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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第5章 ライヒスバーン事件
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5-2 歓迎出来ぬ迎え

 ドアを開けた瞬間、目に入ったルートヴィッヒの存在に、アンナは呆れ、溜め息を(こぼ)すと、目を細めながら、歓迎出来そうにない来訪者に視線を向けた。



「何で貴方が居るんですか…………」


「何でって、決まってるだろう? 我等が御領主様を御迎えに上がったのさ!」


「御迎えって……貴方、一応、領都防衛の第1部隊隊長でしょう……ヴンダーを離れて大丈夫なんですか?」



 スポーツマンタイプのイケメン男ルートヴィッヒは、エルヴィンを長とするフライブルク軍に属しており、3つある部隊の内の1つを19歳という若さで指揮している実力者である。

 彼の指揮する第1部隊は男爵領領都ヴンダーの防衛及び治安維持、そして、領地の財源たる魔獣狩りであり、3部隊の中で最も仕事が多く強者揃いとされる。なので、その隊長たるルートヴィッヒが軽々しく領都を離れるのは異常なのだ。


 しかし、当のルートヴィッヒに悪びれる様子は微塵も無く、ヘラヘラとアンナの問いに返した。



「隊長とは言っても、領都には司令官殿も()られますからなぁ……俺は基本、御飾りなんだよ。だから暇なもんで、来ちゃった訳だ」


「本音は……?」


「仕事ほっぽらかしても、領主の迎えという口実を使って、シュロストーアの娼館に行きたかった!」


「クズだ…………」



 アンナは更に呆れ、頭を抱え込んだ。


 ルートヴィッヒは基本、有能な部類に入るが、性格に難があり過ぎる。特に女遊びに関しては折り紙付きで、毎晩、違う女て寝ている始末なのだ。迎えが遅かった理由もこれ関係だろう。


 何故、彼がモテ続けるのかが不思議でならない。



「はぁ……本当に、何でエルヴィンはコンナのと仲良くなったんだか…………」


「まぁ……それは私自身も思うよ」



 アンナが声の方を振り返ると、エルヴィンが苦笑を浮かべながら立っていた。



「エルヴィン、聞いてたんですか?」


「うん……まさかルートヴィッヒが来るとなね…………しかも、娼館に行くついで、だとは……」


「失敬だな! ちゃんと迎えが本命だ! 仕事ぐらいきっちりするわ!」


「それは襟元のキスマークをどうにかして言って欲しいものだね」


「これは仕方ない。折角の愛の証を消せと言うのか!」


「どうせ洗濯する時に消えるだろう?」


「それまでは大事にとっておくんだよ」


「そうかい……」



 エルヴィンはアンナほど呆れはしなかったが、溜め息は(こぼ)した。



「まぁ……君が来てるのは、もう仕方ない……」


「仕方ないって何だ! まるで嫌だ、みたいに聞こえるんだが⁈」


「仕事ほっぽらかして来る奴を、雇い主が歓迎する訳ないじゃないか…………」


「だからこれも大事な仕事だろうが!」


「部隊長がワザワザくる必要はないだろう? しかも、来る根拠が娼館の為なんだから、歓迎しようがない……」


「そ、それはだなぁ…………」



 完全にルートヴィッヒの負けである。根拠がロクでもないのに変わりがない為、言い負かせる訳がなかったのだ。

 しかし、言い負かしたエルヴィンとしては、ルートヴィッヒの素行の悪さは日課なので、達成感すらない。



「はぁ……もう君の事は良いよ……実際、魔術師である君に護衛されるのは有難い……」


「お、おうよ! ちゃんと剣は持って来たからな! 大船に乗った気で任せとけ!」


「そうだね、頼むよ……」



 エルヴィンは、思う所は残るが、少しは歓迎の笑みを浮かべ、胸を張るルートヴィッヒに視線を向けた。

 ルートヴィッヒは、性格に難はあるが、根が良く、頼りになる奴というのは、エルヴィンも分かっているのだ。



「さて、アンナ……迎えも来た事だし……帰るとしよう」


「はいっ、今、荷物を取りに行ってきます」



 アンナはそう言うと、ルートヴィッヒへの非好意的な視線は変わらず、リビングへと戻っていった。

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