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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第二章】正義の在処
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鉱山での話3

 その夜、どういう訳か宴会が開かれた。

 私達の武勇伝(たぶんイハナの誇張こちょうが入ってる)を町の人達が聞いて、お礼をしなくてはという事になったらしい。

 セレイアさんはそんな様子を見て笑いながら、

「普段は節制して生活している人達ですから、何かと理由をつけて、たまには騒ぎたいんじゃないですかね」

 なんて言っていた。


 街の中央で大掛かりに火を焚いて、それを囲んでみんなで食事をした。

 この町の人達は本当に人が良く、素性も分からない私達に温かい対応と、ご馳走を振る舞ってくれた。

 私は食べられないので、少食だと言い張って誤魔化した。食欲は無いけれど、こういう時に人と食事を採れないというのは少し寂しいことだ。時おり料理を持ってきてすすめてくれる人もいて、そういうのを断るのが一番寂しかった。


 アリエッタは子供たちに懐かれた様子で、食後はイハナを含めた五人で何やら楽しそうに話し込んでいる。相変わらずの無表情だけれど、時々本当に笑顔を見せたりする姿は、見ていて安心できる。

 ずっと独りだったアリエッタに友人ができた事は、本当に嬉しい事だ。この町に来た事には、それだけで十分に意義があったと思えてくる。


「アリエッタさん、すっかり人気者ですね。しっかり者のお姉ちゃんって感じかしら」


 声がした方を振り返ると、セレイアさんが居た。


「隣、いいでしょうか?」

「もちろんです。どうぞ」


 私の了解をわざわざ得てから、セレイアさんは私の隣に座った。


「イハナの方が年上みたいですけどね」


 私がそう言うと、セレイアさんはちょっと困った顔で微笑んで、

「あの子、結構子供っぽいですから。しっかりしてはいますけれど」

 なんて言った。


「でも、イハナはとても優しい人ですね。子供たちが懐くのも分かる気がします。お嬢様も、イハナのそういう所に感心しているみたいですし」


「ええ。親の私が言うのもなんですけど、あの子は良い子に育ってくれたと思います。思いやりがあって、気配りができて……でも、それが時々無理しているみたいにも見えるんですよね」


「そうなんですか?」


「ええ。あの子には、小さい頃から拾い子である事は伝えていたんですけど、それが返って気を遣わせてしまったみたいで。こんな町だから周りには大人しかいなくて、あの子けっこう寂しい思いをしていたんだと思います。私を姉と呼ぶのも、そういうのの表れなのかなって」


 いつしか、セレイアさんは寂しそうな表情で、イハナを見ていた。

 それは少しだけ、アリエッタに似ている気がした。以前、家族さえいれば十分だったと彼女は言っていたが、それはまともな友人が周囲に居なかったからという理由がある。アリエッタは孤独の寂しさよりも、周囲への殺意を募らせていったが、あれだって結局はそばで支えてくれる人間さえ居れば、変わった事だったのかもしれない。

 私やアグラード先生のような人間ではなく、イハナみたいな存在が必要だったのかもしれない。


「……似た者同士なのかな」

「え?」


 私の独白に、セレイアさんが不思議そうな顔をした。

 

「いえ、独り言です。……お嬢様もあまり友人が居ないので、友人ができて喜んでいると思いますよ」

「そうですか」


 セレイアさんは優しく微笑んで、またイハナ達の方を見た。私もアリエッタへ視線を向ける。楽しそうに笑い合う二人を見ていると、穏やかな気持ちになった。


「……お二人は、どうして王都へ向かっているのですか?」

 セレイアさんが、唐突に訊いてきた。


 実のところ、私もその理由は知らない。成り行きでアインツールを出たものの、あえて王都を目指す理由を、アリエッタからは聞かされていない。私が訊かなかったというのもあるのだが。


「ただの、旅行ですよ」

 私は無難にそう答えた。


「そうですか。では、いずれアインツールに戻られるのですね」


 セレイアさんは、なぜか少し残念そうにつぶやいた。その予定だけは確実に無いのだが、話がややこしくなるから言わない方が良いだろう。


「どうして、そんな事を訊かれるのですか?」


「あっ、いえ。……できればお二人には、もう少しこの町に滞在していただけたらと、そう思ったものですから。すみません、こんな」


 セレイアさんは申し訳なさそうに、私に軽く頭を下げた。見た目は高貴な人なのに、ものすごく低姿勢の人だ。


「そう思っていただけて光栄です。きっと、お嬢様も同じことを言うでしょう。線路が再開したという話が来ない以上は動けませんので、こちらこそよろしくお願いいたします」


 私はセレイアさんに向き直って、深く頭を下げる。こちらが泊めてもらっている立場なのだから、頭を下げるのは私の方だ。


「ええ。大したもてなしはできませんけれど、必要なだけ城に居てください。お二人が居てくれると、私もイハナも嬉しいですから」

 セレイアさんはそんな風に言って笑ってくれた。



 その後宴会も終わり、私達は城へと戻った。イハナ達と別れて、アリエッタと共に客室へと向かう。

 子供たちとの歓談はよほど楽しかったのか、アリエッタの放つ雰囲気はその無表情に反してとても明るかった。


「食事の席では、楽しそうにお話しされていましたね」


 私がそう声をかけると、アリエッタは私に笑顔を見せた。


「ええ。あの子たちと話すのは楽しいわ。隠したり騙したり気取ったり、そういう事をぜんぜんしないんですもの。明日もね、会う約束をしたのよ」


「良かったですね。友達ができて」


 私がそう言ったとたん、急にアリエッタの感情が冷めた。彼女は足を止め、考える素振りを見せた。


「……友達?」


「どうしたのです、アリエッタ?」


「……いいえ。何でもないわ」


 再び歩き出したアリエッタの後に続く。

 今のは何だったのだろう?

 私はまだ、アリエッタの事について知らない事が多い。そして必ずしもそれを私が知るべきだとは思っていない。良好な関係で居たいのなら、そうあるべきだと思う。

 でも、知らなければ守れない事も事実で、その辺りのバランスの取り方を、私は未だにはっきりとは見いだせないでいた。


「……何か言いたそうね。どうしたの、ミュー?」


「えっ? あ、ああ。はい。実は先ほどセレイア様に言われて考えていたのですが、アリエッタはどうして王都を目指しているのですか?」


 誤魔化した。私は未だに、彼女に嫌われたくなくて大事なところで距離を置いている。そんな態度ではダメだと分かっているのだけれど。


 ちょうど客間の前に来た。私は客間の扉を開けて、アリエッタを中に通す。返答次第では危険な話になりそうなので、しっかりと扉を閉めた。

 灯りを点けようと暗い部屋の中を探っていると、暗闇の中でアリエッタの声が響いた。


「前に言ったじゃない。私は、世界に復讐するつもりだって」


 それは無感情な冷たい声だった。


 アリエッタは私に歩み寄ってきた。彼女は私の身体に躊躇なくぶつかると、そのまま私を抱きしめた。それはまるで、何かにすがる様な行為に感じられた。


「私達から大切な物を奪ったのは、あいつ等だけじゃない。あんな事が許される時代が悪い。あんな事が起こってしまう世界が間違っている。そうは思わない?」


 その声は辛そうで、聞いているこっちも胸の奥が締めつけられる。


「……だから、世界に復讐を? それを成すのに、王都へ行く必要があると?」


「――声が震えてる。何を恐れているの、ミュー?」


 問いに対して返ってきた思わぬ指摘に、私は戸惑う。

 …………怖がっているのか、私は? 何を? アリエッタを?


「わ、私は別に……」


 そう否定した私の声は、たしかに震えていた。何かに慄いていた。

 それはそうだ。私は勘違いをしていた。アリエッタは何も変わっていないじゃないか。

 何をするのかは知らないが、アリエッタは本気で世界に復讐なんてことを言っている。その殺意を世界に向けている。


 ―――あの子は、最初から壊れていた。


 アグラード先生の言葉を思い出す。

 いいや、違う。確かに、私達はパスフィリクの連中に復讐をした。多くの人を殺した。だけど、全部過ぎた事なんだ。終わった事なんだ。終わればきっと、アリエッタは元に戻るはずなんだ。


「大丈夫。大丈夫だよ」

 アリエッタはささやく。

「ミューを置いて行ったりしないから。貴女と私、ちゃんと二人で仕上げましょう。きっと楽しいわ」

 私には分からない。アリエッタの事が、理解できない。この言葉の意味が、私には分からない。分からないから、怖い。

 アリエッタが歪んでしまっているという事実を、私は未だに否定したいのか。


 ズレている。―――それは誰が?


 思考を遮るように、ノックの音が暗闇の中で響いた。

 こちらの応答を待たずに、扉が開いた。廊下の光が部屋に差し込み、私達を照らし出す。


「失礼しま―――っ! ご、ごめんなさいっす!」


 イハナは私達を見るなり、慌てて扉を閉めた。再び暗闇の中へと戻されても、思考は働かない。私はもうなんか色々と混乱していた。

 アリエッタは何やら楽しげに笑って、私から離れた。


「ほんと、面白い人ね」


 アリエッタの気配が、扉の方へと向かった。私は慌てて、近くにある読書灯を点けた。薄い光が部屋を照らし出した。

 私に礼を告げてから、アリエッタは扉を開けた。イハナはまだ扉の前に立っていて、真っ赤になりながら、どういうわけか慌てていた。その手にはカップの乗ったトレイが握られている。


「えっと、あのっ、あのですね――み、水っすよ」


 イハナはトレイをアリエッタへと差し出した。どうやら薬のために持ってきてくれたようだ。


「ふふっ。イハナが思っているような事は何も無いのよ。ただ、私が転びそうになっただけ」

「あっ、ああ、なるほどっす。あははー」


 二人の会話は意味不明だが、イハナが納得したみたいだから大丈夫だろう。

 アリエッタは礼を言ってトレイを受け取ると、私のところに持ってきた。私はトレイを受け取って、薬の準備を始める。


 イハナはまだ何か用件があるのか、部屋に入ってきた。それから彼女は、少しためらう様な素振りを見せながら話を切り出した。


「あの、実は二人に頼みたい事があるんですけど、聞いてもらえるっすか?」


「もちろんよ。力になれる事があれば、何でも言って」

 アリエッタの言葉に、私も頷く。

「はい。私達も、ただで泊めていただくのは心苦しく思っていましたから。何なりとお申し付けください」


 私達の態度に、イハナは少し安心した様子だった。


「そうですか。ありがとうございます。実は、頼みたい事というのは魔物退治でして。昼間の戦いを見込んで、協力してほしいんす」

 イハナは真剣にそう言うと、頭を下げた。


「……えっと、魔物?」

 なにそれ。この世界にはまだまだ、知らない事が多すぎる。


「分かったわ。魔物なんて、ミューにかかれば直ぐに片付くもの。――ね?」

 あっさりそう言って承諾しょうだくすると、アリエッタは私に同意を求めた。


 ね、と言われても……まあ、造った人間が言うのだから多分大丈夫なのだろうけれど。


「承知いたしました」

 とりあえず、いつもの調子で返答した。

 この世界に来てから何かとバトルする流れができているが、正直"元"女子高生に変な事ばっかりさせないでほしい。

 そんなこんなで、私は魔物とやらと戦う事になったらしい。

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