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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第1章 ヴァルト村の戦い
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1-17 優越感に浸りながら

 世暦(せいれき)1914年4月27日


 日が昇って間もない時間、ブリュメール共和国軍およそ1000は、ヴァルト村への進軍を再開した。


 陣形は右翼に第3大隊、左翼に第2大隊、中央に本隊である第1大隊が配置している。

 右翼と左翼は400メートル離れて位置しており、両翼の中間に位置する本隊は、他の2つの大隊より200メートル後ろに配置していた。これは、前日の戦いにも用いられた陣形であった。

 この陣形により、敵が両翼の部隊に気付かぬまま共和国軍の懐に入り、中央軍本隊が敵と交戦している間、両翼の部隊が敵の後ろに回り込み、敵を包囲殲滅する。

 第24歩兵連隊、ヴァランス大佐がよく使う手であった。




 ヴァランス大佐は怒り心頭だった。


 前夜、捕虜にした帝国兵を尋問したところ、帝国軍の総数は400程であった事が判明した。つまり、昨日は敵陣に残されていたであろう、たった()()()()()の敵兵に襲われたのを理由に撤退させられたのだ。

 その事実を知り、ヴァランス大佐はこれまでに感じたことのない屈辱感に襲われる。



「帝国軍供め……この屈辱、貴様等全員の死をもって償ってもらうぞ」



 その発言を隣で聞いていた副隊長イストル中佐は、大佐の怒りが思考を鈍らせることを危惧し、その怒りを抑える為、話し掛ける。



「連隊長、捕虜から得られた情報から、敵には4人の魔導兵が居ることが判明しております。御用心ください」


「おお、そうだな! 全軍に拡散隊形を取るよう指示しよう。密集すれば、魔導兵に一網打尽される可能性があるからな」



 中佐の思惑通り、大佐の怒りは緩和されたらしく、彼は冷静な判断を下した。



「敵の数は少ないとはいえ、魔導兵を使った防衛戦をされると厄介です」


「確かにそうだ。だが、あまり慎重になっても逆に敵が有利になるだけだ。こちらの兵糧はあと3日分しかない。3日持ちこたえられたら流石に撤退せざるを得ん。敵の残存兵力を考えて3日も掛かる事は無いだろうが……村に到着し次第、全軍で突入するべきだろう」


「再三にわたり、司令部に補給をお願いしているのですが……」



 この時、また大佐の気分が害されことに気付き、イストル中佐は口を(つぐ)んだ。



「司令部の奴等め……なにが、小競り合い程度で補給部隊を出すわけがない、だ! 本当に勝たせる気があるのか?」



 予想より大佐の怒りが小さいことに安堵しながら、イストル中佐は再び口を開く。



「補給部隊を動かすにも、その部隊の兵糧が必要になります。それを揃えるための費用をケチったのでしょう」


「チッ……損得でしか物事を判断できぬ無能どもが……勝利より、その分に掛かる費用の方が価値があると思ったのか? これだから、前線も知らぬエリート供は好かんのだ!」


「なにも、司令部の全員が士官学校出のエリートという訳では無いでしょう。それに……私も一様、士官学校を出ているのですが……」


「貴官は良いのだ! 良識的で偉ぶらない! 伍長から始めた叩き上げの俺の下で働くことに文句も言わない! 貴官ほど優れた副隊長は他におらんよ」


「それは! ありがとうございます……」



 イストル中佐はこの時、改めてヴァランス大佐の下で戦える事に光栄に感じ、彼と共になら死地にも飛び込めると思っていた。


 そして、暫く歩みを進めた第1大隊だったが、前方から銃声が聞こえたと同時にその足が止まる。



「前衛部隊が敵と接触したようですね」


「敵の偵察兵でも見付けたのだろう」



 しかし、大佐の予測は外れていた。

 暫くして伝令がやって来て、大佐におよそ200の敵と接触したと知らせてきたのだ。


 ヴァランス大佐とイストル中佐は、敵の予想外な行動に驚いたが、動揺はしなかった。逆に笑みを浮かべ、敵を嘲笑った。



「敵も間抜けなことをするなぁ! 自ら防衛戦の利点を捨てるとは!」


「ヤケになっているのではないでしょうか? 敗北は確実、最後に我々に一矢報いようとでも思ったのでしょう」


「何にせよ、これは我々にとって有難い。魔導兵を使った防衛戦をされると厄介だったが、敵からノコノコやってきてくれたのだ。2倍の兵力を有する我々が負ける筈もない!」


「隊長、念の為、他の2部隊をこの戦場に集結させては?」


「そうだな、昨日の戦闘を考慮すると、200が敵の全軍だろうが、伏兵が居ないとも限らん。6倍の兵力をもって、確実に敵を殲滅するとしよう」



 ヴァランス大佐は通信兵を呼んだ。すると、背中に大型の機械を背負った兵士がやって来た。

 その兵士が背負っている物、それがこの世界における無線通信機である。


 魔導工学者アレクサンダー・G・メウィッチにより発明されたこの装置は、人が誰しも持つ魔力を(魔力変換装置)により引き出し、(擬似魔法陣)を通して通信魔法に変えるものである。

 この装置の開発により、魔法の才が無い者でも通信魔法が使えるようになった。



「第2、第3大隊に連絡……我、敵と接敵せり。万全を期すため援軍を()う。現在地、本陣から西方に1キロの地点」



 大佐から告げられ内容を他の部隊に告げる為、通信兵は装置を背中から下ろすと、ヘッドホンを着け、通信周波数調整ダイアルを回した。



「こちら第1大隊。第2、第3大隊応答せよ」



 通信兵が両部隊へ返事を()うたが、ヘッドホンからはノイズしか聞こえてこなかった。



「連隊長、駄目です! 味方と通信が繋がりません!」


「チッ、敵魔導兵の通信妨害か……」

 


 通信機による通信魔法も魔法の1種である以上、魔道師による魔法で妨害する事は可能である。


 通信装置を封じられたヴァランス大佐は不愉快感を示したが、尚も冷静だった。

 敵は此方(こちら)の約半分。これだけの勢力差があれば第1大隊だけで十分勝てると判断した為である。



「連隊長、どうしますか?」


此方(こちら)は敵の2倍の兵力だ。しかし、あまり時間を掛けても仕方ない。このまま総攻撃をかけ、一気に押し切る!」



 ヴァランス大佐は第1大隊全員での総攻撃を命令しようと右手を挙げる。



「全隊、突げ!」



 その時、空に2つの光の玉が上がった。


 それを見たヴァランス大佐は、直ぐにそれが敵から上げられた物であり、しかも、こちらに向かっていることに気付く。


 この時、大佐は初めて、この戦いで動揺を表す。



「バカなっ⁉︎ 敵と味方の距離が近すぎる! 味方まで攻撃魔法に巻き込むつもりかっ⁈」



 光の玉は止まることなく共和国軍に迫った。


 ヴァランス大佐達は自分達に迫る魔法を何とかしようと身構えるが、兵士達の頭上に来た途端、光の玉は弾け、周りを強烈な白い光が包んだ。



「クソッ! 目くらましか……」



 光の玉は攻撃魔法ではなく、支援魔法[シャイニング]だった。

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