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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第1章 ヴァルト村の戦い
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1-8 共和国軍本陣にて

 世暦(せいれき)1914年4月26日


 帝国、共和国、両軍共に攻め手を欠いたまま膠着状態(こうちゃくじょうたい)が続き、侵略側である共和国軍には焦りが見え始めていた。




 共和国軍本陣にて、ブリュメール軍の軍服を着た巨漢の指揮官らしき男は苦々しく、怒り混じに奥歯を噛み締めた。



「未だ、敵本陣の状況は分からんのかっ‼︎」


「8つの偵察部隊からの通信は途絶。残りの部隊は敵からの攻撃で足止めを受けています。その為、情報がほとんど入りません!」



 エルヴィンの策は、共和国軍を想定以上に苦しめていた。


 侵略側にとって、攻略目標の情報入手は急務である。特に、敵守備隊兵力の情報が無ければ策の立てようが無い上に、もし敵の数が倍以上ならば、拠点攻略を諦め、撤退を視野に入れなければならないからだ。


 敵情を知れず、何も出来ないまま時間が只過ぎている現状に、巨漢の男はもどかしさのあまり苛立ちを露わにする。



「独裁者の尖兵共が……小賢しい真似をしやがって……戦いが長引けば、補給線が長いこちらが不利だ! いっそ全軍で攻めるか……?」



 巨漢の男の無謀な発言に、危機感を感じた副隊長は口を挟んだ。



「いけません! 敵の兵力が分からない今、敵地の森に突っ込むのは自殺行為です! もし、敵がこちらの兵力以上なら、土地勘の薄い我々はたちまち全滅です!」


「分かっとるよ、そんな事は……だが、兵糧が心許ないのは事実だ。今は大丈夫だが、後々無視出来なくなる。そうなれば、我々のとる行動は撤退しかない」


「確かに……形だけでも、帝国に勝利をやるのは気持ちの良い話では無いですね……」


「それならば、全軍で突撃し、玉砕した方が良のではないか?」



 話を聞いた副隊長は、考えを改め、巨漢の男の意見にも一理あると、理解を示す様に頷いた。



「玉砕した方が良いだと⁈ それはお前らだけの価値観だろうが‼︎」



 2人の話を盗み聞きしていた男が、空き箱に座りながら、巨漢の指揮官達には聞こえない声量で呟いた。


 男は、赤い髪と赤い瞳を持つガタイの良い若い男の兵士で、年齢は25歳ぐらい。身長は2メートル近くもあり、軍服の上からでも分かる強靭な肉体と合わさり、異様な圧を放っている。



「お前等の作戦で犠牲になるのは、お前達だけじゃねぇ! お前等の部下だって犠牲になるんだ! 部下達も、お前らと同じ考えだと思うなよ?」



 己が価値観だけで部下達をも道連れにしようとする指揮官に、赤髪の兵士はどうしようもない苛立ちを感じざるを得なかった。



「それを、隊長達に直接言ってはどうかね?」



 赤髪の兵士が文句を(こぼ)す中、それを聞いた壮年兵士がやって来て、そう諭した。


 壮年兵士は年齢40歳ぐらい。戦いを目前に控えているにも関わらず落ち着き払った様子から、歴戦の猛者であることが伺える。


 壮年兵士の言葉を聞いた赤髪の兵士。彼はその言葉に苦笑いで返した。



「御冗談を……もし言ったら、お前には共和国軍人としての誇りはないのか! とか言われて終わりですよ。そして、俺は前線から外され、俺の部下達に撤退命令が出せなくなります」


「なるほど、案外考えているのだな?」


「まぁ、部下がいる立場ですからねぇ……でも、何もしない訳じゃないですよ?」


「ほぉ?」



 壮年兵士は興味深そうに耳を傾けた。



「では、君は何をする気だね?」



 赤髪の兵士は立ち上がると、また、苦笑を浮かべる。



「無駄な犠牲が出ないよう祈るんですよ」



 皮肉を述べた赤髪の兵士は、壮年兵士に背を向けると歩き出し、自分の部隊の方へ向かい、その背中を見ながら、壮年の兵士は、赤髪の兵士の言葉対し、同じく苦笑いをするしかなかった。

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