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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第二章】正義の在処
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暗殺者の話

 生体感知のレーダーには、三人の襲撃者が映っていた。そのどれも、まだセレイアさんの寝室には近づいていない様だ。

 先手を討つために、セレイアさんの寝室に入る。途端、私の目に飛び込んできたのは、セレイアさんに刃物を振り下ろそうとしている人影だった。セレイアさんはベットの上で必死に人影の腕を押さえ込んでいる。

 どういう事だ? この部屋には、セレイアさん以外は居ないはず。


「そこから離れなさい!」


 魔法の氷塊を、暗殺者に向けて放つ。

 人影は軽やかな動きでベットから飛び降りた。

 避けられた氷塊は、壁に当たって粉々に砕け散る。


 私は身体強化と身体硬化の魔法を使いながら、人影に迫った。

 私が放った拳と蹴りを、人影は剣で弾きながら回避する。


 窓から差し込む月明りに照らされて、人影の持つ剣がちらりと見えた。剣には、見覚えがあった。先日列車を襲った盗賊団の少年が持っていたものだ。

 この俊敏な動きから見て間違いない。この少年は、アリエッタとイハナをさらった賊のリーダーだ。


 そういえばこの少年、この前も私の生体感知をすり抜けた。一体どうやったんだ?


「また貴方ですか。今度は盗賊から暗殺者に転職ですか?」


 私の言葉に、少年は笑ったようだ。暗くて少年の顔は分からない。


「それはこっちのセリフだ。妙な二人組が居るとは聞いていたが、まさかアンタだったとはな。でも良いのか? こんな所に居て。アンタの連れは今頃うちの仲間に殺されているかもしれないぜ?」


 生体感知で確認する。三人の刺客は、まだアリエッタ達を見つけられていない様だ。

 アリエッタはイハナを連れて、地下室に隠れている。人払いの魔法でかく乱するとか言っていたから、多分大丈夫なはずだ。


「……お嬢様は、ご自分で身を守れますから。それに私は、セレイア様を守るように命じられております。――それに、貴方を殺せとも」


 私の構えに、少年は反応する。互いはほぼ同時に、踏み出した。


 拳と剣の応酬。私の突きを少年は避け、少年の剣を私は受け止める。

 互いの実力は互角だった。これではらちが明かない。


 私は突きの合間に氷塊を飛ばした。それを少年は、いとも容易く剣で弾く。

 接近して放たれる飛び道具に対処できる人間などそうは居ない。的確な判断を瞬時に行える冷静さと、それを可能にする技術を、この少年は持っている。やはりこの少年は強い。


 私達の闘いを見守っていたセレイアさんが、魔法で支援を始めた。

 セレイアさんの放つ紅い氷塊と、私の攻撃で、はさみ撃ちを仕掛ける。


「――チッ」


 流石に不利になったと判断したのか、少年は私から大きく距離を取ると、窓を突き破って外へ飛び出した。ここは城の裏側で、外は町を見下ろす断崖絶壁だ。


「何をっ!」


 敵だというのに、私は思わず身を乗り出して窓の外を見た。下には暗闇が広がっている。

 ふと、暗闇の中から笛の音の様なものが鳴った。高く長く響く音は、まるで合図みたいだった。

 生体感知で確認すると、三人の暗殺者も逃げ出したようだ。アリエッタとイハナは無事らしい。


「逃げられました。すみません」


 私がそう言うと、セレイアさんはゆっくりと首を振った。


「いいんです。それより、助けてくれてありがとう――」


「……セレイア様、一つ質問してもよろしいでしょうか。貴女はいったい、何に狙われているのです?」


 列車の襲撃ではイハナが居て、鉱山の襲撃ではセレイアさんとイハナが居た。そして列車を襲った男が、二人を暗殺しに来た。この一連の出来事が、無関係とはとても思えない。


「あれは……商会の刺客です。鉱山の外で待ち伏せていた人たちを覚えていますか?」


 セレイアさんに、私は頷いて見せる。たしか、ルーンとかいう男だったか。あの男は良くない感じがする。パスフィリクの連中と同じ類の雰囲気だ。この世界の貴族ってやつには、ろくなのが居ないらしい。


「私は、あのルーンという男に命を狙われています」

 セレイアさんは少し怯えた様子で、そう言った。


          ◇


 私達の使っている客室に、全員が集まった。また不意打ちで襲撃があるとも限らないので、なるべく固まって行動しようという事になったのだ。

 テーブルを囲んで、私達はセレイアさんから話を聞いた。


「商会が私たち姉妹を狙う理由は、おそらく町の権利を奪うためでしょう」


「つまり、ルーンという男は、貴女に成り代わって領主になろうとしているですか?」


 私の問いに、セレイアさんは頷く。


「ええ、おそらくそうでしょうね。ただ、あの男が欲しているのは"地位"ではなく、あくまでも"権利"だと思います。商会は鉱山の経営権を横取りしようとしている様なんです。前にお話ししたとおり、経営を私が代行しているだけで、鉱山の所有権はこの町の市民全員が持っています。それを取り上げる権限があるとすれば、土地の所有者である領主だけですから。

 領主の家が途絶えた場合、今の法律では現地で最も有力な"爵位持ちの家"が街の新たな領主として任命されます。私たち姉妹を除いて、この町に居る"爵位持ち"はルーン・アンデレトワだけです」


「なるほど。わざわざ城なんて建てたのも、この地域の住民である事を主張するためだったのね」


 アリエッタが納得した様子で頷いた。この城と対になるように建てられた商会の城。今思えば、あれは領主であるセレイアさんに対する、侮辱と宣戦布告の意味があるのだろう。城と言うのは、権力の象徴なのだから。


「商会は赤色魔鉱が安定して掘れる鉱山を、自分達の物にしたいのでしょう。今まで鉄の取引を渋っていたのに、赤色魔鉱がでると分かった途端、他の取引先を排除して独占を始めましたから。あの城を建てたのも、それを見越しての事だったんでしょうね。彼らは最初から計画していたんです。もっと、早めに対策しておくべきでした」


「でも、赤色魔鉱が出たのは最近の事っすよね? どうして商会は、そんな昔から準備できたんすかね?」


 イハナの質問はもっともだ。元々、赤色魔鉱の発掘を狙った鉱山だとは聞いていたが、商会がそれを知っている理由が分からない。仮に知っていたとして、奪おうとするのなら、城を建てた時点でセレイアさんを排除しても良かったはずだ。三十年待っていた――というより、赤色魔鉱が見つかるまで待っていたというのはどういう事なのだろう。


「それは単純な事よ。商会は赤色魔鉱が出ると知っていたんだから」


「知っていた?」


 セレイアさんの言葉に、アリエッタは眉を寄せた。


「鉱山を開いたばかりの頃は、取引相手がなかなか見つからなかったんです。産業革命以前のあの時代は、鉄の需要は少なくて、魔鉱でなければどこも買ってくれなかった。だから、国でも指折りの大企業だったアンデレトワ商会に話を持ちかけたんです。鉱山で出た鉱物はどんなものであれ、一定の価格で売ると。赤色魔鉱が出る可能性を必死に説明して、ようやく了承してもらえたわ。あの時商会が応じてくれなかったら、今のこの町が無いのも事実。だから、私は商会との約束を違えるつもりはありません。商会が赤色魔鉱の取引を独占したいというのなら、それはこちらにも当然応じる義務があると思います。でも、ルーンは取引ではなく、鉱山そのものを奪い取ろうしている。私達に赤色魔鉱を探させて、成果を全て持ち去ろうとしている。あんな男がこの町を仕切るようになったら、この町の人達が大きな損害をこうむる。それこそ、二百年前の様に。だから何としても私は……いえ、イハナだけでも生き残らなくてはいけない」


 セレイアさんは強い意志を感じさせる瞳で、イハナを見た。イハナは怯えたような表情になって、セレイアさんに言った。


「ダメっすよ。姉様も一緒に生き残るっす! そんな怖い事、言わないでほしいっす!」


「イハナ……そうね。ごめんなさい」


 セレイアさんは悲しそうにして、イハナの手に自身の手を重ねた。


「セレイアさん、イハナさん。私達にも協力させてください。そういう事なら、力になれると思います。――ね、ミュー?」


 こちらに視線を向けるアリエッタに、私はしっかりと頷いて見せた。私もアリエッタと同じ意見だ。


「ええ。護衛から暗殺まで、何なりとお命じください」


 どこまでも本気の言葉だったが、イハナは「暗殺はダメっすよ」と笑った。


「でも、いいんすか? 二人はこの町とは無関係なのに、こんな危険な事に関わって……」


 イハナは不安そうに私達を見る。セレイアさんも、同じようにして言う。


「相手は暗殺者を差し向ける様な人達です。命に関わる事ですから、お二人はどうか――」


 アリエッタは最後まで言わせなかった。


「いいえ。私には家族も居なければ、帰る家もありません。命を懸けたところで、失うものはもうないんです。だから、どうか手伝わせてください。友人として、二人の力になりたいんです」


 アリエッタの言葉に同調するように、私は頷いて見せた。


「……ありがとうございます。アリエッタさん、ミューさん」


 セレイアさんは涙ぐんで、感謝の言葉を私達に向けた。

明日はお休みさせていたただきます。31日から再開いたします。2018/12/27

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