4-76 看破する仲間達
少し歩き、何だかんだありながら、仲間達の居る部屋へと戻った2人。それを、仲間達が出迎えた。
「小隊長が戻ってきたぞぉおっ!」
「メールス二等兵に振られて、帰って来たぞぉおっ!」
盛大にそう言いふらす仲間達。それを聞いたトマスとシャルは暫く固まり、そして、
「……なっ! 何で知ってんだああああああああああっ‼︎」
トマスは恥ずかしさ混じりでそう叫んだ。
トマスがシャルに告白した時、辺りには確かに誰も居なかった。更に、仲間達はこの部屋で負傷兵の治療をしていた筈である。
自分がシャルに告白し、玉砕した事まで知っている、それは、明らかにおかしかったのだ。
なら、どういう結論を出すか、
「お前等! 誰か見てやがったのかっ!」
結局、そう思うのが普通である。
しかし、
「「「いや……」」」
全員、首を横に振った。
では、何故、そんな詳細にトマスの告白事情を知っていたのか。それは簡単な理由だった。
「だって、小隊長……ここから出てく時、なんか決意を固めた様な顔してたし……」
「なっ!」
「それ以前に、メールス二等兵への恋心ダダ漏れだし……」
「ななっ!」
「更にそれ以前に、メールス二等兵の大隊長へと恋心、漏れっ漏れだったし……」
「以上を鑑みて、小隊長は、メールス二等兵に告白しながらも、玉砕して帰ってくると考えた訳です」
予想外に呆気のない事実に、2人はポカァンと口を開きながら立ち尽くした。しかし、それは直ぐに変わる。
2人共、自分の恋心が仲間にアッサリ、バレていた事実に、恥ずかしさが爆発し、今にも悶えそうに顔を真っ赤にした。
仲間達はその様子を面白おかしく眺め、トマトは恥ずかしさを残しながらも、不愉快な思いが滲み出し、仲間達を睨み付ける。
「お前等! 人の恋路を笑い話にするとか……性格悪いぞっ!」
「それはすいません……でもね、これでも小隊長には同情してますし、メールス二等兵の恋路は応援してるんですよ?」
「そうっすよ! まぁ……小隊長には、会った当初に受けた生意気な扱いへの、恨み辛みは含まれてますけどね……」
「この野郎……」
トマスは苦々しながらも、確かに前まで生意気だった事実に、忸怩たる思いを噛み締めるのだった。
告白、玉砕したトマスへの仲間達の対応は、散々なものだった。しかし、一方でシャルへの対応は優しいものだった。
「しっかし、メールスちゃんが、大隊長好きだとはねぇ……」
「クッソッ! 大隊長……内のアイドルに好かれやがって……」
「こんな事なら、小隊長同様、玉砕覚悟で告っとくんだった……」
口々にシャルをべた褒めする仲間達、獣人族として卑下されて来たシャルは、褒められる事に全く耐性がないので、恥ずかしさと照れ臭さで唸りながら、なかなか気を休める事が出来なかった。
そんなシャルに、イェーナ伍長が背後から、励ますように、そっと両肩に優しく手を乗せる。
「ご覧の通り……男共が羨む程、貴女はとても可愛い。だから、もう少し自信を持って良いのよ?」
「副隊長……」
イェーナ伍長に優しく声を掛けられ、シャルの恥ずかしさは少し薄れた。そして、シャルは、勇気を出す様に、右手を胸の前で軽く握り、決意を固めた表情をして、仲間達に告げた。
「私、頑張りますっ! 大隊長を振り向かせますっ! 大好きだって、言わせてみせますっ!」
シャルの意思を聞いた仲間達。彼等はシャルの言葉を歓迎し、そして、自分達もそれを助ける事を決めた。
「よっしっ! わたし達も、メールス二等兵と大隊長がくっ付けるよう、手助けするぞぉおっ!」
「「「オオオオオオオオオオオッ‼︎」」」
イェーナ伍長を筆頭に、自分を手助けしてくれる仲間達、振られながらも、自分の恋を応援してくれる小隊長トマス、本当に良い仲間達に出会えた事を、辛い人生から救われた事を、素敵な恋を知れた事を、シャルは心から感謝するのだった。




