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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第三章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【上】
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狩る者の話B

 サスティバンに案内され、私はクラムがさらわれたという裏路地を訪れた。

 アリエッタにはネネッシュをなだめる為に、残ってもらった。荒事になりそうな気配があるので、彼女をここに来させたくなかったというのもある。


「ここで、生死体ゾンビに襲われたのですね?」


「そうだ」とサスティバンは頷く。


「犯人を捕まえる段になって、急に現れたんだ。あと、妙な女の声もしたな」


「妙な女?」


 ―――エニグマか?


「ああ。子供の声だった。生死体ゾンビをけしかけてきたのは、おそらくそいつだ。あの殺人鬼の仲間だろうな。相手は複数人だったわけだ」


 子供の声ということは、エニグマでは無さそうだ。子供の死霊術師とは、なかなか気味の悪い話である。


「ふむ―――それが起きたのは、何時間前です?」


「日付が変わっていたはずだから……八時間くらい前か」


「そうですか……」


 相手が殺人目的だった場合、さらわれて八時間も経過しているのは痛い。一刻も早く探さなくては。

 しかし、見た限り痕跡は無さそうだ。流石に逃げ続けているだけあって、現場の掃除は手慣れている。

 一か八か、あれを使ってみるか……


「第五拘束開放―――」


 音声命令で、人形からだの機能を解放する。

 生体感知の表示が変化し、視界が極彩色に変わった。あまりの色のケバさに、気持ちが悪くなる。生身じゃないから体に影響がないとはいえ、これはキツイ。

 第五拘束が押さえているのは、生体感知の機能を拡張するものだ。魔力を個体ごとに識別できるうえに、魔法を放った後の痕跡まで視る事ができる様になる。

 ただ、魔力を色として認識している以上、どうしても視界が毒々しいまでに鮮やかな色になってしまうのだ。

 便利な機能ではあるのだが、精神的によろしくないので、拘束機能として制限されている。


 路地に在るのは、ほとんどが紫色の魔力残滓だった。生死体ゾンビまとっていたものなのだろう。周囲を埋め尽くすほどに濃い。

 その中に、弱弱しい青色の残滓が一つ漂っていた。その残滓だけが、路地の奥へと移動している。


「……サスティバン様、クラム様をさらった男は魔法を使っていましたか?」


「ああ。奴が魔法を放った後、クラムは気を失ったみたいだったな……」


 睡眠魔法の類だろうか。だとすると都合がいい。クラムに掛けられた魔法の痕跡を追う事ができるはずだ。

 魔力の残滓が完全に消えるまで十二時間はかかる。まだ時間はある。


「付いて来てください。痕跡を追いかけます」


「痕跡? 何か見つけたのか?」


「はい。クラム様にかけられた魔法の残滓を追います」


 私は青い魔力残滓を辿たどって駆け出した。

 魔力残滓の動きから見ると、犯人の足運びには迷いがない。順路を知り尽くしていて、なおかつ目的の場所が近い証拠だ。

 予想通り魔力残滓は、現場からほど近い河沿いの倉庫群へと延びていた。傷み具合から言って、長年放置されている場所の様だ。


「やはり、ここにたどり着くのか」


 後ろからついて来たサスティバンが、倉庫群を見て呟いた。


「やはり? 目星は付いていたのですか?」


「ああ。ここは最初から怪しいと睨んでいた場所だ。だが、ここはクラムがさらわれてから最初に捜索したぞ?」


「なるほど。だとしたら、もっとよく見るべきでしたね」


 残滓を辿って、倉庫の一つに入った。

 倉庫の中は何もなく、長方形に区切られただだっ広い空間が在るだけだった。

 一見して何も無いように見えるが、痕跡は空間中央で途切れていて、そこの床には鉄製の蓋がしてあった。

 片手でそいつを除けると、下へ続く階段が現れた。


「嘘だろ。こんなものを見逃していたのか、俺たちは!」


 サスティバンが、悔やむように声を出す。


「地下室なんて、いかにもですね……それにこれ、見てください」


 階段には、血痕があった。地下へ点々と続くそれは、乾き切っていて大分古い。クラムのものでは無いだろう。


「……サスティバン様、後ろをお願いします」


「分かった」


 私は強化魔法の重ねがけを、サスティバンは武器を抜いてそれぞれ戦闘態勢に入る。

 地下は用途の良く分からない配管によって迷路の様に入り組んでいた。


「そんな、無警戒に進んで大丈夫なのか?」


 突き進む私へ、サスティバンが小声で聞いてきた。


「平気ですよ。敵が近くに入れば、すぐに解ります。近くには、我々以外に生命体の気配はありません」


「生命体ね……そいつは動く死体にも有効なのか?」


「ええ。魔力を追っているので、魔法で動かされているモノの反応も、認識できます」


「……そうか。貴族の従者っていうのは、そういう特殊な訓練を受けているんだな。俺にはさっぱりだ」


「まあ、はい。私はかなり特殊ですので―――止まって。反応がありました」


 二人分の反応を見つけ、サスティバンを制した。

 私は視界を通常状態へと切り替える。地上であれば自然物の持つ魔力で地形も微かに見られるが、地下となるとそうもいかず、生体感知のレーダーだけでは周囲の構造をきちんと把握できないのだ。

 視界が急激に暗くなる。光だけを頼りにした視覚法では、この地下室は本当に暗闇だ。サスティバンが警戒するのもよく分かる。


 二人分の生命力を感知した方向を覗き見ると、微かに光があった。

 どうやら私達の居る通路とは違い、向こうにはちょっとした空間が開いている様である。


「突入します。準備は良いですか?」


「ああ、いつでも大丈夫だ!」


 二人同時に、突入する。

 部屋の奥に男の背中が見えた。

 男の方もこちらに気づいたのか、振り返る。不気味な仮面で顔を隠したその男は、私達を見て明らかに狼狽えている様子だった。

 その男の背後に、もう一人の姿を見た。

 壁に繋がれた、青い毛並みの獣人の少女。頭部に並んだ巨大な耳は、私達が探していたクラムに間違いないだろう。

 ああ、しかし何と言う事か。クラムには脚が無い!

 両足とも、ももの付け根から下が無くなっている。彼女の足下は大量の血液によって、真っ赤な水たまりができていた。


「貴様らっ!」


 こんな事が、許されるものか! こんな事をする連中が、生かされてなるものか!

 子供を傷つける大人だけは、絶対に許さないっ!


「第七拘束解放!」


 水銀で七本の剣を生成し、仮面の男へと射出した。

 しかしそれは、突然現れた生死体ゾンビによって防がれた。七本すべてが生死体ゾンビに突き刺さる。

 全身を貫かれた生死体ゾンビは動きを止めたが、次から次へと男を守る様にして、生死体ゾンビたちが立ち塞がる。


「なっ―――!」


 馬鹿なっ! そんなはずはない。ここにこいつらが居るはずが無い!

 魔力感知には、私達とこの場二人の計四人しか、映っていなかった。仮に潜んでいたとしても、必ず映るはずである。いや、映らなければおかしい。

 現に今、私達を囲む生死体ゾンビたちからは、強い魔力を感じる事ができる。第五拘束を起動しなくても分かる程に、はっきりと。

 こいつらは何処に潜んでいた? いや、それよりもいったいどこから、これだけの数が出てきた?


「くそっ、やっぱり待ち伏せされてたじゃねえか!」


 生死体ゾンビの攻撃を辛うじて防ぎながら、サスティバンが不平を叫ぶ。

 火球魔法でゾンビを吹き飛ばして、助けてやった。


「おい、どうする!?」


「その場に伏せて、早くっ!」


「おっ、おう!」


 サスティバンがその場にしゃがんだのを確認し、私は手元に戻した七剣を、全方位へ時計回りに薙ぎ払った。

 部屋に居る生死体ゾンビ全員を撫で切りにする。

 七剣は銀でできているので、死霊系の魔法には絶大な効果を発揮する。肉体を破壊する事よりも、魔法を破壊する事に特化した攻撃だ。


「おいっ、アイツは何処へ行った?」


 顔を上げたサスティバンが叫んだ。

 サスティバンの言う通り、仮面の男の姿がない。

 慌てて生体感知を開くと、この部屋には私とサスティバンとクラム、この三人の反応だけしかなかった。

 死体の中にも、仮面の男の姿は無い。あの男は何の前触れもなく、こつ然と消えてしまったのだ。


「……ここは、何かがヤバイ。早く戻った方が良いぞ」


「ええ。クラム様はまだ生きています。一刻も早く治療を!」


 クラムの下へ駆け寄り、両腕の拘束を破壊する。それから両足の断面を氷魔法で、凍結させた。

 乱暴な止血である事は理解しているが、もう手遅れな程に出血しているのだ。事は急を要する。


 クラムを抱えて引き返そうとした刹那、気配を感じて七剣を飛ばした。

 しかし、七剣は何も捉えずに、部屋の壁面に激突して弾かれた。


 ―――? 今のは、女?


 女が私達を見て、笑っていたような気がした。

 神経質になっているのだろうか?


「おいっ、何してんだ! 急ぐぞ!」


「……ええ、」


 サスティバンに急かされ、私は走り出す。

 監視されている様な不快感を背中に感じながら、私はその場を後にした。

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