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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第三章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【上】
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アルフェンの深い夜-【サスティバン】

 サスティバンはうんざりしていた。

 組織に対する不信感を抱きながら、それでもなお行動しない自身に。

 正しさを貫こうとしたクラムへ、幼稚な暴力を行使してしまった自分に。


 彼は家族を愛し、同族を愛し、それ故に仲間を守る組織へと身を投じた。

 彼はエルーシナが嫌いだった。戦火で故郷を失い、両親を失ったからだ。屈強な戦士揃いだった彼の故郷を落とすため、リアチーヌ軍が卑劣なだまし討ちを行った事も、彼がエルーシナを憎むところに拍車をかけている。

 そんな"敵"から家族と仲間を守りたい。サスティバンという若者の願いはただそれだけだったのに。

 彼が信じた『スカジャハス』という組織は、崩壊の兆しを見せていた。

 他の者の眼にはどう映ろうと、サスティバンは確かにそれを感じ取っていた。


 『スカジャハス』は創設から三十年しか経っていない、王都の中では比較的歴史の浅い組織ギャングである。

 そもそも、半獣人ウェアクァールがアルフェンへ流れて来たのが三十五年前。現在と同様に、戦火に焼け出された難民たちが、この地に逃げて来たのが始まりである。

 長耳種エルーシナの協力を得られなかった半獣人ウェアクァールたちが、自らを防衛し細々とでも暮らしていける環境造りを目指した事が、『スカジャハス』結成のきっかけであった。


『スカジャハス』の理念は本来自衛に徹底したもので、反撃は止む無しとしても、長耳種エルーシナたちへ攻撃を仕掛ける事は掟によって禁止されていた時期もあるほどだ。

 これは、移り住んできた半獣人ウェアクァールたちがもつ、慎み深い民族性よるところが大きい。勝手に移り住み、居座った側という認識を、彼らは棚上げにする事はしなかったのだ。

 本来自然の中で、必要最低限の原始的な生活を好む半獣人ウェアクァールにとって、他種族と争う事は本望では無かった。

 たとえそれが一方的に攻撃を仕掛けて来た相手であっても、彼らは時に許す事を選んだ。そう言う意味では、半獣人ウェアクァールは聡明な種族であると言えるだろう。長耳種エルーシナ側も、大人しくしているうちは半獣人ウェアクァールへ攻撃を仕掛ける事は無かったのだから。


 その態勢が少しずつ変化し始めたのは、二年ほど前のこと。

 リアチーヌ王国が、隣国バスティア帝国へ侵略戦争を仕掛けた事で、バスティア領内に住んでいた半獣人ウェアクァールたちがこの街に流れて来たのである。

 同族同士で助け合ってきた貧民窟の半獣人ウェアクァールたちは、当然のように彼らを温かく迎え入れた。

 しかしそれによって、真新しい憎しみを抱えた半獣人ウェアクァールと、街に定着した半獣人ウェアクァールとの間で軋轢が生じてしまったのである。

 エルーシナに対して過激な思想を持つ者たちと、アルフェンで長年暮らしてきた者たちが、対立し始めたのだ。


 その動きは時間が経つにつれ、単純な新参者と古参者の対立から、貧民窟全体を巻き込んだ抗争へと発展していった。

 貧民窟の半獣人ウェアクァールたちの総意によって創られた『スカジャハス』は、当然の流れとして、その抗争の中心点となってしまう。

 強硬派の長であるルシャンと、穏健派の長であるバルメットが中心となり、『スカジャハス』内部が二分されてしまったのである。

 両名共に組織内で地位のある人物であった事が災いし、両者の対立に干渉しない者たちは事態の静観を余儀なくされた。完全に停める者のいなくなった対立は、組織の機能そのものを麻痺させ始めたのだ。


 サスティバンが感じている崩壊の兆しとは、正しくそれであった。

 街に住む同族を守るための組織が、それをないがしろにして暴走し始めている事は、サスティバンも薄々感じていた事ではある。

 ただ、まだ若い彼には組織内でそれほど発言力がある訳でもなく、事態を流れに任せて見守る事しかできない状態だったのだ。

 だからこそ、自分の考えを押し込み、命じられるまま組織の方針に従った。それほど賢くもない自分があれこれと考えるより、上の指示に従う方が正しい道に行き着くだろうと信じていた。


 そんな彼を今揺さぶっているのは、クラムとネネッシュの言葉だった。

 口には出さないが、サスティバンはクラムを尊敬していた。憎しみと向き合い、全てのエルーシナが悪ではないと説いたその気高さに、サスティバンは敬意を持っていた。

 街の状態を見れば、今が同族同士で争っている時期ではないと、誰でも分かる。そんな中で、クラムの様な少女でも理解している事をないがしろにして長老たちが争う事態に、サスティバンは憂いと呆れを感じている。


 そんなサスティバンは、冷めた様子で緊急招集された会議の様子を眺めていた。

 『スカジャハス』の信用が落ち始めているという危惧のもと開かれたこの会議も、両派の言い争いが激化していった結果、益体の無い舌戦となっている。

 自分達の主張ばかりが先行し、街の状態をどうするかまで誰も考えが至っていない。

 強硬派はエルーシナへの攻撃姿勢ばかりを示し、もはや自警団ではなく一種の武装勢力であるかのように振る舞っている。

 戦争の憎しみからか、強硬派を支持する者は組織の古参者にも多く、実質実権を握っているのは強硬派である。このままではリアチーヌ政府と戦い始めるのも時間の問題だと、誰もが言うほどにその規模は日々拡大を続けている。

 穏健派はそれを抑え込む事に注力するあまり、他の事案にまで手が回らない。


 サスティバンは一つ大きなため息をつくと、屋外へと出た。白熱する会議の場では、サスティバンの行動など誰も気に留めない。

 サスティバンは裏口の階段に座り込むと、むしゃくしゃした気分を落ち着かせようと、咥えた煙草に火を点けた。

 吐き出す煙はサスティバンの憂鬱を乗せて、暗い夜空へ吸い込まれていくようだ。その様子をぼんやりと眺めるサスティバンに、声をかける者が居た。


「兄貴、どうでしたか?」


 サスティバンが目を落とすと、彼の舎弟が数人集まっていた。皆、組織の動向を気にかけているらしい。

 サスティバンは再び視線を夜空に戻し、投げやりな言葉で返した。


「駄目だな。組織は終わる」


 妙に確信じみたそんな言葉は、年長者に指示を仰ぐだけの若人たちを動揺させるのには、十分だった。


「そんな事―――言うもんじゃないっすよ」


 不安そうな舎弟の言葉をぼんやりと聞きながら、サスティバンは煙を吐き出す。


「どうだかな。正直、心配すべきなのはそこじゃねえよ。もし強硬派が何かやらかしたら、そのとばっちりは街の住民全体に及ぶだろう。エルーシナとウェアクァールの全面戦争なんて事になったら、それこそ目も当てられねえ。組織が無くなることより、そっちの心配をするべきだぜ、俺たちは」


「じゃあ、兄貴は組織を抜けるんですかい?」


 問いかけにサスティバンは一瞬手を止めて、それからゆっくり息をついた。


「いや、どうかな……組織の方針が強硬派よりなのは確かに気に入らねえが、もう少し様子を見たい。バルメット爺が、ルシャンの馬鹿を止める可能性だってある訳だしな。まあ、そうなったらそうなったで、今度は同族同士の殺し合いだ。それを止める段になったら、いよいよ俺たち青年組の出番だろうさ」


「そんな事に、ならなきゃいいっすけど……」


「そうだな。でも、この問題は誰かが血を流さなきゃ終わらない段まで、もうすでに来てる。そんな気がするよ……」


 そう言った後で、サスティバンは自分の言葉に、諦めの感情が含まれている事に気づいた。

 臨界状態になりつつある爆弾を前にしてなす術の無い状態に、サスティバンは疲れていた。無力な自分というものを、彼はとことん嫌うたちである。

 サスティバンは苛立ちと倦怠けんたい感を消し去りたくて、煙を闇へと吐き出した。

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