4-44 謎の案
休息中のガンリュウ大尉、治療に追われるウルム准尉を除いた第11独立遊撃大隊の士官達は、会議室用のテントにてテーブルを囲み、唸りながら、ある人物を待っていた。
「大隊長、遅いですね……」
そう呟いたジーゲン中尉。筋肉隆々の外見とは裏腹に、基本、穏やか性格をしている彼はいつもと変わらない様子だったのだが、他の者達はそうはいかなかった。
現在、部隊の状況は深刻であり、それを打開しようとしての会議をしているにも関わらず、部隊の長たる大隊長が遅れているのは、一見すれば無責任とも取れたのだ。
この場のほとんどの人間は、エルヴィンがその無責任だと断定し、怒りを露わにしていたのである。
「まったく……私にはアンナちゃんを貸さず、美少女成分を我慢させておいて、自分は面倒臭さを我慢しないなんて……最低な大隊長です」
「フュルト中尉のそれは別問題だ!」と誰かが突っ込む所であったが、全員そんな気持ちの余裕はなく、言葉を喉に押し込んだ。多くの者は、大隊長への怒りで精一杯だったのだ。
そんな風に、士官達がエルヴィンへの怒りを内に秘める中、そのエルヴィンを呼びに行っていたアンナが戻ってきた。
「あっ、フェルデン少尉、戻られましたか……大隊長は如何でしたか?」
アンナに声を掛けたジーゲン中尉だったが、彼女の様子が少しおかしい事に気付いた。明らかに、元気が無く、暗く、寂しそうであったのだ。
「少尉、どうかされましたか?」
「中尉……」
少し心配気味のジーゲン中尉に、アンナは周りに心配をかけまいとして、微笑で気持ちを紛らわせた。
「大丈夫です、お気遣いなく」
「そう、ですか……なら、良いのですが……」
ジーゲン中尉は、やはり元気なさ気なフェルデン少尉を心配しながらも、自分ではどうする事も出来ないと悟り、そっとしておく事にした。
そんな時、テント入口の天幕が勢いよく開き、1人の男が入ってくる。
そう、信用が暴落し始めていた大隊長、エルヴィンである。
その存在に気付いた士官達は、堂々と遅刻した事への罵倒を浴びせようとするのだが、それよりも早く、エルヴィンは士官達が囲んでいたテーブルを思いっきり両手で叩き、士官達を見渡し、告げた。
「"相撲"をしよう‼︎」
「「「…………は?」」」
唐突に意味不明な言葉を彼は口走った。




