表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第4章 ヒルデブラント要塞攻防戦
100/450

4-28 脅威の影

 エルヴィン達、後方部隊は、撤退を始めた前線部隊の援護をしつつ、退路の確保を続けていた。

 すると、一部の兵士が戦闘を継続し、ガンリュウ大尉がそれを抑えに行ったという報告が、彼等の耳に入る。



「やはり、こうなったか……」



 眉をしかめるエルヴィン。彼は悪い事態を阻止できなかった事を悔いた。


 兵士達は戦闘を経験する内に、戦う事に対して自信が付いた。兵士達の動きが最初より良くなったのは、それが要因である。


 しかし、それは万全にでは無い。


 万全に付くまでは、より多くの戦いを経験しなければならず、2、3回の程度では身に付かないのだ。


 万全に至るまでの中途半端な状態、未熟な自信が付いた状態で、何人かの兵士は、何かをやらかす事をエルヴィンは予期していた。


 そして、その予期が今、見事に的中してしまったのである。



「中途半端な自信は自惚れの原因になる。それを元に、兵士の数名が何かするとは思ったけど……まさか、こんなに早く起こるとはね……」



 エルヴィンは深刻な表情で打開策を考える。時間が経てば経つ程、敵が集結し、追撃の苛烈さが増してしまう危険があったのだ。


 しかし、打開策が少しも思い付かず、憤りのあまり頭を掻き毟り、その後、取り敢えずの命令を彼は下す。



「総員、前線の味方が撤退するまで、退路の確保に専念せよ!」



 それが時間稼ぎでしか無い事をエルヴィンは分かっていた。しかし、考える暇を作れる上に、ガンリュウ大尉が暴走した兵士を連れて撤退する(まで)の時間を作れる事は出来る。


 大尉、暴走した兵士達引き連れ、出来るだけ早く引いてくれ……撤退のタイミングを逸する前に……。


 エルヴィンは心の中で念じつつ、必死で思考を働かせるのだった。




 その頃、ガンリュウ大尉は襲って来る敵を撃破しながら、未だ暴走を続ける兵士達を制止し続けていた。



「もう十分だろ! 早く撤退しろ‼︎」



 しかし、兵士達は聞く耳を持たず、ひたすらに敵を追い掛け回し続ける。



「不味いな……このままだと、退路から離れ過ぎる」



 ガンリュウ大尉は退路を敵に封鎖される事を危惧するが、そんな中、また3人ほどの敵がガンリュウ大尉へと同時に襲い掛かる。


 大尉は考えている所を邪魔された不快感を抱きながら、敵の1人を斬り伏せ、もう1人の首を刎ね、軽々と労せず敵2人を撃破した。


 その光景を目の当たりにした最後の1人は、恐怖のあまり、背中を見せながら逃げ出す。


 それは、追撃の好機だったろう。しかし、ガンリュウ大尉は背後の味方との距離が気になり、追う事はしなかった。


 しかし、



「逃すか!」


「俺の手柄だ!」



 2人の帝国兵が逃亡した敵兵を執拗(しつよう)に追い掛け始める。



「深追いするなと言っただろう‼︎」



 暴走した兵士達の手綱を、何とか握ろうとしたガンリュウ大尉だったが、最早、指揮系統はガタガタ、彼の命令に耳を貸す者は居なかった。


 ガンリュウ大尉は、敵を追い掛けた2人を連れ戻そうと、彼等を追い掛けるが、突如として彼を悪寒が駆け抜ける。



「敵に、何か居る!」



 そう感じたガンリュウ大尉。彼は今迄に無い猛烈な圧を敵から感じ、鋭く眉をしかめる。


 瞬時に、このままでは不味いと直感した彼は、兵士2人を止めようと、叫ぼうとした時だった。2人の帝国兵の胴に1つの線が入った。


 その瞬間、2人の帝国兵の動きは完全に停止し、そして、その線を境に、彼等の胴は2つに分かれ、上の胴はずり落ち、下の胴は地面に倒れた。

 

 それを見ていたガンリュウ大尉は足を止め、2人の帝国兵の死体の前に立つ、男の存在に気付き、1粒の冷や汗を流す。



「"ボンジュール" 帝国兵諸君! 俺の狩り場へようこそ!」



 満面の笑みでそう叫んだ男。彼は巨大な剣を右手に握り、燃える様な赤い髪を(なび)かせ、同じく燃える様な赤い瞳を輝かせる。何より、2メートルはあろう高身長が異様な威圧感を出していた。


 その姿を見た帝国兵は、死の恐怖に襲われ、怯えたように震えだした。彼等はガンリュウ大尉も含めて、その男を知っていたのだ。


 そして、ガンリュウ大尉は、畏怖の念を込めて男の名を口走る、



「"《武神》、シャルル・ド・ラヴァル"……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ