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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第四章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【下】
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後悔の異世界英雄譚

 男は英雄になりたかった。

 人の笑顔を見るのが好きだったから。

 感謝されると、心が温かくなったから。

 愛おしいと思える人の笑顔を守りたかったから。


 だから男は戦った。

 第二の生で手に入れた無双の力で、数多の悪を打ち滅ぼした。

 魔獣を倒した。

 圧政を強いる権力者を捕まえた。

 争いが早く終わる様に、戦争にも参加した。

 武力によって、武力を相殺する。

 彼は矛盾を抱きながら、それでも"争いの無い世界"を求めて戦った。

 男には、それを可能にできてしまう力があった。稚拙な夢を、浅はかな希望を、行使できてしまう力があった。

 彼はそれ故に、考える事をしなかった。自らの行動が持つ意味と、それがもたらす結果を。


 害悪を退けるだけならば、彼の力は全ての人々を救う事ができた。

 彼の敵が人でない限り、彼は平等な英雄で居られた。

 だが、ひとたび彼の敵が人となってしまった時、世界を乱す害悪が人と人の間で生み出された物であった場合、彼は彼の理想とする英雄ではなくなってしまった。


 そうしてたどり着いたのは、理想とは程遠い世界だった。

 黄昏の空の下、男は地獄の中に居た。

 自らが落とした城塞から見下ろす街は、この世に顕現した最悪であった。

 燃え盛る街並みと、積み上げられた人の残骸と、鉄と血。

 ここに在るのはそれだけだった。

 ここに居るのは、男だけだった。


 どれだけ武に長けていても、世界の流れを食い止める程の力にはなり得なかったことを、男は思い知らされた。

 争いを始めたのが群衆の決定である以上、その群衆たち一人一人に働きかける力でなくては、争いは止められない。

 一方、男の持つ力は個を殺す事に特化した力であった。そんなものでは端から、世界など変えられるはずもない。

 自身の行為は、いたずらに争いを加速させただけではなかったのか。男はそう苦悩した。


 こんなものが、勇者の所業なのだろうか。

 こんなものが、英雄のする事なのだろうか。

 男の疑問を肯定するように、味方側の兵士たちは男を称賛した。

 誰もが男を勇者と呼んだ。国へ帰れば英雄として讃えられると、皆が口々に言った。

 なるほどと、男は悲観した。確かに英雄にはなれたらしい。

 しかしそれは、男の望んだモノからは遥かにかけ離れた、不名誉以外の何物でもなかった。


 ―――違う。違う、違う違う違うっ!


 男は叫ぶ。

 こんなのは、望んだモノじゃない。

 人を助けたかっただけで、人を殺したかったわけじゃないっ!

 どこで道を違えたのか。どこから自分は間違ってしまったのか?


 そうして気が付けば、男は自分が本当に守りたかったものすら失っていた。

 抱いた理想も、愛した人の笑顔も、彼の元にはすでに無い。

 それに気づいた時、男は絶望した。その日以来、彼は勇者である事を止めた。


 これは、そんな勇者の結末の物語である。

 故にこれは、輝かしい英雄譚ではない。一人の男の、憂鬱な後悔の物語だ。

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