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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第二章】正義の在処
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悪人の話

 私が二人を街の診療所へ運んだ頃には、日はすっかり傾いていた。

 ゾンビはまだ、いくらか町の中に残っているようで、移動中に何度も気配を感じた。生体感知に死体であるゾンビは映らないため、移動には気を遣った。

 二人を庇いながら戦うのは難しくないが、一人は左腕をバッサリと斬り落とされていたので、急ぐ必要があると判断したのだ。

 イハナはともかく、この少年を助ける義理は私には無い。何度か戦った相手というだけで、特別感慨にふけるような情はないのだ。せいぜい、イハナを守ってくれたという功績だけ。

 私が間に合わなかったのは事実なので、この男を助けなければ後味が悪いと思っただけなのだ。助けるのは、本当にただそれだけの理由。


 診療所に到着してすぐ医者に二人を預け、私は待合室でアリエッタを探した。

 医者によると、昼間の被害から逃れた人間は皆ここに居るらしい。とは言っても、待合室に居るのは六人だけだ。

 診療所に残っていた医者と看護師、それから昨夜坑道でケガを負った五人の炭鉱夫を含めて、十三人しか助からなかった事になる。

 八十人居た市民がこれだけ減ったのだ。大惨事と言うほかない。

 待合室に居る六人の中にアリエッタの姿は無かった。


「……ここに居るはずなのですが」


 生体感知を起動する。最近は何かにつけてこの機能に頼ってばかりだ。

 診療所内には十五個の生命反応がある。十四人目はイハナだとしても、あの暗殺者の少年はどういう訳か映らないので、私の認知していない誰かがまだここに居る事になる。

 十五人目の反応は、待合室の隣に在る倉庫に居る事を示していた。


 扉を開くと、倉庫の中は真っ暗だった。

「―――、―――、―――」

 すすり泣く声が聞こえる。

 私は中に入って、そっと扉を閉めた。人に隠れて泣くというのは、彼女らしいといえば彼女らしい。

 奥へ進み棚の角を曲がると、そこで少女が膝を抱えてうずくまっていた。


「アリエッタ―――」


 呼びかけると、少女は顔を上げた。


「ミュー…………ミューっ!」


 アリエッタは立ち上がって私に抱き着くと、更にひどく泣き出した。私は彼女が落ち着くまで、静かに待ち続けた。

 気分が悪い。

 自分は、この少女に二度とこんな涙を流させない為に戦おうと誓ったのではなかったか。それがどうだ、この状況は。

 私は何よりも強い身体を授かりながら、未だにこうして弱い。心が弱い。

 アリエッタが冷徹に復讐をする様に、私は複雑な思いを感じていたが、それは彼女の方が私より弁えていたという事でしかない。悪辣でも残虐でも、奪われるよりはずっと良い。守るためなら、そう在るべきだった。

 怒りに任せて戦う私は何よりも強い。自分でも感じるほどに、迷いがある時との力の差がある。

 イハナの倫理観を否定したくせに、私もそれに足を引っ張られているのだから笑ってしまう。なんて無様だろう。

 こんな思いをするくらいなら、私は殺すための道具であればいい。アリエッタの人形に。その在り方を今一度、思い出せ。


「貴女も憤りを感じているのね、ミュー」


 泣き枯れた声で、アリエッタはか弱く呟いた。


「……貴女が行った後、残った街の人達と死体の確認をしたの。死体の中にね、あの子たちが居たの。魔獣に襲われたみたいで……まだ十歳にもなってない子供よ。こんなの、あんまりだよ」


 アリエッタは震えていた。どうする事も出来ない感情に憤っているのは、彼女も同じようだ。


「不思議なものね。こんな事……他人の死を悲しむ様な日が来るなんて。

 私にとって、他人は私を傷つけるものと無関心であるものの二種類だけだった。私を守ってくれたのは、お父さんと貴女と先生だけ。それ以外は全部敵。そういう認識で問題は無かったし、実際そうだった。―――でも、世界は広いのね。この町に来て、その認識を改めさせられたわ。外の世界には、温かくて素敵な人たちが大勢居るわ。何の関わりも無いのに、見返りも無く人に施す事の出来る尊い精神を、この街の人達は持っていた。私達とは違う、善良で正しく生きる価値のある人たちだった。あんな風に、あんな男に、殺されていい人達じゃなかった」


 アリエッタの声に怒りが混ざり、月明りが照らす彼女の泣き顔は無表情へと変わっていく。彼女が本当に憤っている証だ。アリエッタは怒りの感情を、こんな風にしか表せない。


「ミュー、殺しましょう。ルーン・アンデレトワを、殺しましょう。あの日やった様に。ねえ、いいでしょう?」


 アリエッタは虚ろな目を見開いて、憎悪に笑う。

 復讐に奔走ほんそうしていた時と同じ顔だった。心なしか普段よりも活力がある分やるせない。

 ―――いや、もうその在り方を否定はしまい。

 私と彼女はこの世でただ二人の同類なのだから。私がとっくの昔に壊れているのなら、それはアリエッタも同じ事。

 そんな歪な部分で分かりあえる相手だからこそ、私はこの少女に救いを見出したのだ。

 なら私はどこまでも、彼女と共に在るだけだ。人殺しの怪物らしく、悪辣で在ろう。


「……ええ、もちろんですアリエッタ。貴女の命じるままに」


 私は膝をつき、主に首を垂れる。

 やる事は決まった。イハナの仇を、私達が討つ。

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