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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第二章】正義の在処
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不死なる領主の話2

「あら、バレてしまったのね。残念。できれば手荒な方法で血は採りたくなかったのだけど……まあ、食べてしまえば同じ事かしら?」


 吸血鬼の女はそう言って、妖艶な笑みを私達に向けた。その言葉や仕草は明らかに敵対を示しているのだが、なぜか女からは敵意を感じ取る事ができずにいた。


 今まで戦ってきた相手からは、必ず敵意や殺気を感じていた。しかし、この吸血鬼からは攻撃する意思そのものを感じ取る事ができない。

 それこそ吸血鬼の能力というのなら、それはそれで恐ろしい。敵意を感じさせる事なく攻撃を仕掛けてくる相手なんて、格上の強者に違いないのだから。


「どうしますか、可愛いお人形さん。わたくしと戦いますか?」


 女は優雅な仕草で、私を挑発する。

 こいつ、私が人で無いと分かっている。やはりただ者ではないか。


 私が魔法を放とうと身構えたその時、背後で扉が開いた。


「お待たせしたっす! ――って、あれ? 何やってんすか?」


 イハナだった。彼女は、対峙する私と吸血鬼を、不思議そうな顔で交互に見た。


「……イハナさん、あの吸血鬼とはどういう関係なのかしら?」


 アリエッタの問いに、イハナはさらりと答えた。


「お姉ちゃんっすよ」


「「お姉ちゃん!?」」

 思わずアリエッタと声が重なってしまった。


 吸血鬼の女が、可笑しそうに笑った。


「うふふっ、ごめんなさいね。他所からのお客様なんて久しぶりだったから、からかってしまいましたわ。お詫び申し上げます。私がこの町の領主、セレイア・アイルフィールでございます」


 セレイアと名乗る吸血鬼もとい領主様は、優雅にお辞儀をした。


 唖然である。領主であった事の驚きよりも、からかわれた事に呆れる。戦いになってたらどうするつもりだったのか。お茶目で済む問題じゃない。

 戸惑っている私達の代わりに、イハナが紹介をしてくれた。


「この方はアリエッタさんで、こちらがその従者のミューさんっす。お二人とも、私の命の恩人なんすよ」


 私は礼儀として、セレイアさんに頭を下げた。


「そうですか。妹がお世話になったようで。どうぞお入りください」


 セレイアさんは私達を促すような仕草をして、奥へと歩いて行った。


「さあさあ、お二人ともどうぞっす」


 呑気にしているイハナにこれは言ってやらねばと、私は彼女の方を向いた。


「……イハナさん。どうして最初に、領主様が吸血鬼だと教えておいてくれなかったのですか? 危うく本気で戦ってしまうところでした」


 戦闘人形であるという自負から、血の気が多いのは自分でも分かっている。こういうフェイントは好みじゃない。


 イハナも私が怒っていると分かったのか、気まずそうにして謝った。


「えっ? あー、えっと、姉様が何か面倒くさい事をしたようですみませんっす。あの人、変に子供っぽい所があるもんで。気が回らなくて、申し訳なかったっす」


 アリエッタが、私をなだめる。


「まあまあ。何事も無かったのだから良いじゃない。吸血鬼というだけで警戒した私にも責任があるわ。でしょう?」


 アリエッタにそう言われては、引き下がるしかない。確かに、少し気が立っていたかもしれない。


「……はい。イハナさん、責めてしまい申し訳ありません」 


「あ、いえっ、私が悪いんで、気にしないで下さい。ほんと。ささっ、どうぞ中へ」


 イハナは気まずそうなまま、それでも明るく振る舞ってそう言った。

 私達は促されるまま、城の奥へと入って行った。



          ◇



 イハナに客間へ案内された後、私達は荷物を置いてそのまま食堂へと直行した。私達をテーブルに座らせると、イハナは食事を作ってくると言って部屋を出て行った。

 この城に来てから、雑事はみんなイハナがやっている。それどころか、ここに来てからこの姉妹以外の人間を見ていない。


 私は気になって、セレイアさんに訊いてみた。


「……ここには、貴女がた姉妹の他に、人はいないのですか?」


「はい。私達二人で暮らしております。人を雇うような余裕も、人手もありませんから。こんな城に住んでいると誤解されてしまいますが、この地域にはそれほど力は無いんですよ。土地柄、作物もろくに育ちませんし、大規模に放牧するほど平坦な土地も無い。かろうじて鉱山で食い繋いでいる様な状態なんです。

 この城は、何百年も前に暴君が無理やり建てた物なので、言ってしまえば負の象徴なんですよ。ここに住む私は、言わば番人と言った方が正確でしょうか」


「番人?」


「ええ。この町の番人です。

 この町の成り立ちは、王都から追放された王族の一人が、隠居生活を送るために住処を構えたのが始まりです。元々、放牧民族の土地だったものを無理矢理に接収し、彼らは開拓を始めました。ですが、元々大して土地の無い場所に町を作ったせいで、困ったのは移り住んできた開拓民の方でした。ここは作物を育てるのに向いた地質ではなく、家畜を育てるのに必要な土地を、彼らは自らの手で潰してしまったのですから。

 王族は馬鹿な男で、食料の確保に悩む開拓民や現地民の事など気にも留めず、ぜいを尽くしました。その時に彼が自分の権力の証として建てさせたのがこの城です。結果、この城を見るたびに領主への怒りを住民たちが募らせていき、彼は城が完成して半年で殺されてしまいました。

 それが確か、二百年ほど前の事ですね。私は当時原住民の代表をしていたので、その流れでこの町の領主に任命されてしまったんです。領主と言っても、税は取りませんし法も執行していません。あくまで、この町を管理しているだけです。そう言う意味で、私は番人なのですよ」


「二百年? 吸血鬼ってそんなに長生きするのですか? すごい種族なのですね」


 セレイアさんはどう見ても二十代のお姉さんに見える。それだけ長生きしていながら、未だにこれとは恐れ入る。

 私が驚いていると、隣に座るアリエッタが説明してくれた。


「吸血鬼というのは、種族ではないのよミュー。永遠に時が停まる、魔法的な処置を施された人々の事を言うの」


 セレイアさんはアリエッタの言葉を引き取った。


「私の前だからと、気を遣って下さらなくてもいいですよ。――魔法的な処置と言えば聞こえは良いですが、吸血鬼というのは呪いです。遠い昔に、アシュメスの悪神ナハナが創り出した、人の生を縛る呪い。私は普通の方法で死ぬことはできませんし、寿命を迎える事も無い。永遠に生き続ける魔物なのです」


 セレイアさんは何の抵抗も無く、自分を魔物と断じた。その在り方は、少しだけ私に似ている気がした。


「魔物……でもそうすると、イハナさんは? 彼女は普通のエルーシナの様ですが」


「はい。イハナは確かに普通の子です。あの子は私を姉と呼んでいますが、実際には親子と呼ぶのが正しいですね。捨て子だった彼女を、私が育てたんです」


「ああ、なるほど」


 イハナもイハナで、複雑な事情のある少女だった様だ。 


「私からも一ついいかしら? さっき税は取っていないと言っていたけれど、それならこの町の公共事業はどうやって運営しているのですか? それに、国に納める分もあるでしょう」


 アリエッタが不思議そうにセレイアに訊いた。


「それは、鉱山の運営ですべてまかなっています。この町の鉱山は町の住民全員の所有物であり、その経営を私が代表でしているという形になっています。言ってしまえば、町一つが丸々企業の形態をとっている訳です。とは言え、正直あそこは鉄しか出ませんから、大した稼ぎにはなりません。最近は需要が増えてきたとは言え、この町はいつもギリギリの状態なんですよね。赤色魔鉱が出てくれると、少しは皆に楽もさせてあげられるのですが……」


 セレイアさんは悲しい顔で、遠くを見た。


 私はまたも聞き慣れない単語に、戸惑ってしまう。異世界に来て、辛いのはこういうところだ。勉強しているとはいえ、追いつかない事が多い。


「お嬢様、赤色魔鉱とは何ですか?」


「赤色魔鉱というのは、魔石の一種よ。主に魔道具に使われるわ。溶岩内の魔力が地中で結晶化したものとされていて、希少価値が高いの」


 アリエッタの解説に、セレイアさんは感心したようだった。


「よくご存じですね。お若いのに博識でいらっしゃる。あれは、鉱石の中でも特に市場価値が高い魔石ですから、掘り出せれば町の財政も一気に潤います」


「……まるで、出てくる見込みがある様な言い方ですね」


 アリエッタの言葉に、セレイアさんは頷いた。


「ええ。実を言うと、鉱山を開いたのはそれが理由だったりします。この辺りは元々火山帯ですし、地形の条件から見ても赤色魔鉱が出てくる確率が高いのですよ。実際、先日掘り出された岩の一部にそれらしい痕跡が見られました。もしかしたら、数日中にも完全な状態の物が掘り出せるかもしれません」


 それを聞いて、アリエッタは興味を示した様だった。彼女は歳に似合わず、地学やら化学の分野に興味を示す、渋い趣向の持ち主だったりする。


「セレイアさん、私達が鉱山を見学する事は可能でしょうか?」


「ええ、構いませんよ。今日と明日は作業が休みですので、明日の内なら自由に見ていただいて結構です」


「そうですか。ありがとうございます。――明日見に行きましょうよ、ミュー」


 アリエッタは楽しそうな声色で、私に言った。


「承知いたしました」


 久しぶりにまっとうな理由でアリエッタが楽しそうなので、私としては心穏やかである。

 そんなこんなで明日の予定が決まったところで、ちょうどイハナが食事を運んで戻ってきた。

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