表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
プロローグ
9/274

学校の話2

「よし、それじゃあ外すよ」


 背後からオルコットの声がしたのと同時に、私の意識は一瞬だけ途絶える。再び意識が戻ると、私は体から分離していた。


 魔石だけの状態になると、愉快な事に視野が広がって死角が完全に無くなる。体の全方位に目がついている感じだ。

 部屋全体を見渡すと、私を真剣な顔で運ぶオルコットと、苦い表情でそれを見守るアリエッタの姿が見えた。

 当然と言えば当然だが、アリエッタは私が付いて行くことに納得してはいない様子だ。


 オルコットは私を小さな瓶に入れて、紐の通った蓋で閉めた。これでアリエッタの首からぶら下げるという事らしい。


「はい。できたよ。気を付けてね」


 オルコットから私を受け取り、アリエッタは首に下げた。


「はい。行ってきます」


 アリエッタはオルコットにお辞儀をして、作業部屋を出た。

 廊下を通り、玄関の扉を抜ける。ここから先は、私にとって未知の世界だ。窓から外を見る事はあっても、実際に外へ出た事は一度もない。


 このお屋敷は住宅街の真中に在った。屋敷を取り囲む塀の向こうには、茶色い外壁に統一された四・五階建ての建物が、隙間なく並んでいる街並みが見える。


 アリエッタが鉄格子の門を抜けると、広い道路が現れた。灰色の石レンガが敷き詰められた道には、等間隔に黒い街路灯が並んでいる。


 知識が浅いのでどこの国とは言えないが、全体的に西洋風な印象の街だった。この世界はどうも、元居た世界と文明の趣向に共通点が多い。科学技術や文化はそのままに、魔法という特異なエネルギーや学問で、さらに独自の発展をしたという印象だ。


 ただ、私が居た時代よりも、文明レベルは二百年ほど遅れている様だ。巨大な犬の様な生き物が、箱車を引いて走っているのを見るかぎり、自動車みたいなものはまだ無いらしい。


「……」


 アリエッタは、家を出てからずっと黙り込んでいた。私はらしくもなく、アリエッタを怒らせてしまったのではないかと心配になった。


「アリエッタ、その、怒っているのですか?」


「……えっ、ああ、そうじゃないの。ミューが居てくれるのは、むしろ安心してるよ。ただ、ちょっと怖くて……」


「やはり、オルコットに話すべきだと思います」


「……そうね。きっと、そうするべきなんだと思う。でもね、やっぱり言えないよ。学校へ行かせてもらっているのは、私の我儘なんだから。学費だってすごく高いし。お父さんに相当無理させたって、分かってる。だから、途中で辞めるなんてできないよ」


「……それでも言うべきだと思いますよ。貴女は、もっと家族を頼るべきだ。迷惑でも、面倒でもかければいい。それが家族でしょう」


「…………」


 アリエッタは答えなかった。それ以降彼女が口を開く事は無かったので、私も黙っていた。


 出発から三十分くらい経った頃、ようやくそれらしい建物が見えてきた。街の中でひときわ目立つ立派な学舎は、まるでゴシック造りの教会のような荘厳な風格が在った。

 入り口の門には『国立魔法学研究所』と書かれていた。この国では義務教育の様なシステムは無いそうなので、これはどちらかと言うと大学みたいな所なのかもしれない。


 何かに反応して、アリエッタがいきなり植木の陰に隠れた。見ていると、門の前に犬の引く車が停まった。車の中からアリエッタと同じ服装の子供が降りてきて、門の中へと入っていった。


「あの女の子が、ロアンですか?」


「ううん。知らない子。たぶん、別の級じゃないかな」


「知らない子なのに、隠れるんですか?」


「うん……やっぱり、恥ずかしいから。徒歩で来るのなんて私くらいなものだし。それに、一緒に入ると嫌な顔されるしね。――みんな身分が第一だから、私みたいなのは嫌われるんだ」


 私は言葉が出なかった。せいぜい、同じクラスの中だけの差別と考えていたが、ここまで徹底されているとは予想外だった。


「貴族というのは、そんなに傲慢なんですか? 身分の違いなんて、私には理解できません」


「そういう事は、思っていても口にしてはダメよ。身分の格差を否定する動きは大昔からあるけれど、結局戦争が起これば軍人や貴族が権力を持つようになる。世の定めは、どうあっても変えられないのよ」


 忍びながら、アリエッタは門をくぐる。真っ直ぐ建物へと続く道を外れて、アリエッタは人気の無い方向へと歩いていった。裏口から入るつもりなのだろう。


「――それに、こういう教育機関は彼女たちの為の物だから。その領域に入った私が悪いというのもあるわ」


「なら、貴族の居ない学校へ行けばいいのでは?」


 私の言葉に、アリエッタは黙り込んだ。


「……貴女の居た世界は、平等な場所だったのね。うらやましい。少なくとも、この国ではそんなもの無いわ。読み書きを教える私塾くらいはあるけれど、高等教育はお金持ちだけの物よ。その領域へ無理に入ろうとした結果が、私。――でも、だからこそ学ばなくちゃいけない。庶民の私が学問で結果を残せれば、世間を変えられるかもしれない。語るよりも、武力よりも、時に知識は力を持つ。私はその可能性を信じたいの」


 アリエッタの声は、その決意の程を表しているかのように力強かった。だが、私はどうしてもそこから焦りや必死さを感じてしまって、素直に感心する気にはなれなかった。もちろん、こんな感想は平和な世界、平穏な時代に生きていた私の感想でしかなく、彼女に対して何かを言えるような立場ではない事は分かっているつもりだ。


「そのために、ここで学ぶ必要があるんですね」


「ええ、そうよ。だから、辞める訳にはいかないの」


 アリエッタは学舎の裏側へと回り込み、古ぼけた扉から中に入った。入ってすぐに見えてきたのは、整然と並ぶ背の高い本棚だった。ここは図書室だろうか。外観に負けず劣らず、造りが立派だ。蔵書の数も凄まじい。これほど多くの本が並んだ光景など見た事が無い。


「すぐに教室に行くと面倒だから、朝はここで時間を過ごすの」


 神聖な雰囲気さえ漂う静寂の中で、アリエッタの声だけが響く。


「すごい蔵書量ですね」


「そうでしょう。国内でも一二を争う規模だって話なの。私が我慢してでもここに来たい理由はこれなんだ。建国以前から積み上げられてきた知識の結晶。ここにこそ、私の学びたい全てがある。普段誰も利用しないから、気兼ねなく勉強できるし――」


 興奮気味に話すアリエッタに、誰かが横やりを入れた。


「それは確かにその通りだが、そう言われてしまっては、司書としては面目が立たないね」


 不意に声がしたせいか、アリエッタが飛び上がった。

 本棚の間の通路から、声の主であろう女が姿を現す。金髪を後ろでまとめた、凛々しい顔つきの女性だった。かけている眼鏡も手伝って、知的な印象を受ける。そういう人種なのか、やけに長い耳が特徴的だ。


「あぁ、びっくりした。脅かさないでください。アグラード先生、おはようございます」 


 女性を見て、アリエッタは胸をなでおろす。どうやら、この女は教員らしい。


「うむ。おはよう。――しかし、驚いたのは私の方だよ。普段静かな君が、入ってきた途端に独りで会話し始めたのだから」


 アグラードというらしい女性は、ニヒルな笑みを浮かべた。なんだか獰猛な獣みたいだ。


「で、誰と話していたのかな?」


「えっと……まあ、先生になら。――彼女です」


 アリエッタは首から下げた私を持ち上げて、アグラードに見せた。


「ほぅ、魔石か……いや、こんな紅いのは見た事が無いな」


「これはレコライトの変異体です。父が人形造りの際に誤って召喚魔法を発動してしまったみたいで、こんな色になってしまったんです」


 アリエッタが説明する。色が元から赤じゃなかったというのは、私も初めて聞いた。


「召喚魔法ということは、これの中に何か居るのだね。しかし、人の言葉を介する存在か。新大陸あたりからゴブリンでも呼び出したのかね?」


「それが、別世界から幽霊だった彼女を召喚してしまったみたいで……事故だったから父も原理はよく分かっていないみたいで、再現もできないとか」


 以前からなんとなく思ってはいたが、やはり異世界召喚は普通じゃないらしい。本来召喚魔法は、同じ世界の中で異なる場所から対象を呼び寄せる技術の様だ。まあ、聞いた話からの推測なのでこれも定かではないが、わざわざ聞くほどの興味はあまりない。

 二人の会話を途切れさせるのも悪いので黙っていると、アグラードは驚いた顔で私を見た。


「という事は、異世界の人間! そんなの聞いたこともないぞ」


「はい。そうなんです。ミュー、話して良いよ」


 驚くアグラードにあてられたのか、興奮気味のアリエッタ。

 私は許しをもらい、言葉を発する。他人が居る場所では黙っているというのが、私が外へ持ち出される際の約束事になっていたからだ。バレてしまっては守る効果もない約束だが。


「お初にお目にかかります、アグラード先生。私はミューと申します」


「ほほう、これは……丁寧にどうも。初めまして。私はアレン・アグラードという。この図書館の司書だ。――しかし、面白いね。魔石の中に閉じ込められた異世界人か。実に興味深い……あっと、失礼。気が利かなかったな」


「お気遣い感謝します。ですが、私はこの姿に不満は無いですから」


 やはり誰でも、無機物となった私の事を哀れと思う様だ。

 それにしても、順応力の高い人だ。突飛なことだらけの私を前にして、一瞬驚くだけで普通に会話してくる。変わり者なのか、能天気なのか。

 そんな事を私が考えているとも知らず、アグラードは平静な態度で頷く。


「そうか。なら良かった。――それにしても、アリエッタ君があんなに楽しそうに話す子だとは思わなかったよ」


「えっ?」


 アグラード先生の言葉に、アリエッタは驚いたような顔をする。


「あのっ、私って普段そんなに静かですか?」


「ああ。心配になるくらい大人しいよ。私としては少し安心した。ミュー君は良い友人なのだね」


「はいっ! 大切な家族です」


 アリエッタは明るい笑顔で、はっきりとそう言った。照れくさいやら、愛おしいやらで、私は何も言えなかった。


「ふふっ。ならば、校内では服の下に隠しておきなさい。あのクソガキ共に見つかったら、取り上げられるぞ」


「なっ、そんなこと先生が言ったら駄目ですよ」


 アグラード先生の言葉に、アリエッタは動揺する。おそらく、アグラード先生はアリエッタをいじめている子供の事を言ったのだろう。確かに、一教員が生徒をクソガキ呼ばわりとは恐れ入る。


 落ち着かない様子のアリエッタとは対照的に、アグラード先生は澄ました顔で鼻を鳴らした。


「ふんっ、別に構わないさ。私も一応それなりの家の出だからな。こんな僻地へきちの金持ち程度、どうという事はない。無能なくせに家の名前で威張り散らす連中より、勤勉な君の方がよほど高尚こうしょうだと思えるよ」


 褒められて照れたのか、それともつつましい性格からか、アリエッタは小さくなって黙り込んでしまった。


「先生は、アリエッタの味方なのですね」

 私の言葉に、アグラード先生は「一応な」と答えた。


「ちょっと、ミュー……――」


 アリエッタが何かを言いかけたところで、鐘が鳴った。

 アグラード先生に一礼して、アリエッタは慌てた様子で教室へと向かった。



 この学舎の教室もまた、元の世界の学校とそれほど変わらないものだった。黒板があって、机と椅子がある。ただ、机と椅子が個別ではなく、三人掛けくらいの長椅子と長机だったのは少し珍しかった。


 教室内には十五人の女子生徒たちが居て、みんな楽しそうに会話をしていた。ごく普通の学校の風景。アリエッタが教室へ入ったところで、特別変化は無い。


 部屋の左右に三つずつ机が並んでいて、空席となっている左側の一番後ろの机にアリエッタは座った。三人掛けの椅子に独り。単に偶然なのか、孤立している状態が生んだ必然なのかは分からない。


 よく見ると、教室内に居る生徒の全員が、アグラード先生と同じく耳の長い種族だった。貴族って奴らにはこの種族が多いらしい。


 アリエッタは、そこで私を服の内側へと入れてしまったので、そこからは音しか分からなくなった。


 教師らしき人物の入ってくる音が聞こえた後、ホームルームの様なものは無く、いきなり授業が始まった。


 一時限目は、魔法……理論……なんとかという、およそ異世界人の私には理解の及ばない話を延々としていた。アリエッタの身体に密着している分、彼女の状態がなんとなく解るもので、この授業には特に関心を示しているようだった。


 朝と同じく、騒がしさの戻った休憩時間でも、アリエッタは動かず静かにしていた。判っていた事だが、この学校に友達と呼べるような存在は居ないようだ。


 二時限目は、私にも嬉しい、この世界の歴史についてだった。ちょうど、この国の建国についての話をしていた。

 授業の内容を簡単にまとめるのならば、この国はエルーシナ族と呼ばれるものが造った国で、建国当時はノイヤ族やオウガ族という種族が奴隷として扱われていたらしい。

 種族名を言われてもピンとこないのだが、前にオルコットが自身の事をノイヤだと言っていたのを、なんとなく思い出した。そして、私の予想からして耳の長い種族がエルーシナなのだろう。アリエッタがいじめを受けている理由は、そういう迫害的な意識もありそうだった。身分差別と人種差別。この二つが重なってしまうと、いよいよたちが悪そうだ。


 そして三時限目、そこで事件は起こった。

 抜き打ち試験の返却と称されたこの授業で、アリエッタはクラスでトップの成績だった事を教師に褒められた。私も自分の事の様にそれを誇らしく思っていた。

 しかし、教壇で試験用紙を受け取ったアリエッタは、そこから自分の席へ戻る途中に突然転んだのだ。見えない私にも、聞こえてきた女生徒たちの嘲笑で、それが誰かの作為によって起きた事なのはすぐに解った。アリエッタはそれでも黙ったまま、立ち上がって自分の席に戻って行った。教師からの注意の言葉は無かった。


 私は怒りと、どうする事も出来ないもどかしさで苛立っていた。後になって思えば、この時ばかりは身体が無くて良かったと思う。私自身、何をしでかすか分からないくらいには憤っていたからだ。


 その後は何事も無く、四時限目まで終えた。昼を迎えたのか、これまでで一番教室の中が騒がしくなった。それと同時に、人の音がまばらになっていくのを感じた。貴族の娘が弁当という事も無いだろうし、食堂の様なものがあるのだろう。


 アリエッタも席を立ちあがって移動し始めた。しばらく歩いて風の音がしたかと思うと、アリエッタが私を外側へと出してくれた。見ると、そこは図書室の裏口の段差で、アリエッタはそこに座ってフィッテラ(穀物を原材料とした、熱加工された膨化食品)を食べていた。他の生徒達を避けて、隠れて昼食をとっているらしい。


「アリエッタ、大丈夫ですか?」

「うん。いつもこんな感じだから平気よ。……ありがとう」


 表情は見えないが、その声には力が無い。落ち込んでいるのは、明らかだった。


「元気出してください――」


 そう言いかけたところで、突然水が空から落ちてきた。アリエッタは、黒い汚水を頭から被った。


 半ば放心した状態で状況を見ていると、アリエッタの体が何かに押されて段差を落ちた。小さな悲鳴を上げ、アリエッタは地面に打ち付けられる。


 アリエッタが振り向くのに連動して、私の視界も動く。図書室の裏口に、三人の女生徒が立っていた。中央の少女が汚水をぶちまけたのか、バケツを持っている。


 三人が道を開けるようにして左右に散らばると、更に奥から一人の少女が出てきた。とても綺麗な少女だったが、その嫌味な表情を見れば性格が知れるというものだ。この少女が彼女たちのボスなのは間違いないだろう。だとすると、この子がロアンか。


「……ロアン、何のつもり?」


 怒りを抑えるようにして、アリエッタが呟いた。

 ロアンは眉間にしわを寄せて、苛立たし気に言い放つ。


「相変わらず陰気臭いヤツね。このっ、パスフィリク家の面汚しが。アンタと血が繋がってるってだけで、こっちは我慢ならないわ」


 その言葉に、私は耳を疑った。ロアンとアリエッタが親類だって? ……そういえば、アリエッタの母親は貴族の出だとオルコットが言っていた。つまり、そういう事なのか?


「私は、何のつもりと聞いたのよ。お互いに不干渉で居れば良いと言ったのは、貴女でしょう?」


 アリエッタは立ち上がって、ゆっくりと言った。こんな状況でも落ち着いて話すアリエッタは、大した子だと思う。


「今日は随分と強気じゃない。ふんっ、庶民風情が偉そうに。私は、アンタが目障りだとも言ったはずよ。ここはアンタみたいな混ざりモノが来ていい所じゃないのよ。あの薄汚い父親の所へとっとと帰りなさい。そして、二度とここに来るなっ!」


「お父さんの事を、悪く言わないでっ!」


 アリエッタが怒鳴った。これほどまでに怒りを表に出したアリエッタを、私は初めて見た。どうするべきか思案していると、不意に、熱くなった二人へ冷や水みたいな声がかけられた。


「そこまでにしておけよ、小娘共。私の図書館で何をしている?」


 一同が、声のした方を即座に向いた。図書室の中に、腕を組んで一同を睨みつけるアグラード先生が立っていた。その眼光には、少女達を畏縮いしゅくさせるのに十分すぎる風格が在る。


「ふんっ、アンタの図書館? 笑わせないでよ。この施設はウチの寄付金で成り立ってるのよ? つまり、ここは全部ウチの所有物なのよ」


 ロアンがアグラード先生に吼えた。いじめっ子とはいえ、このアグラード先生に立ち向かっていく度胸は大したものだと思った。

 アグラード先生は眉一つ動かさず、冷たい視線のまま鼻で嗤った。


「ふんっ、田舎娘がいい気になるなよ。生憎あいにくと、この図書館の蔵書は私の私物と王国の物だ。この図書室自体も、私が設置し、運営をしている」


「はぁ? あんた何様よ」


 ロアンの反応に、アグラード先生はため息をつく。


「やれやれ。一年以上も居て、教員の名も知らぬとはな。――私はアレン・アグラードだ。魔法を学ぶのなら、流石にこの名は知っているだろう?」


「アグラードですって! ……ちっ、行くわよ」


 ロアンは先生の名前を聞いた途端、手下を連れて逃げ去っていった。


「ふぅ……クソガキが」


 ロアン達の姿を見送って、アグラード先生は呟いた。なんというか、格好良い人だなこの人。


「まったく、酷いことするよな。おいでアリエッタ。教員用のシャワーを使うといい」


 アグラード先生は、びしょ濡れのアリエッタに駆け寄ると、その手を引いて図書室の中へ引き込もうとした。


「いえっ、図書室が濡れてしまいますから」


「遠慮するな。防水の印くらい、かけてあるに決まっているだろう。床は掃除すれば良い」


 そう言って、アグラード先生は半ば強引にアリエッタを連れて行った。アリエッタも観念したのか、大人しくその後に続いた。


 ロアンの事は腹が立って仕方ないが、アリエッタにもこんな頼もしい味方が居ることが分かって、私はひとまず安心したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ