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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第三章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【上】
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狩る者の話D

 翌日、私はアリエッタと共にセタナという老婆の元を訪れた。セタナは腕利きの情報屋で、サスティバン曰く半獣人街バルヘンクァールの裏の支配者という事らしい。

 アリエッタはクラム達から聞いた"六年前の殺人事件"に興味を持った様で、それに関する調べ物の精査をしにここへ来た。

 彼女が情報を整理している間、私はというと商会の事務仕事を片付けていた。


「―――はい。そうですか。かしこまりました。では、技術顧問にはその様に伝えておきますので……はい。失礼いたします」


 電話を切って、一息つく。電話対応というのは、どうしてこう疲れるのか。高校も卒業していない私が、まさか死んでから事務仕事する事になるとは、物事どう転ぶかなんてわからない物である。

 ちなみに、電話の相手はリアチーヌの軍開発局からだ。

 私は電話の用件を伝えるため、アリエッタの下へ向かった。


「お嬢様、失礼いたします」


「ミュー、電話の相手は誰だったの?」


 アリエッタは作業を止めて、私の方を向いた。彼女の目の前のテーブルには、複数のファイルが整理されて置かれている。


「開発局からでした。レクティバス博士の体調不良につき、今夜の会合は取り止めにしてほしいと。提出書類に関しては向こうから、宿に取りに来るそうです」


「そう。あの博士でも、身体を壊したりするのね。ちょっと意外。わるいけど、宿の方に持って行ってもらえるかしら?」


「承知いたしました。―――どうですか? 何か進展はありましたか?」


「ええ、それなりに興味深い事が」


 アリエッタはファイルの一つを広げて、私に見せる。


「六年前の事件、特徴的なのは三つ。身体の一部が持ち去られた死体。現場に残された魔法陣。そして持ち去られた身体で造られた生死体ゾンビ。クラム達の言うとおり、今回の事件とどこか似ているでしょう?」


「同一犯なのですか?」


「と、思うでしょう? けれど、明らかに違う点を一つ見つけたわ。これは死霊術じゃない」


「死霊術じゃないだと?」


 部屋の隅で静かに本を読んでいたセタナが、反応した。


「ええ。大尉に手配してもらった捜査資料にも注釈が有るのだけれど、この魔法陣、死霊術の物じゃない。それどころか、出鱈目よ。かなり巧妙に寄せているけれど、この陣じゃ魔法なんて使えない。魔法使いでも、よほどの専門家でないと見抜けないようになっているわ。そのせいで、当時の憲兵も、はっきりと特定できていなかったみたい」


「死霊術じゃないのなら、あの動く死体は何だったんだい?」


「どちらかと言えば、こうして部品合わせの人型を動かすのはゴーレムの技術に近いですわ。魔法自律人形の技術ですね。死霊術は魂を操る技術。魂の器の形を変えてしまうのは、死霊術としてそもそも成り立たない」


「いったい、何の目的でそんな事をしたんだ」


「目的を推測するのなら、やはり隠蔽でしょう。アルフェンの街中で五人も殺しておいて、証拠一つ残さないなんて不自然過ぎる。この事件の犯人は、よほど事後処理に長けた人物か、もしくはそういう共犯が居たか。私の予想としては後者ね。遺体の刺し傷から見て、この犯人は怒りを抱えた人間よ。そういう手合いが、冷静に後片付けができるとは思えない」


「隠蔽か。いい線いっているが、それならなおの事おかしい。殺しを隠蔽したいのなら、死体を隠せばいい。だが、この犯人は現場を綺麗に片付けた上で、魔法陣を書いて去っている。魔法陣なんて、筆跡鑑定すれば、証拠になりかねない。隠蔽どころか、証拠を残していってるじゃないか」


 セタナの指摘に、アリエッタは頷いた。


「そうですね。でも、事件自体が隠蔽の対象ではなかったとしたら? 例えばそう、犯行の目的を隠蔽するためだったら?」


「……どういうことだい?」


「この事件、およそ街の認識は、イカれた死霊術マニアの犯行という事になっているのでしょう。死霊術で遊びたいから、女を殺していたと。私も、最初はそう考えていました。禁忌中の禁忌である、死体操作は度々研究者たちを凶行へ走らせる。これもその例だと。でも、それだと辻褄が合わない。

 現場に残されていた魔法陣は出鱈目だし、最後に出てきた生死体ゾンビは死霊術に見せかけた人形魔法の産物。死霊術の研究とは何の関係もない。そもそも、生死体ゾンビを街に解き放つ目的なら、死体を解体する必要すらない。これだけの魔法陣を偽装できる人間が、死霊術にうとくて、ゴーレムしか造れなかったという線もあり得ない。けれど、演出によって誰もが死霊術の実験だと思い込んだ。ただでさえ禁忌だから、死霊術の知識を持った人間なんて、憲兵団にだって少ないでしょうしね」


「印象操作だったと?」


「ええ。犯人像の印象操作です。被害者の共通点と殺し方から言って、この犯人は女性に対して深い怒りを持つ人物と、私は見ています。当時の憲兵団もそう言った可能性を挙げている。狩場を一定の時期で変える程度の注意力はあれど、犯行場所選びは突発的としか思えない所ばかり。下手をすれば犯行の始終を見られかねない。どうみても勢いに任せて、女を殺している。

 なのに、現場を綺麗に片付けて死霊術の偽装までする冷静さと用意がある。それでいて、死体の一部を解体する手間をかけていたり、私の印象で言うのなら一人の人間がやったにしては不自然。勢いで人を殺している奴が、意思表示でも無いのに魔法陣を置いて行くなんて変。適当に描いたならまだしも、手の込んだ偽物の魔法陣を描いていくなんて、用意が良すぎる。それなら、最初からこんな杜撰ずさんな場所選びだってしないはず。

 殺した人間の姿をぼかすために、別の誰かが現場を荒らした様に、私には思えるのよ」


「六年前の殺人鬼は二人組だったという訳かい。殺した人間と、生死体ゾンビを―――あいや、ゴーレムを造った人間は別だったと」


「ええ。それなら、今回の事件と共通点がいくつも見つかる。今回は、殺している人間と、隠蔽する人間、それから生死体ゾンビを造っている人間が別々に居る。昔の事件の犯人に、死霊術の専門家が本当に加わったって所かしら」


「……はぁ、女子供の亡骸を解体していたのが、ただの隠蔽工作だったなんて。なおさら胸糞悪い話だね」


 忌々しいとばかりに言うセタナへ、アリエッタは更に自分の見解を述べた。


「それについてだけは、何とも言えない。魔法陣は隠蔽で間違いないでしょうけれど、死体の破壊は今回の事件でも見られた。連れ去ってから殺しているのに、身体を未だに回収している理由が分からない」


「それだ。そう言えば、それも六年前とは違うね。六年前、唐突に犯行を止めた連中が、なぜ今戻って来たのか。どうして、今度はさらってから殺す方法に変えたのか」


「それについてはもう完全に想像だけれど、一つだけ思い当たる事がある。連中は、犯行を止めていなかった可能性がある」


 アリエッタの予想に、老セタナの顔が蒼白した。


「………………まさか、最後のエルーシナ殺し以降、さらって殺す方向に変えたって事かい? 今まで六年間、その方法で誰にも知られず殺しを続けていたと?」


「ええ。私達が倉庫群で見つけた死体の中には、古い骨も沢山あった。この街で人の失踪が騒がれたのは、憲兵団襲撃があったからでしょう? それ以前に、子供たちを探していたのはクラムとネネッシュだけだった」


 少しだけ非難めいたアリエッタの言葉に、セタナは目を伏せた。


「……ああ、まったくもってその通りだろう。この街は助け合いだけで成り立っているとは言い難い。貧しさは時に、他者を淘汰する方向へも人を動かすからね。そう言うのが嫌で、街を去る同族も多いんだ。人が消えても"いつもの事"としか思っていなかったんだ、皆」


「おそらく、犯人はそれを見越して貧民窟の住民を狙っている可能性があるわ。この街だけじゃないでしょう。アルフェン全域で、きっと連中はこういう事をしている」


 アリエッタは相変わらず澄ました顔をしているが、その拳がテーブルの下で強く握られているのを私は見た。

 子供を襲う犯人に、嫌悪し、激怒しているのだろう。私も彼女も、そういう手合いが一番嫌いだから。


「アイルフィールよ、アンタらはどうしてこの街に協力するんだい? ノイヤにも被害者が居たとはいえ、貴族には関係のない事だろう」


「いいえ。そうでもないのですよ」


 セタナの疑問を受け、アリエッタは私を見た。それの意図するところは、この件にエニグマが関わっているのではないかという疑惑か、それとも私達の教訓からくるものか。

 おそらくどちらもだろう。私達は召喚者の動向を把握したいし、こういう手合いは排除したい。それだけで、この件を追う理由は十分なのだ。それに、この件にはあの二人が関わっている。


「商会は、ネネッシュとクラムに支援をすると決めたのですよ。つまり、私の縁者だ。私はね、私の身内に手を出す者には容赦しないと決めているのです」


 強く宣言したアリエッタへ、セタナは柔らかい表情を向けた。


「……そうかい。感謝するよ、あの子たちの味方になってくれて、ありがとう。この街には、今の街には、アンタらみたいな精神を持った奴が必要だ。どうか、この街を救ってくれ」


「ええ、必ず」


 アリエッタはセタナへ、しっかりと頷いて見せた。

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