4-72 感謝の逆効果
帝国軍第3、第8、第10軍団各本陣の塹壕手前への移動が完了し、エルヴィンとアンナは、ガンリュウ大尉達と合流した。
「ガンリュウ大尉、無事だったか……」
「お前も元気そうで何よりだ。まぁ、死んでる筈もないがな」
「あはは……そうだね……」
自分の安易な行動の所為で、前線で部隊の指揮を執れなかったエルヴィン。ガンリュウ大尉は嫌味で言った訳ではなかったが、結果として、部下達とは違い安全地帯に居たエルヴィンとしては、申し訳なさがチクチク道徳心に刺さるのだった。
「ガンリュウ大尉、味方の被害はどのくらい出てる?」
「まずは安心して良い、死者は無しだ。負傷者32名の内、重傷5名だが、全員、命に関わるレベルではない」
「そうか……それは良かった……」
嬉しそうに、安堵するように、笑みを零しながら、エルヴィンは肩を撫で下ろした。
「部下達に死者が出なかったのは良かったけど……帝国軍全体では、かなり居るんだろうなぁ……」
「あぁ、最前列の部隊は、あちこち全滅した所もあるくらいだからな」
「そうか……そんな中、死者0なのは、やっぱりガンリュウ大尉や、ジーゲン、フュルト中尉が居てくれたからだね。ありがとう」
部隊長が部下に、部下達を守ってくれた事を感謝する。何ともおかしな光景ではあった。
それはエルヴィンの優しさ、お人好しさを物語っていたが、ガンリュウ大尉としては、照れ臭さもあり、呆れも感じるという所だった。
「お前な……いちいち簡単に感謝するな! 上官である俺達が兵士を守るのは当たり前で、お前にワザワザ感謝される言われはない!」
「うん……あぁ……そうだね、確かに……」
「しかも、いちいち感謝すると、お前の感謝の価値が下がるぞ! もう少し自重しろ!」
「うん、はい……それは、すみません……」
感謝したのに、何故か謝る事となったエルヴィンに、隣に居たアンナは、ふと零しそうになった笑いを、我慢するのだった。




