4-52 兵士の成長
ガンリュウ大尉と別れたエルヴィンは、アンナと書類を片付けると、一時的に休憩を貰い、野戦病院へと向かった。
野戦病院は、第10軍団の物である巨大なテントに、司令部の命令で合流した部隊の兵士も加わり、大規模な物となっている。
野戦病院に入ったエルヴィン。彼は早速、自分の部下達の様子を確認するべく彼等の下を訪れた。
「だ、大隊長!」
1人の兵士がエルヴィンの存在に気付き敬礼を始めると、連鎖的に彼の部下達全員、重傷の者は寝たまま、軽傷の者は起き上がり、衛生兵達は立ったまま敬礼した。
その様子に、エルヴィンは少し気まずそうに苦笑し、頭を掻く。
「こんな所で敬礼は必要ないよ。他の兵士達の迷惑にもなりかねないしね」
そう言われた兵士達は、敬礼を止めると、自分の威厳を示す敬礼を断るなど、やっぱり変わった人だと、軽く笑いを零すのだった。
その後、負傷した仲間1人1人と話しをしたエルヴィン。その内容はあたり触りのない物であった。
故郷について、家族について、自分の思い出や夢について。しかし、それは兵士達を元気付けるには十分だったのだろう。その1帯を笑いが満たしていった。
最後の負傷兵と話を終えたエルヴィン。彼は仕事に戻ろうとし、立ち上がるのだが、その前にウルム准尉が現れる。
「ウルム准尉、私に何か用かい?」
そう問われたウルム准尉。すると、彼は突然、エルヴィンに頭を下げた。
「この度は大隊長に多大なる非礼を繰り返しました事を謝罪します。申し訳ありませんでした!」
ウルム准尉の謝罪を受けたエルヴィン。唐突の事に少し驚き立ち尽くすのだが、直ぐに頭を上げるよう促し、ふと微笑みを浮かべた。
「君は変わったね」
「そうでしょうか?」
「前の君だったら、私に謝るなんて事はしなかっただろう?」
「あっ! あははは……」
痛い所を突かれ、准尉から罪悪感混じりの乾いた苦笑いが零れる。
「それは申し訳ありません……」
「いや、良いよ。君は良い方向に成長してくれた。それが言いたかっただけだから」
部下の成長、働きを当然と思う事なく褒め、賞賛するエルヴィン。そんな大隊長を前に、ウルム准尉に少し嬉しさが込み上げた。
褒められた自体もそうだが、成長が分かる程自分を見てくれる。こんな良き指揮官に出会えた、という誇らしさが大きかったのだ。
「大隊長、貴方に出会えて良かった。貴方のお陰で、自分の愚かさや未熟さに気付く事が出来ました」
「私は何もしてないよ。それより御礼なら、メールス二等兵に言うべきじゃないかな? 落ち込んでいた君を元気付けてくれたのは彼女だろう?」
昨日、ウルム准尉は負傷兵の治療中に、劣悪な環境に耐えきれず、吐き、自信を消失した。そこを、メールス二等兵が励まし、元気付け、立ち直してくれたのだ。
「大隊長、見ていらっしゃったんですか⁈」
「実はね……偶然訪れた時に……」
「それは、お恥ずかしい……」
苦笑いしながら、ウルム准尉は照れ臭そうに頭を掻いた。
「確かに、彼女には感謝しかありません。後で、御礼を言っておきます」
「うん、それが良い」
ウルム准尉の成長。それにより、衛生兵部隊の雰囲気は確実に良くなっていた。そして、それは他の部隊も同様だと言えただろう。
武神との戦い、命に関わる危機を経て、共に戦った同士として、兵士達の結束が強まり、個人的な能力も上がり、部隊は良き方向へ傾いていたのだ。
それを兵士達と接して肌身に感じたエルヴィンは、それを喜ばずにはいられなかった。




