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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第三章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【上】
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探す者の話B

 陽が昇った。霧が少しずつ晴れて、街の輪郭がよりはっきりと見える様になってきた。

 私が今居るのは、半獣人街バルヘンクァールの中でも一二を争う程に背の高い、建築物の屋上である。

 私のねぐらである地下水路に化け物が現れた事で、一時的に避難してきたのだ。


「どう、クラム? あいつらはまだ居る?」


 毛布にくるまって震えながら、ネネッシュが私に訊いた。私達ウェアクァールと違って、エルーシナにはこの朝の気温は応えるようだ。


「大丈夫。もう居なくなったよ。連中が活動するのは、夜だけみたい」


 確認の為に望遠鏡で地上を見渡してから、私はそう答えた。

 昨夜私のねぐらに現れた怪物は、夜のあいだ半獣人街バルヘンクァールの各地で見られた。連中の目をかいくぐって、この場所に避難してくるのは一苦労だった。


「……あれって、何だと思う?」


 ネネッシュの問いに、私は首を振る。


「分からない。あんな獣は見た事が無いよ。というか、あれが自然な生き物かどうかも、正直怪しい。―――実は昨日の昼間、妙なアシュメスたちに襲われたんだ。生きてる気配が全然しなくて、あの怪物と同じ感じだったんだ」


「襲われたって、大丈夫だったの?」


 ネネッシュは驚いたように、そして不安そうに私を見た。


「大丈夫。幸いけがは無かったよ。アイルフィール商会の従者さんに助けてもらったんだ。ほら、サスティバンからネネッシュを助けてくれた女の人」


「ええ。たしか、ミューさんだったよね。そう……クラムが無事で良かった。あの人には、私達助けてもらってばかりね」


「ほんとうに。今度、ちゃんとお礼をしよう」


「そうね」


 ネネッシュは安心した様子で微笑んで、焚火で沸かしたお湯をカップに注ぎ、私に渡して来た。


「それにしても、昼間にも現れたなんて。しかも、アシュメスでしょう。……もしかしたらだけど、死霊術って事は無いかしら?」


「死霊術? それは、魔法?」


 魔法なんて高等教育は当然の様に受けていないので、この手の技術は私にはさっぱりである。

 ネネッシュもそれは分っているので、私の疑問に丁寧に答えてくれた。


「死霊術は、アシュメスの魔法だって聞いた事がある。生き物の死体を、操り人形みたいに動かしたりできるらしいの。昨日貴女を襲ったって言うアシュメス、生きてる気配がしなかったのよね。それって、死霊術で動いていた死体なんじゃないかな。夜の怪物たちもそう。あんな腐った匂いを発するモノが、生きているなんてとても思えない」


 ネネッシュの説明を聞いて、ふと思い出す。そう言われてみれば、昨日アリエッタさんとミューさんが、死霊術云々と話していた。


「昨日、アリエッタさんも同じような事を言っていたよ。死霊術がどうのって。……でもさ、それってちょっと変だよね。アシュメス達が自分の身内をそんな風に扱うものかな。連中、下手すればウェアクァール(私たち)より、仲間意識が強いんだ」


 私の意見に、ネネッシュは腕を組んで悩み込む。


「そうよね。確かに、貴女の言う通りかも。―――別にアシュメス発祥だからと言って、他の種族が使えないって事も無いしね。死霊術を使って、何か悪さをしてる人が居るのかも。もしかしたら、最近の失踪事件も何か関係があるかもしれない」


「失踪事件かぁ……だとすると、余計に気分が悪いな。みんな生きてるといいけど……」


「心配だね」


 ネネッシュは不安そうにそう言った。消えたみんなの安否が気になるけれど、そこに至るまでの情報が圧倒的に不足している。自力で集めるにも、どうしたらいいものか。


「…………よしっ、久しぶりに行ってみようか」


 お湯を飲み干して立ち上がった私を、ネネッシュは不思議そうに見上げた。


「どこに?」


「この街の情報屋だよ」


          ◇


 半獣人街バルヘンクァールには、住民たちの総意によって不戦の掟が敷かれている地域がある。理由は単純に、ここに半獣人街バルヘンクァールの長が居るからである。

 アルフェン内の情報を知り尽くした、情報屋セタナ。彼女の元にはスカジャハスはもちろんの事、地元憲兵や、時にはアアルメリオといった他地区の組織の者までが助言を求めてやって来る。

 半獣人街バルヘンクァールが憲兵団に見過ごされている背景には、スカジャハスよりも、セタナ婆の存在の方が大きいのかもしれない。


 本来は私の様な身分の者は近寄る事も許されないが、以前ちょっとした事件でセタナ婆の命を救ってから、私は特別扱いを受けている。

 私がスカジャハスに歯向かっても、平然と街を歩けるのは、そう言う理由もあったりする。


 廃屋が立ち並ぶ一角の、何の変哲もない一軒家がセタナ婆の住処である。分かり易く警護の連中が歩き回っているので、一目でそれと分かる。


「あのっ、ここ本当に私が居て大丈夫?」


 私の隣を歩くネネッシュが、落ち着かない様子でそう言った。警護の者たちから鋭い視線を向けられているのだ、そうなるのも無理はない。


「大丈夫。私と一緒に居る限りは安全だから」


 一応そう言ってはみたものの、あまり効果は無かったようだ。ネネッシュの手が、私の手をより強く握り込む。

 門番に名乗って入れてもらうと、すぐに安楽椅子に座るセタナ婆と対面できた。彼女は私を見るなり、可愛らしい笑顔を浮かべる。


「おや、久しぶりだねえ。元気にしとったかい、クラム」


「はい。ご無沙汰しております、セタナ様」


 私は深く頭を下げる。この街の長が相手だ、粗相はできない。

 そんな私を、セタナ婆は陽気な笑みで笑い飛ばす。


「ははは。様はおよしよ。私とアンタの仲じゃないか。……今日は友達を連れて来たんだね」


「あっ、ネネッシュと申します。よろしくお願いします」


 ネネッシュも緊張した様子で、慌てて頭を下げた。

 その名を聞いて、セタナ婆は納得した様子で頷いた。


「ネネッシュ……ああ、アンデレトワの」


「えっ……あのっ、どうして分かったんですか?」


 驚き戸惑うネネッシュへ、セタナ婆はその反応を楽しむ様に笑う。


「ふふっ、それが私の仕事なもんでね。アンタの話は聞いてるよ。この街の連中の為に、色々としてくれている様じゃないか。街を代表して、礼を言うよ。スカジャハスの馬鹿共が何と言おうと、アンタに感謝している奴はいっぱいいるんだ」


「はい……ありがとうございます」


 褒められて、ネネッシュははにかんだ。


「それで、今日は何の用かね?」


「実は―――」


 私は簡潔に、ここへ来た経緯を説明した。人捜しをしている事、街を徘徊する怪物の事、それらを繋ぐための情報がほしいという事をだ。

 私の話を聞くにつれ、セタナ婆の表情は険しくなっていった。


「なるほど。あの怪物どもの事は、こっちもまだ調べてる最中でね。どうもこの街だけじゃなく、アルフェン全域に現れてるらしい。巡回中の憲兵が昨夜だけで七人やられたそうだよ。

 それと……アンタ達には酷な話だが、探し人はもう死んでいる。キロエもカリーも、もうこの世にはいない」


「えっ……それって、どういう」


 ネネッシュが狼狽する。その顔は、見て分かるほどに青ざめていた。


「昨日の早朝、憲兵団の拠点が襲撃されたんだ。昨日から新聞で大騒ぎしていただろう? 新聞には出ちゃいないが、現場で半獣人ウェアクァールの子供の遺体がいくつか見つかった。その中に、二人も居たんだ」


「そんなっ……」


「やっぱり、死霊術師と誘拐の犯人は繋がっていたんだね」


 私がそう言うと、セタナ婆は意外と言う風に目を一瞬見開いた。


「死霊術師? ほう、アンタからそんな単語が出るとはね。そうか、死霊術…………」


「何か、心当たりが?」


「ああ……あまり気持ちの良い話じゃないがね。まあ、今更か。

 六年前、この街で連続殺人が起きたんだ。女ばかりを狙った犯行でね。スカジャハスは血眼になって犯人探しをしたが、結局見つからなかったんだ。五人まで殺したところで、殺しは止まり、それっきりだ」


「六年……そんな前の事件が、今回の事と関係しているの?」


「ああ……その事件ではね、死体が儀式的な演出で壊されていたんだよ。身体の一部が持ち去られ、現場には必ずアシュメス文字の魔法陣が残されていた。首、胴、腕、足、心臓―――そうして五人の死体が出た後…………出た後、この街に生死体ゾンビが現れたんだよ。奪い去られた身体を繋ぎ合わせた、醜悪な姿のね」


「そんなの……ひど過ぎる」


 それまで黙っていたネネッシュが、弱弱しく呟いた。ネネッシュにこの手の話題は、酷かもしれない。

 セタナ婆も、悲痛な表情でそれに頷く。


「ああ、まったくだよ。そのゾンビに十二人が食い殺され、スカジャハスの連中と憲兵団によって鎮圧された。それ以来、この街では余所者に対する警戒度が上がったってわけさ。事件の話も、口にしない事で一致した。忌々しい記憶に蓋をしたんだ」


「犯人はどうなったの?」


 今回の件に関わっているかもしれない犯人の話だ、はやる気持ちで私は尋ねた。


「結論から言えば、消えた。それはもう、跡形もなくね。

 最初スカジャハスはアシュメス達の仕業と見て、調査を始めた。憲兵団はもともとこの件に協力的じゃなかったから、自分らで犯人探しをするしかなかったのさ。連中は、エルーシナが襲われなきゃ、動かないからね。……まあ、それはいい。

 アアルメリオとの対立を避けたがったスカジャハスは、全てをアシュメス達に公にした形で動き出したんだが、そこで別の事態が発覚した。半獣人街バルヘンクァールで連続殺人が起きるよりも前に、すでに灰色地区バルトアシュアの街でまったく同じ事件が起きていたんだよ。アシュメス達は同族の犯行だと見て、内々に処理しようとしていたんだ。それが発覚すると、ノイヤの街、オウガの街でも同様の事件が起こっていた事が分かり、ついにエルーシナも襲われた。が、エルーシナの女が襲われたところで、その事件は終わったんだ。エルーシナ一人を殺したところで、犯行がピタリと止み、それ以降は音沙汰無し。憲兵団も、各組織も結局犯人の手掛かり一つ掴めなかったのさ」


「……そいつが、またこの街に戻ってきているのですか?」


「分からないね。だが、あの時とは少し毛色が違う気もするね。殺人鬼と破壊活動家の違いとでも言うのかね。目的とするところが全く違う感じだ」


「目的……」


「まあ、私から言えるのは、この件にこれ以上首を突っ込むなということだ。アンタたちが動かなくても、スカジャハスや憲兵団が解決するだろう。危険な事に、自分から関わっていく事は無い。長生きしたければね」


 セタナ婆は私達二人に優しい視線を向けると、そう言って締めくくった。これ以上話す事も、話す気も、無いという事なのだろう。

 情報料として金を出すと、セタナ婆は特別にタダで良いと言ってくれた。ネネッシュと二人で礼を言い、私達はその場を後にした。

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