4-74 怒れるエルヴィン
ウルム准尉は大隊長へ他部隊の兵士も治療した事、それらに生じた物資の消費など事細かく報告した。
シャルは、部隊で多くの兵士を治療し、その際に生じた不満や困り事などを報告した。
「……分かった、何とかこっちで解決しよう」
取り敢えず、事務的な報告を済ませたウルム准尉だったが、兵士の治療中に起きた、ある事件についても話さねばならなかった。
「大隊長、実はもう1つ、お伝えしたい事が……」
「ん? 何だい?」
「実は……途中治療に来た貴族を、カッとなって殴ってしまったんですが……」
「…………あぁ〜……それはそれは…………」
エルヴィンも確かに貴族ではあるが、帝国最下位の男爵位であり、領地も狭く、財力も無く、権力とは程遠いので、ほとんどの貴族に対して頭を下げる立場にある。なので、貴族絡みのイザコザを解決出来る自信はなかった。
「う〜ん……困った……それは私の範疇外の可能性が高い」
「申し訳ありません……」
「いや、良いよ。君の事だ、何か理由があるんだろう?」
「はい……えっとですね……」
ウルム准尉は事の顛末を話した。
貴族の男がシャルにした扱い、それに対して自分が怒り、殴った事を。
それ聞いたエルヴィンは一瞬、怒気を孕んだ表情を見せたが、直ぐにそれは消え、思いやる様ないつもの優しい笑みを見せた。
「それは災難だったね……分かった、やれるだけ何とかするよ」
報告を終えたウルム准尉とシャルは、エルヴィンに感謝と挨拶を述べ、持ち場へと戻っていった。
「さて……」
ウルム准尉達を見送り、エルヴィンは早速、何処かへと足を進め始める。
「アンナ、ちょっと面倒ごと片付けてくるね?」
「わかりましたけど……程々に……」
「分かってるよ」
笑みを浮かべながらそう返事を返すエルヴィン、しかし、その目は笑ってはいなかった。
貴族の男がシャルに行った仕打ち、それに本気でキレていたのだ。
軽く殺気を漏らしながら背を向けるエルヴィンに、アンナは「本当に大丈夫かな?」と心配になるのだった。




