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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第三章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【上】
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狩る者の話A

 私とアリエッタは、再び半獣人街バルヘンクァールの教会を訪れた。

 ネネッシュに、孤児院を開く事について意見を聞くためだ。ついでに、クラムの様子と、半獣人街バルヘンクァールの状態を見に来たというのもある。

 昨日からアルフェン中で、生死体ゾンビらしき怪生物の被害が報じられていて、この街でも憲兵が二人襲われたのだという。

 しかし、そういった事件が深刻に報じられる割には、昼間の街は通常通り周っている。陽が昇っている間は、怪物が出現しないためだ。

 だからこそ、アリエッタは白昼の街中で怪物が出現したという、半獣人街バルヘンクァールに興味の目を向けていた。


「しかし、いつ見ても不安になるわね、ここ。今にも崩れそう」


 教会に着くなり、アリエッタが呟いた。彼女が言っているのは、教会の外観の事だろう。

 中には綺麗でしっかりとした聖堂があるものの、外側は酷く痛んでいる。外壁はひび割れて剥がれ、屋根の一部は欠落している様な有様だ。

 周囲を廃墟に囲まれているせいか違和感はないが、信仰の場がこの状態にあるのは正常と言えないだろう。


「この教会って、どこの宗派なのでしょう?」


 そんな事を何の気なしに訊いたところで、ふと気づく。そもそも私は、こっちの世界にどんな宗教があるのかなんて知らない。

 こちらにも神の概念や、それらを崇拝する文化がある事は分かっているが、私の知識はそこで止まっている。


「リアチーヌの国内にある教会は、全てイリアス教だと思っていいわ。それ以外をそもそも認めていないしね」


「国に保護されている、宗派なんですね」


「ふふっ、保護も何も、この国の建国者イリアス・イノセントを神格化した宗派だもの。国外でも信者が多いと聞くわ」


「国外? この国の建国者なのに?」


「イリアスは世界で知らない者のいない大英雄なの。世界中を渡り歩いて、多くの魔物を撃ち滅ぼしたとされている。彼女は世界そのものを救った人物だから、多くの人々に崇拝されているのでしょう。彼女は安寧と繁栄をもたらし、邪悪なものから守護してくれる象徴とされている。今の私達からすれば、むしろ敵対する側かしらね」


 そんな事を、アリエッタは冗談めかして言う。


「罰当たりですよ、お嬢様」


「ふふっ、いいじゃない。私達はとっくの昔に、神様なんてものには見放されているのだから」


 冗談半分にたしなめると、アリエッタはくすくすと何故か楽しそうに笑った。


「それよりも、この話少し気にならない?」


「さあ? 私はあまり……」


「魔を滅ぼし、世界を救った大英雄。普通に考えればそんなのは作り話だけれど、この国は確かに在るし、世界中で彼女の残した偉業を伝説として讃えている。もしもイリアスが現実にそんな強大な力を持った女性だったとしたのなら……」


 アリエッタは意味あり気に不敵な笑みを浮かべる。


「イリアスは召喚者だったと?」


「シエルは召喚者の事を、世界を救う抑止力だと言っていたのでしょう? 彼女自身、何かを討伐するために呼ばれた様だったし。まあ……でも、真相は分からないわね。イリアスは千年以上前の人だもの。とっくに亡くなっているわ」


「なるほど。でも、そういうのは考えるとキリがないですし。止めておきましょう」


 そう返した私へ、アリエッタは少し意外そうな顔をする。


「あら、意外と素っ気ないのね。自分の事にあまり執着しないのは、相変わらずね」


「私にとって大切なのは、召喚者が何なのかではなく、彼らが起こす影響だけですから。貴女の害になるのならば排除する。それだけです。とうの昔に亡くなった英雄が何であっても、関係は無いでしょう」


「まったく……私は幸せ者ね。良い従者を持ったと、喜ぶべきかしら」


「いえ、私なんてまだまだですよ」


「はぁ―――私としては、もっと自分を労わってほしいのだけれどね」


 アリエッタは呆れたように、笑った。

 話を切り上げて、私達は教会へ入った。この前炊き出しの時に見かけた二人の修道女達が、対応してくれた。この教会を管理しているのは、どうやらこの二人だけらしい。

 ネネッシュに会いに来た事を伝えると、修道女達は戸惑った様な反応を見せた。


「実は、昨日から彼女は来ていません。ほぼ毎日手伝いに来てくださっていたので、二日も来られないのは初めてで、心配しているんです」


「そうですか。彼女と最後に会ったのは?」


 アリエッタの質問に、もう一人の修道女が答えた。


「ネネッシュさんを最後に見かけたのは、一昨日の夜です。一昨日は炊き出しが無かったので、早い時間にお帰りになったはずなのですが、どういう訳か深夜の街を独りで歩いていて……半獣人街バルヘンクァールの方へ向かっていたみたいでしたよ。街外れにクラムさんが住んでいるらしいので、もしかしたら彼女の所へ行ったのかもしれません」


「なるほど。ありがとうございます。私達の方でも、彼女を探してみようと思います」


 アリエッタは作り笑顔でにこやかに対応し、その場を後にした。

 教会を出た途端、彼女の纏う雰囲気が鋭いものに変わった。


「ミュー、どう思う?」


「どうも、嫌な予感がします。憲兵団への襲撃があった日に、私達はクラム様を追うアシュメスの死体と遭遇しました。生死体ゾンビと思しき怪物の被害が騒がれ始めたのは、ネネッシュ様が徘徊していたという夜からです。連日続いている事件には、二人の姿があります」


「ええ。この件にはネネッシュさんが関わっている、そんな気がするわ。直接ではないけれど、何かしらの繋がりがありそうね」


「彼女を探しますか?」


「もちろんよ。この件を調べるには、彼女を探さなくてはならない」


 アリエッタはそう言って、半獣人街バルヘンクァールの奥地へ向かって歩き出した。

 徹底した排他姿勢を取っているとは言っても、通りの入り口にバリケードが組まれている訳ではない。誰でも入る事だけは簡単にできてしまう。

 この場合困難なのは、出る方の話である。ウェアクァール族は平和な種族なので、殺されはしないだろうが、痛い目を見るのは確実だろう。

 すれ違うたびに、ウェアクァールたちの視線が私達へ向けられる。明らかに警戒されているという空気を感じる。


 街に入って意外だと感じたのは、その暮らしぶりだった。街の範囲を一度出れば、通りに乞食が溢れる惨状であるが、街の内側は比較的生活水準が高いように思える。着ているもの、住んでいる家、そういったものが思いの外しっかりとしていた。

 民族性によるものか、それともこの街独自の発展形態によるものかは定かではないが、同じアルフェンという都市の中に在って、表の通りとこの街では、まったく別の国に居る様な錯覚を感じる程だ。貧民窟という呼び名とは程遠い、確かな暮らしの風景がここにはある。


「―――お嬢様、お待ちを」


 生体感知に反応があったので、アリエッタを止めた。

 異種族である私達がここに入った以上、何かしらいさかいが起こるのは覚悟の上である。

 私達の前に、三人の男たちが立ちはだかった。軽い武装をしている所を見るに、彼らはスカジャハスの組員だろう。


「おい、ノイヤ。この街がどういう場所か、知らない訳じゃねえよな?」


 明らかに敵意の籠った態度で、男の一人が言う。

 アリエッタは任せろと私に合図を出した。


「貴方達の街へ立ち入った無礼を、お詫びいたします。私達は友人を探して、ここに参りました。ネネッシュというエルーシナです。ご存知でしょうか?」


 アリエッタの問いに、男たちは顔を見合わせる。ネネッシュの名前が出てきたところで、明らかに彼らの態度が変わった様だった。


「ネネッシュと言ったな。アンタらは、あの娘の知り合いなのか?」


「ええ。彼女は私の友人です」


 アリエッタの返答に、男は「そうか」と頷いた。


「なら、付いて来な。そいつの所まで案内してやる」


 男たちはそう言って、私達を先導し始めた。

 意外な展開に少し驚きつつも、私とアリエッタは彼らに続いた。

 男たちに案内されたのは、廃ビルだった。この辺りでは珍しくもない、特に特徴のない建物だ。その二階にて私達を待っていたのは、意外な人物だった。

 虎柄の毛を持つ大男。つい先日、この男からネネッシュを庇ったのは記憶に新しい。

 たしか、この男もスカジャハスの構成員だったか。

 男の方も私達の姿を見て、少し驚いた様子だった。


「兄貴、エルーシナの女に会いに来たんだと」


 私達を先導した男たちの一人が、大男へ事情を告げた。


「そうか。お前らは引き続き、警戒に当たれ。こいつらは俺が相手をする」


 大男の指示を受けて、男たちは階下へ降りて行った。


「ネネッシュはこの奥に居るが、今は色々あって疲れてる。真面目な話し合いとかなら、よした方が良いぜ」


「私達は彼女の安否を確認しに来ただけよ」


「そうかい。なら、付いて来な」


 大男はそう言って、私達を先導する。

 狭く入り組んだ通路を抜けた先で案内された部屋に、ネネッシュは居た。

 ベッドに入り、上半身だけを起こした状態で、彼女は私達を出迎えた。顔色が悪く、疲れている様な表情だった。


「驚いた。……まさか、こんな場所まで来てくださるとは」


 私達を見て、ネネッシュは目を見開く。


「教会で、貴女の様子が変だったと聞いて、探していたの。無事な様で良かったわ」


 アリエッタの言葉に、ネネッシュは辛そうに首を振った。


「何も、良くなんてない……」


「何か、あったのですか?」


 何かただならぬ状況を察して、私は尋ねた。あれだけ快活だったこの人が、こんな風になるのは、よほどの事だろう。

 ネネッシュは両の手で毛布を強く握り込みながら、覚悟を決めたように顔を上げた。まるでこれから言う事が、彼女にとって辛い行為であるかのように。


「……っ! アリエッタさん、ミューさん、お願いがあります。クラムを、私の友達を助けてもらえないでしょうか? このままじゃ、あの子が殺されてしまう。私のせいで、死んじゃうかもしれないんです!」


 ネネッシュは泣きながら、悲痛な声で私達に告げた。

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