4-101 助け船
1人の幕僚の口から出た、エルヴィンを擁護する意見。それを聞いた幕僚達、エッセン大将は驚きを隠せない様子であった。
その提言をしたのが、大将の腹心たる参謀長エアフルト中将だったからである。
「エアフルト中将……何を言い出す。こんな青二才の貴族の意見を聞けとは……貴官らしくもない」
「確かにそうかもしれません……」
エアフルト中将、エッセン大将の幕僚の中では古参に入る宿将で、その信任は厚く、ラウ会戦の前線総指揮を任せる程である。
長く共に戦ったエアフルト中将。彼とエッセン大将の信頼関係は他の幕僚を圧倒し、普段の中将であれば、大将に半ば背くような提案はしなかった。
しかし、エアフルト中将のある経験、それがこの意見を出させていた。
「実は、フライブルク少佐、彼の部下にラウ会戦の際に会い、話をしたのですが……どうやら、彼は人望があるようです」
「人望とは……どうせ媚びへつらい、貴族の権威に対してなのだろう?」
「いえ、あれは間違いなく少佐個人への人望です!」
キッパリと断言するエアフルト中将。それにエッセン大将は戸惑いを隠せなかった。
「中将……人望があるのは分かった。だが人望があるからといって、有能とは限らん」
「実力無き指揮官が、人望を集める訳が無いのは、閣下も御存知の筈です」
「うむ…………」
エアフルト中将、彼の言葉で完全に怒りを鎮火されたエッセン大将。大将にとってエアフルト中将の言葉は、それだけ信憑性が高く、強固であったのだ。
他の幕僚達も、エアフルト中将の言葉で一様に怒りを鎮められ、口を閉ざしていた。
貴族の若造に対するプライドよりも、エアフルト中将の進言が、やはり遥かにエッセン大将達の判断基準としては高かったのである。
エッセン大将は貴族への不快感、エルヴィンへの不愉快さは拭え無いながらも、信頼するエアフルト中将の言を退かせる訳にもいかず、結局、妥協する。
「わかった……中将がそう言うのであれば、従うとしよう」
「閣下、宜しいのですか⁈」
「仕方あるまい……エアフルト中将がそう言うのだ。それとも貴官は、中将の事を信頼出来ぬか?」
「そういう訳では……」
幕僚は口を閉ざした。エアフルト中将は尊敬に値する将であり、彼の実力も十分に認めていたからだ。
しかし、エッセン大将とて納得して聞く訳では無く、「取り敢えず聞くだけ」と思っていた。
使え無い策を言えば、エルヴィンを糾弾する口実が出来るとも考えていた。
エアフルト中将が言うのだから聞く、愚策ならエルヴィンを糾弾する。そんな思惑によるものではあったが、取り敢えず意見は言える事に、エルヴィンは安堵する。
そして、エルヴィンは助け船を出しくれたエアフルト中将に感謝の会釈をし、中将も笑みで返すと、改めてエッセン大将に視線を向けた。
敵戦車への打開策、それを事細かく説明する為に。




