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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第4章 ヒルデブラント要塞攻防戦
196/450

4-124 歓喜

 全ての事実、帝国軍の思惑、そして、敗北を知ったシャルル。彼は心の中で悔しがった。


 しかし、それとは裏腹に、その表情には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。



「楽しい……楽しいなぁ、おいっ!」



 シャルルは大剣を地面に刺すと、肺一杯に空気を入れ、腹に最大限の力を込め、叫んだ。



「全て貴様の(てのひら)かぁあっ! エルヴィン・フライブルクぅうっ‼︎」



 シャルルは気付いていた、この全ての作戦が、宿敵エルヴィンによるものだと。


 共和国軍補給線の(かなめ)、鉄道の無力化。つまり、敵補給を攻撃するという策を(もち)いる者は、グラートバッハ上級大将を含め、帝国軍に2人居る。


 だが、これだけ敵の心理を読み、誘導し、嫌らしく、小賢しく、念入りに、緻密に積まれた策を練るのは奴だけである。


 ヴァルト村の戦い、補給基地防衛戦、そして、本陣攻撃部隊追撃戦、それら全てで相手をし、且つ、唯一完勝できなかった相手。


 "エルヴィン・フライブルクという宿敵"だけであった。


 シャルルは知略どころか、実際の戦闘で、顔を向かい合わせた戦いで、奴に負けた。


 初めて負けた。精神的にも、策略家として、指揮官としての能力的にも負けた。


 武での負けでは無かったが、負けを知らぬシャルルとしては、悔しさに苦味を感じながらも、負け自体が嬉しかった。


 化け物と揶揄(やゆ)される俺と、対等に戦える奴がいるという事が、途方もなく嬉しかった。




 シャルルは部下達に撤退を命じながら、大剣を地面から抜き、背中に背負った鞘に収めた。


 そして、先程まで自分相手に奮戦した、


 顔も知らぬ魔法使い、


 [バリア]を張った魔法使い、


 重機関銃を操っていた獣人、


 鬼人の剣士ガンリュウ、


 彼等に賞賛を送った。


 しかし、やはりシャルルが最もそれを送りたい相手は別に居る。

 そして、そんな相手に強い興味を持ったシャルルは、予想だにしたない要求を叫ぶ。



「エルヴィン・フライブルクっ! 出て来て顔を見せろっ!」



 それは非常識であっただろう。


 共和国軍最強と呼ばれる魔術兵シャルル・ド・ラヴァル、そんな奴の前に、指揮官である人物が顔を出す訳がない。

 出して万が一にも、殺される可能性があるのに出る訳がないのだ。


 聞く理由も無く、応じる必要も無い要求、普通であれば無視する物である。


 しかし、エルヴィンは笑みを浮かべると、足を武神へと進め始めた。


 アンナの制止を振り切りながら、


 足を進め、


 雑木林から顔を出し、


 ガンリュウ大尉が驚きの表情を向ける中、


 20センチ以上もの身長差がある武神、シャルル・ド・ラヴァルの前に立ち、彼の顔を見上げた。




 互いに向き合うエルヴィンとシャルル。始めて直接顔を合わせた2人は、同時に笑みを浮かべる。



「よぉ? 貴様がエルヴィン・フライブルクか?」


「そうなるね……じゃあ、こちらも初めて御目にかかります、武神シャルル・ド・ラヴァル」



 2人の若き指揮官、後に多大な足跡を残す事になる英雄2人が、初めて顔を合わせた瞬間だった。

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