4-98 激戦の予兆
レムシャイト軍曹と別れ、第10軍団司令部へと向かうエルヴィンとアンナ。そんな彼は少し落ち込んだ様子で肩を落とし、その隣で彼女はクスクスと笑いを零していた。
「まさか……レムシャイト軍曹にまで、士官だと思われていなかったとは……」
「軍曹、驚かれていましたからね……エルヴィンが少佐だって知った時は、もう……」
まだクスクスと笑いを零すアンナに、エルヴィンは酷く泣きそうになった。
先程、レムシャイト軍曹と別れる直前、軍曹はエルヴィンの階級章が少佐を示すものである事に気付き、動揺した。
自分が佐官に対して、今まで挨拶どころか、すぐ近くに居たにも関わらず、1兵士と勘違いしてしまっていたのが、明らかな非礼であったからだ。
レムシャイト軍曹は、直ぐに謝罪に深々と頭を下げ、それをエルヴィン達は、優しく説いて諌めつつ、穏便に解決した。
エルヴィン自身、階級で敬われ、畏怖される事を望みはしなかったが、気付かれることさえ無いというのも、なかなかに堪える物がある。
「そんなに隊長に見えないかな? 別に、尊敬しろとか思う訳じゃないんだけど……流石に士官とすら思われないのは……ちょっとね……」
「原因はそのだらし無い見た目ですよ。そのボサボサの髪ぐらい整えたら……ぷっ、士官には見えますよ……」
「あのぉ……アンナさん? ……そろそろ笑いを堪えていただけないでしょうか? …………流石に泣く……」
「そうですね……すいません……」
ちょっと悪戯が過ぎたと、アンナは反省しながらも、悪戯な笑みを最後に浮かべるのだった。
エルヴィンの威厳の無さが改めて露系した所で、アンナは咳払いをすると、気持ちと、話題を切り替えた。
「エルヴィン、今回またエッセン大将に呼ばれましたが……今日は貴方だけ呼ばれたんですか?」
「うん、恐らくね。危機的状況での作戦会議にしては物々しくないし……たぶん、敵の新兵器を捕獲した事についてじゃないかな?」
敵戦車捕獲に唯一成功したエルヴィン達。軍団、延いては帝国軍全体を危機へと陥れた兵器を、味方の損害を軽微に抑えた上で奪ったエルヴィン達の功績は大きく、軍団長達が話を聞くには十分である。
「兵器を捕獲したの我々だけだそうだから……事の詳細を聞き出す事によって、あの兵器への対策を練ろうとしているんだよ、たぶん……」
「それはつまり……また、あの兵器と戦う機会がある、という事ですか?」
「そうだろうね……しかも、次はもっと激しい戦いになる」
第3、第8軍団は再編を終え、ある程度、組織的抵抗が可能にはなっている。しかし、多くの兵を損なっている上、司令官も不在、事実上、何も出来る状態ではない。
しかし、第10軍団は損害軽微、まだ余力を残し、敵への侵攻もやろうと思えば可能。
それらの状況の中で、共和国軍はどう出るか。恐らく、残りの戦車全てを投入して、第10軍団を潰しに掛かると考えられたのだ。
エルヴィン達が居る第10軍団、それが、地獄の戦場になる事を思い、エルヴィンとアンナは、少し緊張を走らせるのであった。




