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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第4章 ヒルデブラント要塞攻防戦
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4-73 変態中尉

 その後、エルヴィンはガンリュウ大尉から部隊の状況について事細かく聞き、話は2人の中隊長についてとなった。



「ジーゲン中尉とフュルト中尉は今、何処にいるんだい?」


「ジーゲン中尉は兵士達と一緒に居るが、フュルト中尉は……美少女探しに行っている」


「……フュルト中尉…………」



 エルヴィン自身、フュルト中尉の事は嫌いではないし、信頼もしている。しかし、やはり美少女好きの変態というのが何とも言い難く、呆れるしかない。

 呆れるのならまだ軽い方で、アンナに至っては、身の危険を感じ、警戒するだけでなく、生理的に嫌い始めていた。フュルト中尉の名前が出た途端、エルヴィンの背中に隠れるレベルである。



「アンナ、今はフュルト中尉居ないから、大丈夫だよ?」



 エルヴィンにそう(さと)され、アンナは、ふと、自分が少し恥ずかしい行動をとってしまった事に気付き、頬を少し赤らめながら、表情は平静を装い、エルヴィンの背中からそっと離れた。



「すいません、エルヴィン……」


「まぁ、良いよ。君がフュルト中尉を危険視する理由は分かるから」



 フュルト中尉の美少女好き、アンナはフュルト中尉にとってドストライクの美少女であるらしく、希少な森人(エルフ)族というのも相まって、部隊の中で1番、中尉の餌食になる可能性が高かった。

 しかも、軍隊に美少女自体が少ないので、フュルト中尉がその鬱憤で、アンナに何をするか分からなかった。それがある程度、節度ある物であると思いたい所である。


 フュルト中尉とアンナを合わせるのはマズイ、そう改めて結論付けた時だった。



「あ〜……良い美少女居なかった……」



 事もあろうに、フュルト中尉が肩を落としながらやって来てしまった。



「もう、ずっと、美少女成分補充できてない……はぁ……何処かに可愛い美少女居な……」



 そう言葉を区切った瞬間、フュルト中尉はアンナの存在に気付き、視線を向けた。


 アンナもフュルト中尉の存在に気付き、偶然にも目が合ってしまう。


 そして、アンナがフュルト中尉から逃れようと、逃げようとした瞬間、それよりも圧倒的に、まるで瞬間移動の如き速さで、フュルト中尉はアンナに接近し、そして、



「アンナちゃん、つ〜か〜ま〜え〜たっ!」



 背後から抱きついた。



「いえ〜いっ! 美少女だ! 紛う片無き美少女だ! でへへ……」



 ヨダレを垂らしながら、変質者の如きヤバイ目のフュルト中尉に、身の危険を感じるアンナは、必死で離れようと身動いする。



「中尉、離して下さい!」


「離さなぁ〜いっ! 絶対に離さなぁ〜いっ‼︎ そんな事より一緒にベットで寝よ? シッポリと気持ちよぉ〜く、一夜を明かそ?」


「嫌です! 絶対に嫌ですっ‼︎」



 アンナは必至に抵抗し、暴れ、フュルト中尉の手から逃れようとした。その結果、アンナは中尉の腕から逃れる事に成功した。


 そして、アンナは、またも自分に抱きつこうとするフュルト中尉の腹部に、強烈なる拳の一撃を叩きつける。



「グホッ!」



 腹に激痛を味わったフュルト中尉は、腹部を抱えながら、後ろによろめきながら下がり、両膝を地面につける。


 ふと、殴るのはやり過ぎた、と感じたアンナだったが、自分の暴力的な面を見せる事で、フュルト中尉が自分を諦めるのでは? という期待も持った。


  しかし、



「美少女のパンチ……美少女から与えられる痛み……これも悪くない……」



 新たな悟りを開いたように穏やかな笑みで、フュルト中尉はそう(こぼ)した。


 フュルト中尉は、本当にヤバイ奴であったらしい。


 流石のこの状況に、ガンリュウ大尉ですら無表情ながら、フュルト中尉にドン引きし、アンナに至っては恐怖心すら湧いてる始末である。


 殴ったのが逆効果となり、フュルト中尉のアンナへの評価は更に増してしまう。


 しかし、またアンナに襲い掛かる様子はなく、中尉は口元のヨダレを袖で拭った。



「アンナちゃん、こんなに嫌がってるし……今日の所は諦めるわ」


「一生諦めてて下さい……」


「ふふっ、そんな事、言ってられるのも今のうち……一回でも女同士の楽しみを知ったら、他の楽しさに快感なんて感じないから」


「その一回を、一生やる気は無いので、本当に諦めて下さい…………」



 冷めた拒絶を繰り出すアンナだったが、フュルト中尉に諦めるという文字はなさそうである。アンナの苦労は当分、続きそうだった。


 何にせよ、フュルト中尉について取り敢えず片が付いた、と思っていたのだが、



「大隊長、来ていらしてたんですか? 丁度いろいろ報告したい事がありまして……」


「ウルム准尉……?」



 衛生兵小隊長ウルム准尉が報告にやって来た。それだけなら問題なかったのだが、



「…….それに、シャル? ……てっ、これはマズイ!」



 そう、ウルム准尉と一緒にシャルも居た。そして、こっちに美少女好きの変態フュルト中尉が居る。シャルも美少女と言って過言はない可愛い女の子だ、それがフュルト中尉の視線に入った場合どうなるか。



「び、美少女、はっけ〜んっ! あの子なら、私と一緒に寝てくれるかも!」



 当然、フュルト中尉はシャルをロックオンする。そして、先程アンナにした様に、変態紛いの行為に走るだろう。


 その危険を、エルヴィンとアンナが察知し、行動するよりも早く、フュルト中尉が駆け出し態勢を整え、そして、全速力でシャルに向け、猛ダッシュした、


 かに思われた。



「中尉、自重しろ!」



 ガンリュウ大尉がフュルト中尉の後ろ襟を掴み、制止させる。そして、ガンリュウ大尉はそのまま、危険がシャルに向かぬよう、フュルト中尉を引きずりながら離れていく。



「美少女、可愛い美少女、見付けたのに! 美少女おおおおおおおおおおおっ‼︎」



 まるで断末魔の如く叫びながら、フュルト中尉はガンリュウ大尉に連れられ、その場を後にした。


 最後まで美少女愛を叫ぶフュルト中尉。それにエルヴィンとアンナは呆れるしかなく、彼女がもたらす危険を防いでくれたガンリュウ大尉には、感謝を心の中で送るのだった。




 そんな演目があった事など知るよしもないウルム准尉とシャルが到着し、エルヴィンとアンナは気持ちを切り替えて対応する。



「ウルム准尉、今日は何の用だい? それにメールス二等兵も連れて……」



 エルヴィンがシャルに目を向けた時、思わずエルヴィンの口元が(ほころ)んだ。

 シャルは軍帽を被らず、獣人族としての耳と尻尾を出しており、衛生兵小隊の兵士達が彼女を差別しなかった事、彼女の獣人としての卑下が薄れた事を、エルヴィンは感じ取ったのだ。


 それを喜ぶエルヴィン、その視線に気付いたシャルは、改めて良い仲間達に出会えた事を喜び、照れ臭さそうに、嬉しそうに笑みを(こぼ)すのだった。



「大隊長? どうなさったのですか?」


「いや、ちょっとね……すまない、ウルム准尉、話を始めてくれ」



 ふと嬉しさに浸っていたエルヴィンだったが、少し気を引き締めた。未だ、戦いが終わった訳ではなく、気を緩めるには早かったからだ。

 それでも、シャルが自分を見せるようになった、その喜びは、ずっと心の中に残るのだった。

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