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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第二章】正義の在処
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襲撃された話

 私達は寝台列車に揺られ、王都を目指していた。

 三日と半日。それが、アインツールから王都までの移動に要する時間である。


 乗り継ぎなしで移動できるのは楽なのだが、その分延々えんえんと列車に乗っていなくてはならないのは苦痛だった。


 私達がこの列車に乗り込んでから一日ほど経っただろうか。今の時刻は日の出より少し前。

 月は山の陰に隠れ、暗い客室の中を満たすのは小うるさいレールの音だけだ。


 私の主人アリエッタも、今は寝台で穏やかに眠っていた。

 色白で儚い、十四歳の可憐な少女。

 今のこの子を見て、いったい誰が、復讐の為に多くの人間を殺した殺人鬼だと思うだろうか。


 ……まあ、その大半は私がやったのだから、殺人鬼はどちらかと言うと私の方なのだろう。彼女はただ、命じたに過ぎない。


 そんな身の上であるため、私達はどんな環境でも不測の敵に備えなくてはいけない状況に置かれている。

 幸い、私の身体は人形でできているため、眠る必要がない。夜間の警護を苦も無くできるというのは、ありがたい事だった。


 ふと、遠くで物音が聞こえた。列車とは別の車輪の音だ。これは、犬が引く荷車の音だろう。どうやら列車と並走しているらしい。

 私の聴覚は人の数倍あり、音源の探知にも同じく優れている。このくらいの物音を聞き分けるのは、造作ない事だ。


 ……


 どうも様子がおかしい。こんな時間に犬車を走らせる者が居ても、それ自体は偶然あっても良い事だろう。だが、犬車はどうやら列車に追いつこうとしている様だった。そんな事をする理由は、いったい何だろうか。


 子供じみた競争心か、それとも乗り移ろうとしているのか。


「……アリエッタ、起きてください」


 妙な胸騒ぎを感じて、アリエッタを起こした。くぐもった声とも吐息ともつかない音を吐いて、アリエッタは目を覚ます。


「うぅん――どうしたの、ミュー?」


 アリエッタは私の名を呼んで、気だるそうに体を起こした。


「起こしてしまい、申し訳ございません。どうも、良くない気配がしますので――」


 私がそこまで言ったところで、アリエッタは「分かったわ」と頷いて、寝台を降りた。

 下着姿のアリエッタに、急いで服を着せる。事情があって衣服を一式しか持っていないため、寝る時は服を脱ぐのだ。

 彼女が身支度を整え終わった丁度その時、突然列車の動きが停まった。急ブレーキの反動でよろめくアリエッタを支える。


「貴女の勘、当たったようね」


 アリエッタは感情のない顔で、呟いた。彼女にとっては、こんな異常事態すらも興味対象にはなり得ないようだ。


「私が様子を見て来ましょう。アリエッタはここで待っていてください」

「ええ、気を付けて」


 私は客室の戸をそっと開き、周囲を確認する。列車が停まった事で、不安にあおられた他の乗客たちが廊下に出ていた。


 ここは五両編成の列車のちょうど真ん中に位置する。手前二両は機関車と食堂車であるため、客車はここが最前だ。族が乗り込むとしたら、機関車か最後尾の客車からだろう。


 予想通り、後ろの車両から女の悲鳴が聞こえてきた。そちらへ意識が向いた瞬間、反対側の扉が開いた。見ると、黒い装束の男が入ってきていた。どうやら両側から仕掛けて来たらしい。敵は複数人という事か。


「全員、部屋に入りなさい!」


 私が叫ぶと、廊下に出ていた者たちは一目散に部屋へと戻って行った。彼らを守るつもりは無い。単純に戦いの邪魔だというだけの話だ。


 私は廊下へ出て、黒い男に向かって魔法で氷塊を放った。小粒程の小さな氷でも、速度があれば立派な凶器となる。黒い男は胸の中心を穿たれ、ひっくり返った。


 後続の男二人が、魔法で迎撃してきた。氷塊が二つ。

 私は防御魔法で障壁を展開し、それらを防ぐ。


「私に魔法は効きませんよ。やるなら、武器でかかってきなさい」


 私がそう挑発すると、男達はためらう素振りを見せつつも得物を構えて向かって来た。

 そんな二人に、私は氷塊を撃ち込む。一人は額を撃ち抜かれて即死。もう一人は太ももを貫かれて、床に倒れた。


「あぐっ――このっ、卑怯者が!」


 倒れた男が悪態をつく。

 私は男に歩み寄り、その頭部に照準を合わせた。


「結構。戦いですから」


 不躾ぶしつけな襲撃者に何やかんや言われるのはしゃくなので、一応そう答えた。


 魔法を展開する。男の頭部を破壊し、その命を奪うために。

 その行為自体に何の感情も抱く事は無いけれど、私はこの瞬間に全ての神経を注いで――――――不意に注意が途切れた。

 邪魔が入ったのだ。


 展開する魔法を、瞬時に防御へと切り替える。

 障壁を張った瞬間に目の前で炎が爆ぜた。


 狭い車両の中で火を使う大胆さにも驚くが、何よりもギリギリまで攻撃に気付かなかったという事実に驚愕きょうがくする。


 相手は、私の索敵からのがれられるだけの実力者だという事だ。私の生体感知機能は、単純に気配を消しただけで隠れられるものでは無い。生きているという事を探知する機能なのだから。


 爆ぜた炎の向こうから、何かが飛んでくる。私は後ろへ飛んで、それを避けた。二本の小型ナイフが、前方の床に突き刺さる。

 客車の方から、またしても男が入って来た。顔は包帯の様なもので隠されていて判別できないが、今までの男たちに比べて少し若い様だ。


「脚をやられたのか。お前は退け」


 男の声は、私の見立て通り若かった。まだ少年と言っていいかもしれない。


「お頭、すみません」


 脚をやられた男は、床をいずりながら食堂車の方へと戻って行った。お頭と呼ばれた少年は、逃げる男を庇うようにして私の前に立ちはだかる。


「ウチの連中をこうもあっさりと……やるなアンタ」


 少年は面白くなさそうにそう言って、剣を構えた。ナイフよりはやや長い、ショートソードと呼ばれる武器だ。寝台車の狭い廊下で振り回すのには、少し大きすぎる。勝算はこちらにありそうだ。


「一つ訊いてもよろしいですか?」


 私がたずねると、少年は虚を突かれたように「なんだ?」と返した。


「どうしてこの列車を襲ったのですか?」


「仕事だからだ。人をさらい、金を要求する。そういう仕事だ」


 少年はつまらない事を訊くなと言いたげに、答えた。


「そうですか。なら、貴女は私の敵ですね」


 他に目的があるのなら見逃してやる事もできたが、アリエッタにも危険がおよぶと分かった以上、始末するしかない。


 私は床を蹴った。少年との距離はたかだか五、六歩程度だ。

 少年は素早く私の行動に対応し、剣を振るった。


「リヴ・フォート!」


 身体硬化の魔法を身体に施し、少年の剣を素手で弾く。


 すかさず右の正拳を繰り出すが、少年に受け止められて、威力は流されてしまった。


 少年は私の目の前で舞うように一回転し、頭上から剣を振るった。身体の動きを見れば分かるとはいえ、正拳突きで態勢を低くしている私には、死角からの攻撃となる。


 左腕を頭上に掲げ、少年の腕を受け止める。

 上に意識が集中した一瞬を突かれて、少年の蹴りが腹部に迫る。


 そく、離脱を判断して地面を蹴った。

 後方回転で攻撃を避けるのと同時に、距離を取る。


 強い。人間で在りながら、ここまで正確な動きができるとは。

 この少年は今まで戦ってきたまがい物たちとは違う。正真正銘、本物の戦士だ。


「やるな。正直言って、面倒だ」


 少年は苛立いらだった様子で、私に言い放つ。


「同感です。早く死んでください」


 私の言葉に、少年はわらった。


「ハッ、あんた殺し屋よりも辛辣しんらつだな。生憎だが、これ以上あんたと死合うつもりはない」


 少年は声を張り上げて叫ぶと、球の様な物を地面に叩きつけた。割れた球から黄色い煙が噴き出し、一瞬の間に廊下を満たした。


 煙幕だろうか? こんなもの、私には関係ない。


 私はさまたげられた視界の代わりに、生体探知で少年の動きを視ようとした。

 ――見えない。

 どうやら魔力を阻害そがいする効果が、この霧にはあるらしい。こんなものは人体にも影響が出るはずだが、敵は対策をしているのだろうか?


 いや、それよりもアリエッタが心配だ。

 客室へ戻るべきか思案していると、向かってくる音がした。戦わないと言いつつ、私に攻撃を仕掛けるのか。


 少年の攻撃を防いで反撃を仕掛けると、彼は驚いたように声を上げた。


「何っ! この霧の中で動けるとは……お前何者だ!」


 私の攻撃は、虚しく空を突く。


「やはり何かしたのですね」 


「麻痺の煙だ。……お前、知ってて対策したんじゃないのかよ!」


 少年の声と共に、足払いが来る。飛び上がって避け、そのまま落下の勢いで跳び蹴りを放つ。

 しかし、私の足は床を叩いただけだった。この視界の悪さで、なんという動きの切れだろう。


「やっぱり、お前は面倒だ。これで退かせてもらおう」


 今度の声は、少し離れたところからした。逃げられたか。


「チッ――」


 私は車両の壁を殴って破壊した。空いた穴から空気が逃げて行き、黄色い煙幕が一気に晴れる。

 廊下に在るのは戦いの痕跡だけ。死体すら綺麗に消えていた。敵は間違いなくプロだ。


「アリエッタ――――っ!」


 彼女の安否が気になって客室を見ると、閉めたはずの戸が開いていた。中には誰も居ない。他の客室も同じように空になっていた。


「どういう事だ……」


 後方へ目を向けると、繋がった通路の奥に人影が見えた。アリエッタを抱えた男の姿だった。


「くそっ、やられた!」


 戦闘に集中するあまり、アリエッタがさらわれた事に気が付かなかった。これだけ近くに居ながら、なんて間抜けな。


 最後尾の扉まで到達すると、二台の犬車が走り去っていくのが見えた。

 私は車両から飛び降りて、犬車を追いかける。


「流石に、難しいかな……」


 全速力で走ってはいるが、距離は離されるばかりだ。

 いくら身体能力が高いと言っても限度がある。馬にも匹敵する速度を誇る大型犬が相手では、勝負にもならない。


「止められているけれど、仕方ないか」


 私は奥の手を出すことにする。


 私の身体には、特殊能力とも言うべき十三の機能が備わっている。それぞれに制約や時間制限が付いていたりと限定的なものだが、その分効果は大きいらしい。

 というのも、私はまだ一度もそれらの力を試した事は無いのだ。身体に負担をかける機能が多く、試験もせずにいきなり使う事を、アリエッタから止められていた。


 だが、今は一刻を争う事態だ。


 そろそろ夜が明ける。時間からみてアリエッタの薬が切れる頃だ。


「第三拘束、解除――」


 私の命令に従い、停められている身体の機能が解放される。


 自動的に身体強化の各魔法がかけられ、身体を駆け巡る魔力の流れが速くなった。

 途端とたんに、私の行動速度が四倍にまで加速した。今この瞬間、私はこの世界で何よりも速く動けるのだとアリエッタは言っていた。


 これが私の機能の一つ、加速装置である。制限時間は三分程しかない。それまでに、犬車に追いつかなくては。


 私はきらめく朝日を背に、白銀の平原を疾走した。

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