表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第二章】正義の在処
64/274

カバーストーリー

 真っ逆さまに墜ちていく。

 身体が崩れ堕ちていく。

 どうしてこうなった。何がいけなかった?

 俺はここまで努力した。一番になるために、天辺を取るために。


 次男として生まれたものが後継者になれないのは必然。なにも商家に限った話ではない。上が特別出来損ないでもない限り、決して機会が巡ってくる事など無いのだ。

 ―――だから殺した。


 特別優秀だった訳じゃない兄貴と、努力して優秀だった俺。

 何に対しても努め、決して手を抜かなかった。一番になるために、力を得るために、犠牲を払ってでも伸し上がった。

 学舎の成績は常に一番だった。趣味だ、女だと遊びにふける馬鹿共を嘲り、有能な者たちからは称賛を受ける立場にあった。

 話術から、経営学、取引における交渉術まで、必要な事は全て覚え、完ぺきに仕上げた。


 なのに、なのに、なのにっ!


 あのクソ親父はっ、商会の役員共はっ、あんな無能の恥知らずを後継者にすると言いだした。

 ヘラヘラと常ににやけ顔を浮かべて、女遊びにかまける大馬鹿に!

 人を従える能も無く、他人の意見にすぐ流されるマヌケに!

 長男だから、ただそれだけの理由で権力を与えると言った。


 冗談じゃないっ!


 俺がアイツになど劣っているものか! 俺の方が相応しい! 俺こそが帝王だ!

 だから殺してやった。一番きつい毒を食らわせてやった!

 俺の考えも見抜けずに、安酒を高級酒と勘違いして、泡を吹いて死んでいった!


 当然、順番が回って来た。俺が頂点。俺が王都の帝王だ!

 正しく相応しい。俺には、報われるだけの能力がある。鍛え磨いた時間に報いてもらわなくては!

 なのに、なのになのになのにっ!


 あの親父は俺をこんな辺境に飛ばしやがった。何が赤色魔鉱だっ! 何が約束だ!

 くだらん吸血鬼の女にほだされて、できもしねえ事業に無駄な出資なんかしやがって! どうして有能な俺が、そんな尻拭いみたいな事をしなくてはいけないんだ!


 ――――――――――――ああ、だが報われたぞ。やはり俺は持っている!

 こんなクソッたれな土地で、一年以上がまん強く耐え抜いた甲斐があった!


 赤色魔鉱が出やがった!


 これで、俺は大金持ちだ! 商会への貢献がこれだけあれば、俺は今度こそ頂点に立てる!

 親父だって、今度こそ文句は言うまい。……いや、もしかしたら、親父はこのために?


 畜生ッ! 親父が死にやがった!


 あの女、とうとうやりやがった。常々、危険な奴とは思っていたよ。

 女が権力を持つこの国の中で、一番の商会の社長に女が成れないとはどういう事かと、親父に怒鳴っていたっけ。

 確かにアイツは有能だ。認めるのは癪に障るが、馬鹿な兄とは大違い。俺と競り合う資格があるのは、兄妹の中でもあの女だけだろう。


 クソッ! クソッ! クソッ! クソッ!


 何か手を打たねば。あの女が何かする前に。あの女が俺の居ない間に、地盤を固めてしまう前にっ!


 ならば、鉱山を頂こう。所詮、教会の審問から逃れた卑しい吸血鬼の町だ。あの女に追従する、愚かな住民共も同罪だ!

 過去の、親父の約束なんざどうだっていい。死んだ奴の約束なんて、反故だ、反故っ!

 赤色魔鉱の供給源さえ独占できれば、俺が頂点だっ!


 その為に高い金で、時代遅れの暗殺者を雇った。


 ―――失敗しやがった!


 昔馴染みの傭兵を呼びつけた。特急料金とか抜かして大金を持って行かれた!

 くそっ、これじゃあ赤字だ! 無能な暗殺者共は、全員死ぬまでこき使ってやる!


 ―――それすら無駄に終わった!


 たった二人のガキ相手に。どこの何者とも知れない放浪者に。あんな小娘にっ!

 黒い女、不吉な女。あれは死神だ。あれは疫病神だ。あれは悪魔だ!


 ―――痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!


 溶ける。溶けてしまう!

 こんなはずはない。こんな事って! 俺は有能だ、俺は支配者なんだ!

 なのに、こんな目に遇うなんて! ふざけるな! 誰か俺を助けろ! 誰でも良い、金を払ったんだ、仕事をしやがれ!


 痛いっ、痛すぎる。

 溶けては治り、治っては溶ける。

 永遠に終わらない痛み。永遠に死ねない痛み。


 嫌だ、こんなのは嫌だ!


 ――――――ゴキッ!


 激しい音と衝撃で目が覚めた。―――いや、ずっと目は開いていたのか。潰れていた眼球が治癒したらしい。

 さっきの音は地面に落ちた衝撃で、首の骨が折れたものの様だ。

 見える範囲で辺りを見回すと、陳腐な家が何軒か見える。どうやら崖を落下して、町の外れに着地した様だ。

 あの忌々しい溶ける液体は、雨に流されたのだろうか。俺の周囲には居ない様だ。


 やったぞ! 俺はツイている!

 神はやはり俺に、天下を取れと言っているのだ。

 いいぞ。シエルが連中を片付けたら、次は王都だ。あの邪魔な女を排除し、商会を牛耳る。手柄を立て、女王に認められれば、将来は正式な貴族の仲間入りだ!

 いいぞ、素晴らしい!


 ……溶けた傷の治りが遅いのか、身体はまだ満足に動かない。まあいい。地面を舐める屈辱も、成功すれば美談になるさ。


 ………………音が聞こえる。


 獣じみた声だ。這いずる様な足音も聞こえる。近くに何か居るのだろうか?

 いや、数が多い。激しい雨音の中でもはっきりと分かるぞ。これは、吸血鬼化した影響だろうか?

 十体以上いる何かが、俺の方へ近づいて来る。


 おいおい、何だこれは? 私兵共が俺を迎えに来たのか?

 ははっ、しょせん雑務しかできん役立たずと思っていたが、なかなか気が利く。恐らくシエルが連中を片付けたのだろう。


 視界の端に何かの気配を感じる。夜闇の中でそれは、微かに人の様だった。

 ああ、いいぞ。さあ、俺を早く助けろ!


 人影の気配が俺を取り囲んだ。獣じみた唸りを上げて。

 人影が顔を近づけて、近づけて――――――俺の鼻を食いちぎった。


 Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!


 止めろ! 噛みつくな! 俺を食べる気なのか? まさか、まさか、まさかっ!

 こいつらはゾンビだ! 連中が生き残っていたのか! くそっ、ちゃんと処理しておけと、あれだけ命じておいたのに。無能な兵士共がっ!


 やめて、食べないでくれ! 痛い、痛い!


 ああ、こんな。これは夢だ、夢に違いない。この俺が、頂点に立つべき有能なこの俺が、こんなクソったれな最後だなんて!


 誰か助けて。嫌だ、こんな所で死にたくない。こんな惨めに死にたくない。食べられたくない!


 誰か、タスケテ――――――

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ