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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第三章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【上】
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集結する話

 クラムは今夜も、うなされている様だった。

 日中こそ気丈に明るく振る舞う彼女だが、夜になると途端に気が弱くなり、怯え始めるのだ。それをクラムが隠そうと努めている事も、私は知っている。

 暗闇の中で眠るのが怖いからと、照明の点けられた寝室でクラムは辛そうな表情で眠っていた。

 それが痛ましくて、私は彼女の手を握る。


 ここはアリエッタが借りている高級宿の部屋だ。

 今夜ここでミカ達と落ち合う約束になっているので、いったん帰ってきたのだ。

 ネネッシュは結局戻らず、クラムが独りになる事を嫌ったため、アリエッタに頼んでついでにクラムもここで寝かせてもらっている。


「やめてっ!」


 悲痛に叫んで、クラムが目覚めた。

 見開かれた瞳が私の方へと向く。


「……ミューさん?」


「大丈夫。ここは安全ですよ。私が見張っていますから、安心して」


 クラムの汗を、軽く拭ってやる。


「……ネネッシュは、まだ戻りませんか?」


「分かりません。彼女はこの場所を知りませんから」


「あぁ……もう一度、魔法、かけてもらってもいいですか? これじゃあ、眠りたくても眠れない」


「承知いたしました。リヴ・スリーファ……」


 クラムへ睡眠魔法をかける。

 彼女はゆっくりと目を閉じて、穏やかに眠り始めた。しかしこれも最初だけで、三十分もすれば目覚めてしまう。

 自分の足が切り取られていく様をその眼で見たトラウマは、そう簡単に消し去れるものではないのだろう。


「すぐに、戻りますね」


 眠るクラムへそっと声をかけて、私は一度寝室を離れた。

 リビングへ移ると、応接用のソファーの上で新聞を広げていたアリエッタが、顔を上げた。


「あの子の様子はどう?」


「酷いですね。ほとんど三十分おきに目が覚めています」


「そう。可哀想に……」


 アリエッタも辛そうに、眉を寄せる。


「ミュー、悪い知らせがあるわ」


「……聞きましょう」


 アリエッタはテーブルの上に置かれた書類の一つを、私の前へと流した。

 手に取って目を通す。それは、アンデレトワ家の人間の調査書だった。

 そこに載っている名前に、私は少しだけ驚く。


「これは……そうですか。"ネルン"というのは、アンデレトワの人間でしたか」


「三男よ。ルーンの弟ね。まったく、兄弟そろってこれとは、恐れ入るわ」


「……ネネッシュ様は、大丈夫でしょうか?」


「気がかりなのはそれね。状況から見て、あの人はおそらく自分の屋敷に戻ったのでしょう。自分の兄を問い詰める為に。―――今までの経験から言って、そういうのは大抵ろくな結果にならない。ネネッシュが無事ならいいけれど……」


 不意に、呼び鈴が鳴った。受付と部屋を繋ぐ、通信機の物だ。壁際に駆け寄り、私は受話器を取った。


「はい、なんでしょう?」


『えー、アイルフィール商会から、イハナ様と名乗る女性がお見えになっております』


「その方は我々の客人です。通してください」


『かしこまりました』


 通信を切り、アリエッタの方へ振り向く。


「アリエッタ、イハナが着ましたよ」


「そう。彼女も来たのね」


 嬉しそうに、アリエッタは微笑んだ。

 それから数分して、部屋の扉を誰かが叩いた。私が扉を開いて出迎えると、廊下にはイハナと、大荷物を抱えたミカが立っていた。

 私の姿を見るなり、イハナが抱き着いて来た。


「ミューさん、お久しぶりっす!」


「お久しぶりです、イハナ。変わりなく、なによりです」


「そりゃそうだろう。お前たちが出てから、まだ一週間しか経ってないぞ」


 ミカが仏頂面で言う。その視線が、早く荷物を降ろさせろと訴えている様だった。


「ミカもご苦労様です。どうぞ、荷物は私が運んでおきますので、そこにまとめておいてください」


「そうか。なら、後は頼む。こいつの荷物は重くてかなわん」


 ミカから荷物を受け取り、二人を部屋へと通す。

 私が荷物を運び入れている間にも、イハナとアリエッタが再会を喜び合う声が聞こえてきた。


「お久しぶりっす、アリエッタ! 元気にしてたっすか?」


「ええ。私達は大丈夫よ。そっちも変わりなかった? ミカも、ご苦労様」


「ああ、大変だったとも。田舎娘のお嬢様をここまでお連れするのは、重労働だったよ」


「もうっ、ミカさんって、すぐそう言う事言うんすから!」


「言うわ! ことあるごとに、飯屋の屋台に釣られやがって。護衛するこっちの身にもなってみろ」


「なにをー! 自分だって、美味しそうに焼き鳥食べてたじゃないっすか!」


「ふふっ、相変わらずですねお二人とも」


 荷運びを終えて、私も三人の輪に合流する。


「さて、積もる話もあるけど。その前に仕事の話をしましょうか」


 アリエッタは無表情に戻ると、深刻な声色で言った。


「ミカ、状況は?」


「ああ。俺以下、三十五名全員が、武装と共にアルフェン入りした。準備はできている」


「そう。ならさっそく、貴方達にはこのエルーシナを探してもらうわ」


 アリエッタはテーブルから写真(転写魔法で刷られたもの。写真機はまだこの世界には無い)を取って、ミカに渡した。


「新聞の切り抜きだから、少し荒いのは許して頂戴」


「……こいつは、何者だ?」


「ネルン・アンデレトワ。ルーンの弟よ」


 瞬間、ミカだけでなくイハナの表情までもが引き締まる。二人にとってアンデレトワは、仇敵なのだ。


「こいつを、殺すのか?」


「貴方達には、彼を探してもらうだけでいい。始末はこっちで着けるわ」


「了解した」


 ミカは事情も聞かずに、それだけで納得した。元より彼は汚れ仕事専門の構成員なので、アリエッタから下された仕事に理由など尋ねない。

 しかし、イハナは別である。


「いったいどういう経緯で、こんな事になったんすか?」


「そうね……この七日間何があったのか、その始まりから順を追って説明しましょうか」


 アリエッタはイハナ達を応接用のソファーへ促し、自身も向かいに座った。

 私はお茶の用意をしながら、アリエッタの説明に耳を立てた。 

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