4-60 招集
アンナと別れ、先に自分のテントへと戻ったエルヴィンは、徹夜にならないよう、早速、椅子に座って書類を片付けようとペンを握った。
「邪魔するぞ!」
ガンリュウ大尉がやって来た事により、折角握ったペンをエルヴィンは机に転がした。
「大尉、なんの用だい? これから書類を片付けようとしていた所なんだけど……」
「それは残念だ。せっかくのお前のやる気を邪魔する事になるとはな……」
いつも通り無愛想ながら、人を馬鹿にする様な話し方をしたガンリュウ大尉だったが、エルヴィンは別に呆れる様子もなく、笑みを浮かべながらも、真剣に尋ねた。
「何か命令が来たのかい?」
「ああ、エッセン大将が戻ったから、将官と各独立部隊長は作戦室に集まれ、だそうだ」
「そうか……これで、大体の戦況は分かるね」
エルヴィンはせっかく落ち着けた腰を上げ立ち上がったが、その表情には不満以上に、心配する様な陰りが見受けられた。
「戦況が悪くなければ良いけど……」
エルヴィンが零した言葉に、ガンリュウ大尉は眉をひそめる。
「一応、優勢なのだろう? 大丈夫じゃないのか?」
「私が心配してるのは、"勝っているかどうか"じゃなくて、"どれだけの死者が出ているか"、だよ」
エルヴィンのその言葉に、ガンリュウ大尉は納得した様に、自分の考えを恥じる様に、苦笑を浮かべるのだった。
自分のテントを後にし、早速、第10軍団作戦室のあるテントへと向かったエルヴィン。テントでは、既に、召集された士官達が戦場の周辺地図が貼られた黒板を前に、並べられた椅子に座っており、彼は空いている椅子へと腰掛けた。
そして、丁度、第10軍団長エッセン大将が前に現れた事により、エルヴィンを含めた士官全員が一斉に立ち上がり、大将に敬礼を向ける。
「皆、御苦労! これより、今の戦況と、これからの作戦について伝える!」
そう告げたエッセン大将は、右手で全員に座るよう促し、士官達は敬礼を解き、椅子に座り、大将の言葉に耳を傾ける。
まず最初に、現在の戦況は、敵塹壕部隊の残存兵力およそ2万、帝国別働隊の残存兵力およそ7万と明らかに帝国側が優勢であった。
更に、帝国側には約3万の兵力が合流し、戦力比は1対5。敵にも戦力増強がされていると仮定しても、確実に塹壕を落とす事が出来る戦力差である。
そして、帝国軍別働隊に兵力が集結した。その意図する所は、この場の全員が気付いていた。
「明朝0300時、敵への総攻撃を決行する!」
その瞬間、全員に緊張が走った。
総攻撃。つまり10万の兵力ほぼ全てを使い、敵塹壕へ攻撃を仕掛けるという事であり、それだけの兵力を動かす事は、つまり、一気に戦いの決着を着ける、という意図か読み取れたのだ。
戦いの終結。それを意図する作戦に、緊張を感じぬ者は居ない。
「10万の兵力を持って、一気に敵塹壕を制圧! その機に乗じ、敵要塞攻略部隊を側面から叩く! 殲滅できずとも、それで敵は撤退するだろう」
塹壕を突破された時点で、敵要塞攻略部隊は丸裸になる。それだけで、敵が撤退するのは確実ではあるが、しないという可能性がある。その場合、下手に時間を置くと、迎撃態勢を整えられる可能性がある為、勢いに乗じ、一気に決着をつける。理にかなった作戦と言えた。
「これより、各部隊の配置を発表する!」
合流した各部隊の配置が告げられ、エルヴィン達、第11独立遊撃大隊は、幸いにして、生存率の高い、攻撃時の最後尾に配置された。
「一通り、配置は発表されたな! これより何も質問が無ければ解散とする!」
士官達は最終決戦に胸を震わせ、心配に心が締め付けられ、質問などする気も、気配も無い中、只1人、エルヴィンだけが手を挙げた。




