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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第1章 ヴァルト村の戦い
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1-18 魔法の応酬

 [シャイニング]の強烈な光を直視した共和国兵達は、暫くの間、視界が奪われた。


 時間が経ち共和国兵達の視界は元に戻ったが、その時には前方に帝国兵の姿は無かった。



「[シャイニング]で我々の視界が奪われている隙に撤退したのか……」


「やられましたね……」



 ヴァランス大佐はこの時、不愉快感すら感じておらず、敵の事ながら呆れた様子であった。



「敵は余程の無能と見える。撤退したところで、先行している第2、第3大隊の挟み撃ちを受け、敗北するというのに……」


「敵は、此方(こちら)に我々の戦力が揃っていると思ったのでは? そして、重傷の味方を逃がすための時間稼ぎをしたのではないでしょうか」


「だとしたら、なおさら無能だな。進軍中の我々の偵察を怠ったという事だ。そんな無能に昨日、我々が翻弄されたという事になるが……あれはマグレだったのだな。そう思うと、腹を立てるのも馬鹿馬鹿しい……」


「いっそ、無能な指揮官の下で働かされる帝国兵達が(あわ)れに思えてきますね」


「そうだな! 総攻撃の前に、帝国軍に降伏勧告でも出してやるか!」



 ヴァランス大佐は高笑いした。先にある勝利と栄光を既に手にしたような気分に浸っていたのだ。


 しかし、その笑みも直ぐに崩される。


 また、上空に2つの光の玉が打ち上げられたのだ。

 


「連隊長、あれは……」


「間違いない、攻撃魔法だっ!」



 2人が光の玉を今度は攻撃魔法だと断定したのは、この光の玉が橙色であったからである。

 橙色の光の玉は炎の玉としか考えられない。そして、炎魔法には攻撃魔法しかなかった。



「連隊長っ!」


「あれは殺傷力の高い[ファイヤーボム]だろう……」



 ヴァランス大佐は部下達を見渡しながら声を張り上げる。



「全軍、散らばれっ! [ファイヤーボム]は殺傷力は高いが効果範囲は狭いっ! 密集しなければ、直撃はそうそう受けんっ‼︎」



 ヴァランス大佐の命を受け、共和国兵達は個々で分散し、更に拡散隊形を取る。


 これで万全の態勢。()()()であった。


 この時、イストル中佐がある違和感に気付いたのだ。



「[ファイヤーボム]にしては、炎の玉が大きいような……」



 イストル中佐がそう思った瞬間、上空で炎の玉が分裂し、無数に分かれた。



「あれは[ファイヤー()()]じゃないっ! [ファイヤー()()()]だっ!」



 イストル中佐の叫びと共に、ヴァランス大佐は苦々しく奥歯を噛み締めた。

 

 無数に分かれた炎は、第1大隊の周辺へと降り注ぎ、木々を容赦なく燃やし始める。


 そして、燃やしたのは木々だけではない。複数の共和国兵にも炎が当たり、無情にも兵士達を焼き始めたのだ。



「熱いっ! 熱いぃいっ! 助けてくれぇええええっ‼︎」


「死ぬっ! 死ぬぅううううううっ‼︎」



 共和国兵達が焼ける仲間を見ながら恐怖で唖然と立ち尽くす中、ヴァランス大佐は彼等に怒号を浴びせる。



「貴様等っ! 仲間が焼け死ぬところを黙って見ているつもりかっ! さっさと助けんかぁあっ‼︎」



 大佐の(げき)で兵士達は我に帰り、上着を脱いで、焼かれる仲間に被せて火を消した。

 

 燃える部下達が少なくなった事を確認した大佐は、辺りを改めて見渡し、他の兵士達の様子も確認しつつ、燃える木々の様子を確認する。



「帝国軍め……[ファイヤーレイン]で広範囲に炎をばら撒き、森ごと我々を焼き殺す作戦とは……なんと卑劣なっ!」


「連隊長、このままでは確実に全滅です‼︎」


「わかっている……」



 大佐は辺りを注意深く見渡しながら考え込むと、火の手が回っていない1本の道を発見した。



「あそこだっ! あの道から脱出する!」



 大佐は兵士達を一瞥(いちべつ)した。



「全軍、密集隊形をとれっ! 一気にあの道から脱出する‼︎」



 この時、イストル中佐は大佐の言葉で嫌な予感に襲われた。



「密集隊形……? まずいっ‼︎」



 イストル中佐の危機混じりの声色で、ヴァランス大佐も自分が行った失態に気付く。



「クソッ‼︎ しまったっ‼︎」



 大佐が悔いた時にはもう遅かった。


 敵から4つの炎の玉が既に打ち上げられ、頭上まで来ていたのだ。



「全員、伏せろぉおおおおおおっ‼︎」



 大佐が叫び、共和国兵達が地面に倒れ込もうとした瞬間、炎の玉が上空で弾け、轟音と共に辺り一帯を破壊し、それにより発生した突風すらも凶器となって、木々の炎を消し去り、焼かれ脆くなったそれ等を(ことごと)く粉砕していった。

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