぐにでも追い掛けたい所ではあったが、総指揮官たるヴァランス大佐の指示無しに勝手な行動は出来ない。
「にしても、連隊長遅いな」
「何かあったんじゃないですか?」
「何かとは何だ? まさか! 敵が本隊を攻撃したとかか?」
壮年の兵士は大笑いした。
「ありえんな! 我々、別働隊がいることは偵察して知っていた筈だ。敵に突っ込んだら、別働隊が退路を断つ事ぐらい分かるだろう。それに、昨日の戦いで奴等は多数の犠牲者を出している。つまり、瀕死の軍だ。それが正面切って戦って勝てる筈がない‼︎」
「敵には魔導兵が居ますが?」
「といっても4人だけだろ? 倍以上の兵力に勝つには物足りないだろう」
「……」
「そう心配するな! 何かあったら通信兵で連絡が来る筈だ。それが来ないってことは、特に何もない証拠だ」
壮年の兵士の表情には一片の曇りもなかった。攻略目標のヴァルト村を占領した事により、この戦いに勝利したと思っていたからである。
しかし、赤髪の兵士にはある懸念があった。
数十分前の爆発音。あれは間違いなく本隊が行軍している方向からだった。
それに昨日、帝国軍を救った部隊の指揮官。奴は間違いなく有能だ。もし、其奴が指揮を執っていたなら……。
眉をしかめる赤髪の兵士。その時、1人の兵士が慌てた様子で、壮年の兵士と赤髪の兵士の下にやって来た。
「大変です! 本隊が……本隊が、敵に敗北しましたっ!」
「なにぃっ⁉︎」
壮年の兵士の表情が崩れ、赤髪の兵士は更に眉をしかめた。
「何があった⁈ 詳しく説明しろ!」
壮年の兵士の指示を聞き、兵士は恐る恐る報告する。
「先程、本隊の兵士らしき者が数名、村に到着しました……その兵士達が言うには、魔導兵の攻撃により、味方に壊滅的な損害が出た、と……」
それを聞いた壮年の兵士は、瞬時に敵の攻撃がある可能性を思い浮かべ兵士達に臨戦態勢を取らせた。
そして、それを横目に、赤髪の兵士は兵士に詳しい話を聞く。
「連隊長とイストル中佐の安否は?」
「不明です」
「魔導兵の攻撃と言うと、どんな魔法が使われた?」
「[シャイニング][ファイヤーレイン][ファイヤーボム]の3つだそうです」
「[ファイヤーレイン]の後に、[ファイヤーボム]を撃った?」
この時、赤髪の兵士にある疑問が湧いた。
「何にせよ、現場を見に行くべきだな。生き残っている兵士が居るかもしれん」
赤髪の兵士は少し考え込むと、壮年の兵士の方を向いた。
「少佐、この場をお任せして良いですか?」
「状況を確認しに行くのか?」
「そのつもりですが……」
「それなら我が大隊も含め、全軍で行くべきだろう。敵が1個大隊を壊滅させることが出来るなら、君の大隊だけで向かうのは危険だ」
「なるほど……では、第2、第3大隊全軍で行くとしますか」
赤髪の兵士と壮年の兵士は、自分の大隊を率い、帝国軍と第1大隊の交戦地点に向かった。




