4-80 グスタフ・ケムニッツ
敵が新兵器を投入し、それが破壊不可能だと知った第3軍団長ケムニッツ大将は、自分の本陣天幕にて、苦々しく、兵士達が死んで行くのを黙って見守るしかなかった。
「たった1種の兵器如きで……勝利目前の我が軍が、敗北の危機に立たされるとは……」
「現在、我が軍団を襲っている新兵器は5台、各部隊ともに敵に突破される寸前です!」
「…………」
副官の報告を聞いたケムニッツ大将は、ただ、黙って考え込んだ。そして、屈辱極まる決断を下す。
「1度引くしかあるまい……」
多大な犠牲を払い、命がけで取った塹壕。それをケムニッツ大将は、放棄する、そう決断したのだ。
周りに居た幕僚達は、大将の決断に思う所はあった。だが、それが最善手である事も、実感するしかなかった。
「直ちに、全軍に後退の指示を出します!」
副官はそう告げると、全軍への伝達を伝令に伝えた。
他の幕僚達も、撤退準備の為、次々と動き出す。
「エッセン、ゾーリンゲン大将にも連絡を入れろっ!」
「戦況は? 前線部隊はどうなっている!」
「早く荷物を纏めんかぁあっ!」
罵倒、叱咤の応酬が飛び交う中、幕僚の1人がケムニッツ大将に進言した。
「閣下は御先に脱出を! 馬は既に用意してあります!」
軍に於いて司令官を守る事は、優先事項の1つであり、司令官のケムニッツ大将を逃す事は、当然と言える。
例え、いくら兵士が死のうと、僅かな兵と司令官さえ居れば、軍は存在出来るからだ。
しかし、ケムニッツ大将は首を横に振った。
「閣下っ!」
「ならん……兵士達が誰1人として逃げておらぬのに、その長たる俺が先に逃げ出してどうするっ! 兵士達に示しがつかぬ上に、真っ先に逃げ出した司令官という汚名を着る事になる。敗北の汚水を飲む無能に覚悟はあれど、汚名という猛毒を飲む愚か者になる気は、俺には無いっ!」
決意固きケムニッツ大将に、幕僚は口を閉ざした。
グスタフ・ケムニッツ大将、兵を指揮する時の彼は高潔な人間であり、その高潔さに兵士達は付いて来たのだ。
幕僚も、その高潔さに感銘を受け、自分の行いを恥じ、兵士達を1人でも多く逃す為、己が仕事に移るのだった。




