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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第4章 ヒルデブラント要塞攻防戦
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4-130 功労者の要求

 第11独立遊撃大隊、皆が昇進を喜び、死んでいった仲間の分も歓喜する中、エッセン大将達、司令部の面々に呼び出されたエルヴィンとガンリュウ大尉は、第10軍団司令部の天幕へと赴いた。

 そこには、鉄道橋破壊の指揮を()ったマインツ大佐も()り、勝利に貢献した3人へ、直接エッセン大将から労いの言葉が送られる。


 そして、直接3人へ、まだ内定だが、昇進の辞令を言い渡し、将官への出世が叶うマインツ大佐は、感激のあまり、涙を堪える様に目を閉じた。


 ガンリュウ大尉も佐官への出世となり、大隊を指揮できる立場となるが、喜びは特に感じなかったらしく、淡白な反応をした。


 そして、中佐への出世となるエルヴィンだったが、これは歴代最年少の記録である。


 20歳で少佐、というのは珍しい時令ではなく、貴族であるなら、コネと賄賂で簡単になれてしまう、というのが帝国の現状である。


 しかし、中佐以上となると、流石に多少の実力がないとなるのは難しく、貴族の特権を使っても、実力でより毛が生えた程度楽、となるだけであった。

 中佐ともなれば、実力が無いと即、戦死してしまうからだ。


 エルヴィンの20歳で中佐、というのは、10年前のマンハイム少佐22歳という記録以来となる。




 最年少という誇らしい記録付きで出世が内定したエルヴィン。しかし、表情には困惑が浮かび上がっており、困った様子で頭を掻くと、少し申し訳なさそうに口を開いた。



「エッセン大将……1つお願いしてもよろしいでしょうか?」


「ああ、構わんよ。何だ?」


「小官の今回立てた功績、全て、"閣下によるもの"、という事にしていただけませんか?」


「「「…………は?」」」



 その場に居た全員、耳を疑った。



「いや……まて……俺に功を譲るというのはどういう事だ?」


「そのままの意味です。私がやった事を閣下が御やりになった事にして、私は何の功もなく、少佐に止まる。そういう風にしていだたきたいと言ったのですが……やはり不味かったですか?」


「不味いとかそういう訳ではなく……」



 エッセン大将達は頭が追い付かなかった。


 戦場で、命懸けで手に入れた功績、それを易々(やすやす)と他人に渡そうというのだ、理解しようがなかったのである。



「フライブルク少佐……何故、そんな事をするんだ? 折角の出世の機会を自ら潰すなど……」


「いえ、このまま出世すると、私に不都合なもので……」



 苦笑しながら頭を掻くエルヴィン。当初、彼が功を捨てる事を理解出来なかったエッセン大将達だったが、彼からその後、告げられた理由に、一様納得する。




 軍には貴族の子弟が多数在籍している、というのは周知の事実だろう。

 彼等の多くはコネや賄賂によって出世している場合が多く、大抵が実力に見合わない階級を得ている。

 そして、どうしても実力が必要な場合に、(つまず)いてしまう場合が多いのだ。


 しかし、エルヴィンは貴族でありながら、父が軍に所属していた過去がありながら、コネも賄賂も忖度すらなく、実力で出世し続けた上、最年少で中佐となる。

 普通の貴族からしてみれば、明らかな嫉妬の対象になってしまう訳である。


 そのため、嫉妬心という下らぬ理由などにより、謀略の対象になる危険があるのだ。


 だから、貴族が簡単になれる少佐までで取り敢えず止まる、と、エルヴィンはしたかったのである。



「なるほど……貴族も案外大変なのだな……分かった、貴官の言うようにしよう」



 苦笑しながらもエルヴィンの願いを聞き入れたエッセン大将。本人としては、他者の功を横取りするようで気が進まなかったが、この戦い最大の功労者たっての願いという事で、渋々聞き入れたのだった。

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