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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第三章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【上】
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堕倫の胎動

 死体の山から目が無事なモノを探して、意識を接続した。

 見えた地下室の景色は、予想していた以上に興味深いものだった。

 なるほど、街に入る人間は全員チェックしていたが、まさかアイルフィールの主従が召喚者だったとは。

 即興劇の宿命か―――さてさて、こいつは予想外の展開になって来た。

 否、エニグマからすれば、これこそ予想通りなのか。


 僕は死体の眼で、標的の姿を見定める。

 黒い少女と黒い従者。さて、召喚者はどっちだ?

 僕達を―――あいや、ネルンの坊ちゃんを殺してやりたいと宣言した、あのおっかない顔したお嬢様か。

 ネルンに妙な魔法で攻撃を仕掛けた、あの従者か。

 エニグマからは、悪そうな女としか聞いていないぞ。これ、どう見たって二人ともカタギじゃないよね。


 ふぅ……まあ、どっちもヤっちゃえば一緒か。どちらにしても、手応えのありそうな子たちだ。

 死体との接続を解除する。僕の視界は、元居る研究室のものに戻る。

 ここはアルフェンの地下水道跡を改築した、博士の秘密研究所である。地上の軍事施設ではできない研究をここでこっそりとやっている訳だ。

 ちなみに博士、地上にも結構な規模の屋敷を持っているのだが、それでもこんな場所で研究する意義を問うと、彼女はロマンだと一言で片づけた。いやはや、科学者の考える事は理解に苦しむ。


死に戻り(レヴァナント)、どう……だった? 地下の様子は?」


 ベッドで横たわるエニグマが、辛そうな声を出す。


「グ・レ・ゴ・リィー! 僕の名前は、グレゴリー! 何度言ったら分かるのかな? 脳が腐ってるの? 生死体ゾンビなの? 僕に操られちゃうの?」


「ふっ、君はやはり、良い反応をするな」


「わざとやってんねぇー」


 エニグマは悪戯っ子の様な笑みを浮かべる。


「まあ、いいや。地下の様子? すっかりあばかれちゃってるねぇ。適当に放置していた死体の山も見つかってるよ。まあ、おかげで一歩も動かなくて済んだけど」


 僕が視た物を報告すると、エニグマは渋い表情を見せた。


「それに関しては、問題ない」


「なら、なんでそんな顔をするのさ?」


「普通に、辛いんだよ」


 エニグマは弱弱しく言い放つと、苦しそうに息を吐いた。額には大粒の汗がにじみ出ている。


「辛いの?」


「ふっ、君に気遣われるとはね。今日はやけに優しいじゃないか」


「弱ってる時くらい、憎まれ口をセーブできないの? それに、僕はいつも君に優しいと思うけど? タダで事後処理してあげてるでしょうに」


「……ああ、そうだな。さっきは助かったよ。君が死霊を提供してくれなかったら、ネルンを転送する隙が無かった」


 エニグマは弱った顔で、僕に微笑んだ。

 高飛車な女の意外な一面を見て、ときめくなんて事は当然なく、むしろ吐きそうになる。


「うげえ、やめてよ博士。貴女が優しい言葉をかけるとか、いよいよ末期なんですけど。死亡フラグですか、コラっ?」


「…………まったく、素直に感謝も受け取れないのかね君は。しょせん死体人形なんぞに、人の感性など理解できないか」


「そうそう、それでいいんだよ博士。うーん、いつも通りぃ」


 博士は私へ、非難めいた冷たい視線を向けた。


「まあ、それに一応だけど、僕は博士に感謝してるんだよ? シエルのクソビッチに斬り殺された僕を、こうして蘇らせてくれたわけだしね。おかげで僕は僕を抑え込む事ができた」


「感謝するべきは、私ではないさ。私は頼まれた事をしたまでだ」


「当然。力をくれたあの子には、感謝してるよ。けど、助けてくれたのは博士だから良いのさ」


「ふっ、君こそらしくないな。シボーフラグとやらは、君の方なんじゃないのかね?」


「あははっ、そうかもねぇ」


 ケラケラと笑い飛ばしてやると、不意にエニグマが苦しそうに息を吐いた。相当に重症らしい。


「困ったね、権能を使う度にこれか」


「ああ……いや、今回は流石に転送量が多すぎた。私とネルンを脱出させたうえに、あれだけの数の死霊を送り込んだんだ。私の許容量を超えていた。この身体では、やはり耐えられない」


「やれやれ、能力はD.Dと同じくらい破格なのにねぇ。それに身体が耐えられないんじゃ、しょうがないね。というか、魂結晶ソウルクリスタルが片割れって言うのが、そもそも駄目なんじゃないの? いい加減、取り返せば?」


「取り返せるなら、そうしているさ。だが、アレは我ながら厄介な女でね。何処に居るか、皆目見当もつかん。お前の眼をもってしても、見つけられまい」


「んー、まあ、どんな姿形してるのか僕も知らないしね」


「そう言う事だ。別に良いさ。無いのなら、造るのが研究者というものだ。新しい身体の調整は最終段階に入ったと言っておこう」


「ふうん。あれ、ようやく完成するんだ。昨日回収した脚は、良い収穫物だった様だね」


「ああ。実に好状態のフェネア種の脚だ。解析にも手間取らずに済んだしね。おかげで強靭な脚が造れるだろう。覗いてごらん。もう人の姿を成し始めた頃だ」


 エニグマに促され、私は隣の部屋へと向かった。

 研究資材が並ぶ部屋の最奥に、巨大なガラスケースが在る。中に在るのは紫の液体と、赤く脈打つ巨大な子宮。中には微かに生物の影が確認できた。

 博士が百年の構想と、十七年の研究期間を経て創る、新人類だと言う。


「どうだね。いい具合だろう?」


 背後から声を掛けられて振り向くと、ふらついた足取りで博士が歩いて来ていた。


「流石だね。これは素直に褒めるよ、博士。貴女はやっぱり、すごい奴だよ」


「ふふっ、ありがたく受け取っておこう。しかし、この機構を実現できたのは、やはり君の能力の助けが大きい。私程度が行使する死霊術では、真に生命を生む力には勝てないよ。この一年で研究がここまで進化したのは、君の功績だとも」


「いやいや、こういう発想ができる貴女の方が凄いよ。実に悪魔的だ。人の肉を材料にキメラでも造るのかと思えば、一から生物を練成しちゃうなんてさ」


「当然だ。自分の身体に成るものを、他人の肉で補えるものか。しかも腐肉など」


「それ、僕に言う?」


「……おっと、すまない」


 悪びれる様子もなく、エニグマは謝罪した。どこまで冗談なんだか分からないが、この程度で気を悪くする僕でもない。

 さあて、いよいよお待ちかねだ。


「で、研究が最終段階って事はさ、もう、あの子要らないよね?」


「……ああ、要らないとも。いや、あれは予想以上に手のかかる子供だった。今回の失態もあるし、早々に始末したい。―――君が手を下すかね?」


「いや、アイルフィールの主従がやってくれるんじゃないかな。僕はどちらかと言えば、彼女たちの反応を見たいかな」


 配役の性質を理解しなくては、脚本の修正は不可能だろう。僕が描く終末に、余分なものは要らない。もし、彼女たちがこの劇に相応しくないのなら、早々に降りてもらう必要がある。


「そうか。なら、アレの面倒は君に任せる。好きにしてくれ」


「おやおや、先生とまで慕ってくれた生徒を見放すのかい?」


 私がおちょっくると、エニグマはうんざりした様子で言った。


「まさか、とんでもない。私の生徒が、あんな出来の悪い子供であるものか」

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