4-78 名も無き兵士達
帝国軍第3軍団。塹壕にて勝った余韻に浸りながら、帝国兵達は、悠々自適に飯と、こっそり隠していた酒を楽しんでいた。
「いやぁ〜っ! やっぱり、勝利の後の酒は美味いっ!」
「おいっ! あんま叫ぶなっ! 酒持ち込んだのバレたら、憲兵に捕まるぞっ!」
「大丈夫だよ……こんな程度で動く程、憲兵は暇じゃねぇって……」
酒飲み兵士はそう言うと、水筒に入った酒をがぶ飲みした。
軍隊に於いて戦場での飲酒は、アルコール成分が兵士個人の判断力を低下させる事から原則禁じられている。
しかし、死の恐怖に襲われる戦場に於いて、気分を和らげる酒は、恐怖すらも和らげるので、精神の特効薬となり、兵士達にはなくてはならないものであった。
気分を和らげる酒、禁じられているのでコッソリと酒飲み兵士は水筒に隠し、それを、勝利と家に帰れる安堵と共に、身体へと流し込む。
「ぷはぁあっ! やっぱり美味ぇえっ!」
酒を存分に楽しむ酒飲み兵士、すると、ある兵士に視線が向いた。
その兵士は、飯も、酒も飲まず、ただ、1枚の写真をジッと見詰めていたのだ。
「おいっ! そこのお前! 何してんだ⁈」
問われた兵士、彼は一瞬、話し掛けた酒飲み兵士に視線を向けると、また写真に視線を向き直し、話した。
「いや……ただ、家族の写真を見てるだけだ」
つまらない答えが返って来た事に、酒飲み兵士は少し残念がる。しかし、何故かその写真が気になり、写真を見る兵士の背後に立つと、写真を眺めた。
「おっ? なかなかの美人さんじゃねぇか! お前さんと歳は同じぐらいか?」
「ああ、妻だ」
「お前も妻持ちか! 実は俺もだ! 子供も3人だ!」
「そうか……俺は新婚だから、まだ子供は居ない。だが……今度産まれるんだ」
「そいつはめでたいっ! なら、こんな所で野垂れ死ねねぇな!」
「ああ……だが、この戦いももうすぐ終わる。帰ったら、休暇をもらって、故郷に戻って、入院中の妻に会うんだ。その時には、子供は産まれてるか……」
「そうか……なんか俺も、ガキ共に会いたくなった。俺も帰ったら、休暇もらってガキ共に会いに行くか……」
2人は今回、初めて顔を合わせた仲だった。しかし、同じ気持ち、思いをもって、互いに共感した。生きて帰って、家族に会いたいという思いを。
塹壕を奪取し、勝利を確信した帝国軍。その兵士達は皆、帰ったら何をするか、それを仲間と語り合い、中には初めて会った者と意気投合する者も居た。
家族に会う、恋人とデートする、友人と酒を飲む、様々な想いを胸に、帝国軍兵士達は語らい合い、戦争終結を待ちわびたのだ。
しかし、その思いを、多くの者は叶える事が出来なかった。
共和国軍側を警戒していた兵士が、敵の侵攻を察知したのだ。
「クッソッ! 負けは確定してるだろ! とっとと撤退しやがれ!」
警戒していた兵士は、そう文句を怒り混じりで零すと、背後の通信兵に軍団長への伝令を告げた。しかし、咄嗟にそれを取り止めた。
「何だ? あれは……」
兵士は、迫ってくる大量の敵、その最前に、共和国軍を牽引するように、鉄の物体が接近している事に気付いたのだ。
「う〜ん……一応、伝えておくか……」
兵士がそう呟き、もう1度、背後の通信兵に伝令を伝えようとした瞬間、
そこ1帯が、兵士ごと、爆音と共に吹き飛ばされた。
塹壕の1部を吹き飛ばした時、別の場所にいた兵士達は目撃していた。
前方から迫る鉄の物体、それから砲弾が放たれた瞬間を。
鉄の物体、それは、下に大きな鉄の箱、その上に小さな鉄の箱が、下の箱の真ん中に乗っかり、上の箱からは80ミリを超える砲が突き出していた。
そして、下の箱の両端にはキャタピラが付き、自走していたのである。
その鉄の物体、兵器、それをブリュメールの技術者はこう名付けた、"戦車"と。




