1-16 窮地の帝国軍
辛くも撤退に成功したエルヴィン達は、本陣であるヴァルト村へと戻り、エルヴィンは、アンナから生き残った兵士達と、死んでいった兵士達の状況報告を受けていた。
「カッセル隊長以下153名が戦死。51名が重傷、124名が軽傷。真面に戦えるのは、160名程かと……」
沢山の兵士が死んでいった現実を突き付けられたエルヴィンは、苦々しそうに頭を掻き毟った。
「負傷兵まで連れて援軍に行ったにも関わらず、153人もの兵士を助けられなかったのか……」
「エルヴィン、あまり自分を責めないで下さい。あの状況で半分以上助けられたこと自体が奇跡なんですよ」
「そうだね……取り敢えず今は、それで良しとしよう」
言葉とは裏腹に、エルヴィンは完全に吹っ切る事ができなかった。
しかし、生き残った兵達の為にも、それを心の隅に置き、今後について考え始めねばならない。
「味方が何人か捕虜として捕まっているだろうから、此方の兵力が少ない事は直ぐにバレるだろう。明日には、敵が大挙して攻めてくる」
帝国軍の状況は極めて深刻であった。
真面に戦えるのは160人程。その状態で、共和国軍およそ1200の兵士達を撃破せねばならないのだ。
「普通ならば撤退するべきでしょうが……」
「重傷の兵士達を抱えながら撤退すれば、確実に追いつかれて最悪、全滅という事もあり得るね」
「だからといって、重傷の味方を置いていく訳にもいきません」
深刻な状況に2人が頭を抱える中、アンナはふと、ある事を思い出した。
「魔導兵を使えば良いのでは? 隊長も居ないのですし、文句は言われないでしょう」
「それは私も考えたけど……たった4人の魔導兵じゃ、1200を相手にするには少な過ぎる。それに、捕虜になった兵士がその事も話しているだろうから、何か対策を練られているよ……」
エルヴィンは言葉を濁した。
彼には既に、共和国軍を撃破する作戦があったのだ。
しかし、ある理由でそれを行使することを躊躇う。
これは人道に反する行為だ。しかし、このままだと……。
味方の命と、作戦の短所。エルヴィンは葛藤の末、決断する。
「やるしかないか……」
エルヴィンは、重苦しい空気を出しながら、淡々と作戦準備を開始した。




