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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第三章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【上】
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 そいつは今夜も、人を殺していた。

 怒りに任せて、女を滅多刺しにしていた。

 そもそも彼の殺人衝動は怒りから生まれている様だが、今日はいつにも増して荒れている。きっと、上手くいかない事でもあったのだろう。


「くそっ、くそっ、くそがっ!」


 中性的な殺人鬼の声が、誰も居ない路地に響く。

 灯が壁に映し出す二人の影が、飛び散る鮮やかな赤に染められていく。

 凄惨で、非道徳で、終末的な、そんな人の闇。人間は本当に本当に、惨めで愉快だ。

 

 僕がそんな光景を悦に入って眺めていると、路地の闇からエニグマが現れた。

 彼女は軽快に、殺人鬼へ声をかける。


「今日はまた、荒れているじゃないか。何かあったのかね?」


「……」


 殺人鬼は手を止めて、エニグマに振り返った。怒りに満ちたその表情は、エニグマを見るなり憑き物が落ちた様に泣きそうなそれに変わる。


「ごめん、エニグマ。失敗したんだ。頼まれたのに、アシュメスの死体は全部やられちゃった」


「私の指示に反して、獣人の娘なんかを襲ったからだろう?」


 エニグマの言葉を受けて、殺人鬼は蒼白する。


「あっ……えっと、あのっ、それは、その……」


 叱られた子供の様に狼狽うろたえる殺人鬼を、エニグマは軽く笑った。


「ふっ―――今日のところは許してやるさ。偶然とはいえ、指示通りの相手を襲わせることに成功したのだからね。むしろ、直接仕掛けるよりも都合の良い結果になった。連中は、自分達が狙われたとは気づいていないだろう」


「でも、返り討ちにあったんだよ。負けたんだよ? 怒らない?」


「怒るものか。君はよくやっているよ」


 エニグマは優しくそう言って、殺人鬼の頭を撫でる。


「負けて良いのだよ。はなから死体程度にアレが倒せるとは思っていない。だがまあ、あまり好き勝手されるのも困る。これからは、私の指示の外で人を殺すな。それと、昼間に目立った行動をとるのも控えるんだ。いいね?」


「はい。分かりました」


 素直に頷き、笑顔を浮かべる殺人鬼。エニグマは、そんな奴を見て困った表情になる。


「君はいつも、返事だけはいいんだがね……まあいいさ。死体それは私が処理しておこう。君はもう帰りなさい」


「はい! それじゃあ先生、さようなら!」


 殺人鬼は子供みたいにそう言って、路地を駆けて行った。

 ふぅ―――ようやく居なくなった。どうも、僕はアイツが苦手なんだよな。気味悪くって。

 まあ、僕以上に不気味なモノもそう居ないだろうけれど。


死に戻り(レヴァナント)、そこに居るのだろう? そろそろ出てきてはどうかね? 彼は行ったぞ」


 エニグマは宙を仰ぐと、潜んでいる僕に声をかけた。相変わらず偉そうな声質の女である。


「はいはい、僕はここに居ますよーっと」


 声に不満を乗せて、僕は地上に降りる。そうしたところで、僕に不満なんて感情は無いのだけれど。


「いい加減、僕の事を"死体"と呼ぶのは止めてくれないかな。一応グレゴリーって名前が有るんだけど?」


「それも名前では無いだろう。他人から与えられた称号で、構わないのかね?」


 どこか小馬鹿にしたようなエニグマに、僕は肩をすくめる。


死体レヴァナントと呼ばれるよりかはマシでしょう」


「そうか。ではグレゴリー、聞かせてもらおうか。これはどういう事だね?」


 エニグマは強めの口調でそう言うと、僕に新聞紙を投げつけた。憲兵団の拠点が今朝襲撃を受けたという報が、見出しに大きく出ている。

 僕が生死体ゾンビを使って襲撃させたという事は、エニグマならすぐに気づいただろう。これ見よがしに、現場には生死体ゾンビの残骸を残していったのだから。


「聞くまでもなく、僕がやった事なのは分かっているでしょう?」


「当然だ。分かり切った事を話す必要はない。私が聞きたいのは何をするつもりなのかという事だ」


 僕を射るような視線で睨みつけるエニグマ。恐怖感情の無い僕に、そんな威嚇行動をとっても無駄なのに。


「約束通り、転生者には手を出してないよ。というか、どこのどなたかも知らないしね、僕は」


「ではなぜ、憲兵団の支部なんて襲った?」


「はははっ、それこそ聞くまでもない事でしょう博士。『ナンバーズ』の仕事は、この世に混沌をもたらす事なんだよ? あの子のために、あの子が願う世界を創るのが役目なんだよ? 貴女だって本来なら、あの子に従わなくちゃいけない立場なんだ。それを忘れている訳じゃないよね?」


「…………」


 エニグマは更に険しい表情になって、僕を睨みつけた。彼女はあの子が嫌いなのだろう。科学者とは、往々にして世界に挑む質らしい。

 だから僕は、そんな彼女を嗤ってやった。


「ふふっ、予言の時は来たんだよ、博士。運命通りなら僕達はもうすぐ終わる。それをもたらす者が現れたと、あの子は思ってる。だから命じられたのさ。見つけ次第処分しろと。これはね、十三人目を炙り出すための罠なんだ。きっとあの子と敵対するような転生者は、正義の味方に違いないからね。

 博士がちょっかい出してる転生者が、もしも十三人目だったなら、僕は約束を反故にするよ。貴女への恩よりも、蘇らせてくれたあの子への恩の方が大きいからね。それは承知してほしいな」


 エニグマは目をすがめて、僕に反論してきた。


「……本当に居ると思っているのか? 予言の十三人目なんて……あんなモノが本当に存在すると?」


「貴女がそれを聞く? それが実現可能かを研究していたんじゃないの? ―――それに、僕ら転生者だって、この世界からしたら十分にオカルトなんだからさ。今更なにが来たって驚かないでしょう。ここは僕らの世界と違って、あり得ない事が本当に起こる世界なんだから」


「なら、私達は手を組む必要がある」


 エニグマは深刻な表情で、僕に提案を示した。

 僕はそれに、少し驚いた。普段は"力を貸せ"としか言わない彼女が、"手を組もう"と言ったのだ。意味こそ同じだけれど、彼女がこうも低い姿勢でくるのは珍しい。


「僕の力がほしいの?」


 だから少しだけ、意地悪してやった。別に手を組むのは、何の問題も無いのだけれど。

 しかし、エニグマは僕の軽口に付き合うつもりがないのか、依然として深刻な顔で話を続けた。


「ああ。同時に、君には私の力が必要になるだろう。仮にあの転生者が、君の言う通りの存在だったとしたのなら、私達は一番敵に回してはいけない男と戦う事になる。断言しよう。お前だけでは、あの転生者には勝てない」


 エニグマは断言する。非戦闘員である彼女にそう言われるのは、ややプライドが傷つけられるけれど、分析力だけで僕達のトップに居る女だ。信用しても良いだろう。


「ふうん、そんなに強いんだ、その転生者って」


 僕より強者と聴いて、興味本意にそう尋ねると、エニグマは不敵な笑みを浮かべて、


「いいや。これからそれを、調べるのさ」


 そんな情けない事を、自慢げに言いやがった。

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