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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第4章 ヒルデブラント要塞攻防戦
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4-32 苦境

 煙に覆われた《武神》を前に、状況が読めず固まるガンリュウ大尉。



「大尉!」



 自分の呼ぶ声が聞こえたガンリュウ大尉が声の主を確認するべく振り向くと、そこには杖の先を《武神》に向けるフュルト中尉と、魔導兵数人が立っていた。



「大尉、早く!」



 フュルト中尉の催促と、次々に魔法詠唱を開始する魔導兵達を見て、ガンリュウ大尉は即座に現状を把握し、直ぐに魔導兵達の後ろへ撤退する。


 そして、彼が《武神》から離れたのを見計らい、詠唱を終えた魔導兵達。次の瞬間、彼等の杖の先から炎の玉が次々と《武神》目掛けて放たれた。


 無数の炎の玉に襲われ、爆音と黒い煙に覆われる《武神》。重砲並みの威力を有する[ファイヤーボム]の応酬を真面(まとも)に喰らえば、例え魔術兵であってもタダでは済まない。


 そんな背後から聞こえる無数の爆発音と共に、仲間達と合流したガンリュウ大尉。彼をジーゲン中尉が歓迎する。



「大尉! 御無事でしたか!」



 そこには、部隊で生き残っていた兵士達のほとんどが集結しており、迫り来る敵から退路を守っていた。

 ガンリュウ大尉はいつのまにか、エルヴィン達が待機する森まで退いていたのだ。


 ガンリュウ大尉はジーゲン中尉達を見て安心したのか、我慢していた疲労がドッとのしかかり。足が力を失う様にガクりと膝を曲げ、地面に座り込む。



「大尉、大丈夫ですか⁈」


「怪我は、特に無いが……とにかく、疲れた…….」



 よく見ると、ガンリュウ大尉は滝の様に汗を流し、かなり荒い息使い。手足まで疲労のあまり痙攣を起こしていた。


 その様子を見た帝国兵士達は、大尉がどれたけ苛酷な戦いをしてきたのか、彼程の人物がそこまでしても尚、倒す事が出来ない《武神》の恐ろしさを知り、思わず息を飲んだ。



「大尉、御苦労様でした。後は我々にお任せを」



 ジーゲン中尉はそう言い残すと、通常歩兵を引き連れ、フュルト中尉達の援護に向かった。




 フュルト中尉達は《武神》を相手に、魔法攻撃を緩める気配が無かった。

 《武神》の姿が完全に隠れる程の魔法の応酬。普通ならば骨まで粉々になっている筈である。しかし、描彼を(まと)っている煙が、少しずつ、淡々とフュルト中尉達に近付いており、煙の僅かな間から、《武神》の、余裕の、満面の笑みが見え隠れしていたのだ。



「なんて男なの……」



 フュルト中尉は畏怖を込めてそう呟き、頬を伝う冷や汗を袖で拭った。



「フュルト中尉!」



 その時、ジーゲン中尉が(上半身裸の姿で)兵士達を引き連れ、応援に駆け付ける。



「ジーゲン中尉」


「我々も援護します!」



 ジーゲン中尉はそう言うと、部下達に銃口を《武神》に向けるよう命じ、自分も銃口を小銃を構える。



「撃て‼︎」



 ジーゲン中尉の合図と共に無数の弾丸が《武神》を襲う。


 魔法と銃弾の応酬、流石にこれだけ喰らえば、《武神》もたちまち命を落とすだろう。そう高を括っていた帝国兵達の儚い希望も直ぐに砕かれた。


 《武神》を(まと)う煙は、未だ淡々と距離を縮め来ていたのだ。


 その様子を見た帝国兵達には恐怖心が芽生え、怯みが伝播し始める。



「狼狽えるな‼︎ 奴も我々と同じ人間だ! 急所にダメージを受ければ奴も死ぬ! それに、魔力も無限じゃ無い! 魔力が切れば奴は丸腰同然だ! 攻撃を緩める事無く、奴の魔力を削り続けろ‼︎」



 そう兵士達を奮起させたジーゲン中尉だったが、彼自身も目の前の化け物を倒す光景を、どうしても頭に浮かべる事は出来なかった。


 更に、当然、敵は《武神》だけでは無い。《武神》以外の共和国兵も、組織的な戦闘を始めてしまう。


 《武神》を始めとする共和国軍との長時間の戦闘で、部隊の兵力は減少、兵士1人1人も疲労し、これ以上の戦闘継続は困難だった。


 それに対し、敵は余裕の戦力を有している上に、未だ万全の状態の《武神》が居る。


 戦力差は絶望的。最早、勝利を得るのは不可能どころか、1人残らず全滅の危機に中尉達は晒されていた。


 帝国兵士達は、何とか心身共に削りながら戦いを続けていたが、次々と凶弾に倒れていく。


 撃たれた者、斬られた者、少しずつ、だが確実に、中尉達の兵力は削られ続けていたのである。



「ジーゲン中尉、もう駄目です! このままでは我々は全滅です!」


「このまま敵に背を見せれば、それこそ全滅だ! もう少し踏ん張れ! 大隊長がきっと、どうにかしてくれる」



 ジーゲン中尉は自分に言い聞かせる意味も込めてそう告げ、白旗を上げたいと叫ぶ自分の衝動を抑えんだ。


 不安と恐怖に包まれる帝国兵達。勝利の高揚感に昂ぶる共和国兵達。


 そして等々、《武神》への攻撃を続けていた魔導兵達の魔力も底を尽き、魔法攻撃が止んでしまう。


 魔法が止み、周りの煙が晴れた事で、敵魔導兵の無力化を悟ったラヴァル少佐は、敵自体が満身創痍の状況である事を察した。そして、戦闘がもうすぐ終わってしまう事を思い、それを惜しみ始める。 



「楽しい時間もあっという間だったな……今回の敵はかなり楽しかった。全滅させるのが惜しいなぁ……」



 ラヴァル少佐を始め、その場にいる誰もが、共和国軍の勝利で終わる、そう確信した。


 満身創痍の帝国軍。最強の魔術兵を有し、兵力も余裕を保つ共和国軍。これだけ揃えば誰でも共和国軍が勝利すると考えるだろう。


 次の瞬間、1つの爆発音が戦場に響き、全ての感情をリセットさせる迄は。

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