4-30 焦りと鈍り
部隊の状況を見て、更に苦々しい表情を浮かべるエルヴィン。先頭部隊は何とか撤退を開始してくれたが、分散した敵も完全に集結し、もし、撤退出来たとしても、敵を振り切るのは最早、不可能だったのだ。
どうする! どうする‼︎ 考えろ! 考えろ‼︎ 捻り出せ! 何としても捻り出せ‼︎
エルヴィンは必死で考え、思考し、策を思い付いては、無価値な物を消す。それを何度も繰り返した。
しかし、決定的な策を思い付かず、憤りを露わにしながら、頭を掻き毟しる。
「クソッ‼︎」
エルヴィンが自責の念にかられ、自分への怒りが滲み出す。
「駄目だ! 何も浮かばない! これで隊長とは、何とも腹立たしい!」
自分を嘲笑い、怒り、責めるエルヴィン。彼はもう1度頭を掻くべく手を伸ばす。
しかし、
「テイッ!」
後ろから、後頭部に強烈なるチョップが浴びせられ、エルヴィンは戸惑いと驚きで目を丸くしながら、ジリジリ痛む後頭部を抑え、後ろを振り向いた。
背後では、アンナが右手で手刀を作って立っていた。
「何をするんだアンナ?」
自分への怒りを彼女へと向けないよう、押さえ込まれて告げたエルヴィン。それに、アンナは少しムスッとした真面目な面立ちて告げる。
「エルヴィン、思い詰め過ぎです! それが表情に出て、兵士達が動揺していますよ?」
アンナの忠告を聞き、エルヴィンは辺りの兵士達の様子を見渡した。そして、兵士達が心配そうに此方視線へ向けていることに漸く気付き、彼は内に抑えたは怒りも鎮め、後悔する様子で頭を掻く。
「私とした事が……兵士達に心配を掛けさせてしまっていたのか……」
エルヴィンは頭を掻いた後、気持ちを落ち着ける為、深呼吸をした。そして、いつも通りの笑みを浮かべる。
「ちょっと冷静じゃ無かったね。すまない、心配を掛けた」
調子が戻ったエルヴィンに、アンナは安堵すると、改めて彼を諭す。
「自分の行動に責任を感じる。それは悪い事ではありません。……ですが、貴方は責任を感じ過ぎて、自分の至らなさに気付いたら直ぐ、自分を責める癖があります。自責に頭が支配された人は、そればかりに考えが動かされ、まともな思考が出来無くなりますよ?」
「そう、かもしれないね……以後、気を付けるよ」
尤もな注意をされ、エルヴィンは少し苦笑いをした。
気持ちがある程度落ち着いた所で少しクリアになった頭を再び動かすエルヴィンだったが、悩まし気な様子に変わりはない。
「さて、これから如何しようかな……」
改めて考え始めるエルヴィン。すると、アンナは、彼が右手で頭を摩っている事に気付く。
「エルヴィン、まだ痛みますか?」
「うん、痛い。結構、強く叩かれたからね」
「すいません……」
「本当、背後から叩かれた時は驚いたよ。死角から迫られるのは、誰か分からなくて怖いから…………」
この時、エルヴィンが何かを思い付いた様子で、顎を摘み、考え込んだ。
「後ろからの攻撃、集結した敵、森の中……うん、いけるな……」
エルヴィンの表情に笑みが零れる。
「アンナ」
「はい?」
「フュルト中尉と狙撃兵小隊を呼んできてくれないかな?」
「何か良い策を思い付いたのですか?」
「まぁ……一応ね」
エルヴィンの指示を聞いたアンナは、直ぐに、フュルト中尉と狙撃兵小隊を呼びに向かった。




