学校の話+
アレン・アグラードがアリエッタの面倒を見るようになって、数日が経った。
面倒と言っても、彼女は時々アリエッタから投げられる質問に答えてあげる程度で、学習自体はアリエッタの自主性に任せている。
蔵書の半分がアレンの持ち物である学舎の図書室には、輪をかけて特殊な書物が多い。一般的な魔法指南書だけでなく、禁術や呪術などの知識を記したものも多くあった。それらをアリエッタは興味の向くままに、積極的に吸収していく。
そんな若い原動力ともいうべき力強い学習意欲こそ、アレンがアリエッタに目をかける理由であった。
アレンは学習を手段とするよりも、その行為そのものを目的とする人種の方が好きである。知識を得る事を趣味とする人種は総じて変わり者だが、アレンはまさにその変わり者なので、つまりは仲間に目をかけているという様な、そんな感覚なのである。
放課後、アレンは職員室から図書室へ向かって廊下を歩いていた。
司書の彼女が閉館だと言ってアリエッタを追い出さないと、アリエッタはいつまでも我を忘れて学習にいそしむ。そのためこの時間にアレンが図書室へ向かうのはほとんど日課になっていた。
司書ならば業務時間には図書室に居てしかるべきなのだが、彼女のサボり癖自体は依然変わらないままであった。
そんな道中、アレンは少女たちの集まりに遭遇した。廊下の片隅で、四人ほどの生徒が固まって何やら話し込んでいた。
「―――あの混ざりモノが、卑怯な手を」
「とは言っても、アグラード先生が相手じゃ―――」
少女たちの会話がかすかに聞こえてきた。自分の名前が出た事でアレンが視線を向けると、少女たちはロアンとその取り巻きのグループだった。
彼女たちはアレンの姿を見るなり、慌てた様子で口を閉ざす。
そのまま無視して通り過ぎようかとも思ったが、やはりと思い、アレンは振り返ってロアンに言った。
「私の生徒に手を出したら、お前たち分かっているだろうな?」
アレンの本気の忠告に取り巻き達は押し黙ったが、ロアンだけは強気に応じた。
「ふんっ、別に私たち何もしてないけど? 言いがかりはよしてくれますか、センセイ」
吐き捨てるようにそう言い残して、ロアンたちはその場を去る。それはどこか、ロアンからアレンに対する挑戦状の様でもあった。
「ふんっ、クソガキどもが」
教員らしからぬ捨て台詞を残して、アレンも背を向けた。
アリエッタの関知していないところで、学舎内では連日こんなやり取りが行われていた。