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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第4章 ヒルデブラント要塞攻防戦
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4-42 解決策と

 メールス二等兵のお陰で気持ちが軽くなったエルヴィンだったが、まだ大変な状況である事に変わりはなかった。



「さて、兵士達の士気、如何(どう)やって上げようか……」



 兵士達の士気の低下。その問題を解決しない事には、今後の自分達への死の恐怖が軽減される事はない。



「大隊長、やっぱり悩んでいるんですか?」


「うん、どうもね……なかなか良い案が浮かばないんだ。兵士達に士気を、戦え前に戻すぐらいはしたいんだけど……やはり、これといったモノがね……」



 古代から現代に至るまで、戦争に於ける兵士の士気は、かなり重要であった。

 士気は(すなわ)ちやる気に直結し、やる気が無ければ個々の能力が十分に発揮されない。

 結果として、戦力が大幅に低下してしまうのである。



「さて、どうしたものかな……」



 腕を組み、考え込むエルヴィン。その横でメールス二等兵もいっしょに考え始める。



「酒を振る舞う……いや、お酒自体が無い。しかも、多くの兵士が未成年だ。戦って勝利する……それは会議の時に無意味と結論付けている。う〜ん……」


「何かパーティー、賑やか食事会の様な物を開くというのは如何(どう)ですか?」


「パーティーにも、やはりお酒がいるし、賑やかし自体に、やはりお酒は欠かせない。そもそも、食事があれではね……」



 手元にある物は、缶詰にスープ、硬いパン。明らかに賑わいには欠ける食事だろう。



「士気を上げるには、盛り上がる物をやる、与えるのが一番なんだけど……そんな物自体が無い。やれやれ……本当に困るよ……」



 溜め息を(こぼ)すエルヴィン。そもそも戦場で兵士を元気付けられる物自体が限られてしまっている。そこから兵士の士気を取り戻すなど無理難題だろう。


 溜め息を()く大隊長。すると、その姿を見たメールス二等兵はふと、彼がいつも兵士達としている物を思い出す。



「トランプ! トランプ大会なんて如何(どう)ですか?」


「トランプかぁ……」


「駄目、ですか……?」


「駄目という訳ではないけど、やっぱり地味だね」


「そうですか……」



 出した案に少し自信があったのか、メールス二等兵はエルヴィンに案を否定されて、少ししょんぼりと肩を落とした。


 エルヴィンはそんなメールス二等兵の様子に、少し罪悪感混じりの困った顔をしながら、ある出来事を思い出す。


 トランプといえば、アンナに賭けトランプしてた事がバレて、長々と注意されたなぁ……あの時は本当に、辛か…………ん? 賭け?


 エルヴィンにこの時、1つの閃きがもたらされた。



「賭け……これは盛り上がるなぁ……問題は、何に賭けさせるか、だけど……トランプだと地味すぎるし、馬が居るし競馬、なんて出来る訳ないし……殴る蹴るの怪我するやつなんてもってのほかだし……う〜ん、やっぱり無理かなぁ……」



 閃きがもたらされたものの、それを生かす物が浮かばないエルヴィン。



「良い案だと思ったんだけどなぁ……」



 せっかく浮かんだ案だったが、使い所が見付からず、別の案を考えようとした。


 その時だった、



「ガンリュウ大尉が居ないと、過酷な訓練が無くていいな!」


「本当、大尉の訓練、過酷過ぎるんだよ……」



 ガンリュウ大尉について話す2人の兵士の会話が耳に入ったエルヴィン。そして、



「あっ! あれがあった!」



 案が生かせる案が、唐突に彼の頭に浮かんだ。



「そうだ! あれを賭けに使えば……でも、ガンリュウ大尉には怒られそうだなぁ……」



 ガンリュウ大尉には怒られるかもしれない。しかし、それを除けば悪くない案であり、この状態では最善の案だと言える。


 中、小隊長達の意見を聞かなければいけないとはいえ、取り敢えず打開策は決まり、ふとエルヴィンは安堵の吐息を(こぼ)す。

 そして、次に、まだしょんぼりしていたメールス二等兵に、彼は優しい笑みを向けた。



「メールス二等兵、ありがとう、君のお陰で良い案が思い浮かんだよ」


「……へ?」



 突然の感謝にメールス二等兵は驚いた。そもそも、自分が貢献したモノに心当たりがなかったのだ。



「私……良い案を出した覚えがありませんけど……」


「トランプ大会って言っただろう? それから良い案が連想できたんだ」


「それ……私のお陰と言うより、大隊長の閃きが良かっただけ、だと思いますけど……」


「……そうかい?」


「そうです……」



 メールス二等兵に指摘され、エルヴィンは一瞬キョトンと立ち尽くした。しかし、直ぐに、ふと笑いを(こぼ)し始める。



「そうだね、そう言われればそうだ!」



 エルヴィンは笑い続け、その様子に最初は驚いていたメールス二等兵も、釣られて笑い出した。


 そして、そんな2人を祝福するかの様に、天から光が差し込み始め、それは少しずつ広がっていき、空を青色が支配し始める。


 笑い続けたエルヴィンも暫くして笑い終えると、改めてメールス二等兵に笑みを向けた。



「メールス二等兵、今日は色々とありがとう。君のお陰で、これから何とかなりそうだよ」


「いえ、私は大した事はしていません……やっぱり、大隊長が凄いんです!」


「メールス二等兵、それは買い被りだよ」



 メールス二等兵からの褒め言葉を、エルヴィンは照れ隠しと、自分の自惚れ防止も兼ね、肩をすくめて誤魔化すのだった。

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