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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第三章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【上】
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人形と学者

 拠点に残ったミュー、イハナ、ネネッシュの三人は、麻痺した襲撃者十八人を拘束して、拠点内へと運びこんでいた。

 流石に野ざらしでは可哀想だと、ネネッシュが言い出した為である。

 最後の一人を縛り終えて、一同が一息ついていると、唐突にミューの生体感知に人影が映り込んだ。

 その反応に、ミューは疑念を抱く。誰も居なかったはずの場所に、突然反応が現れたからだ。


「……イハナ、ネネッシュ達と居てください」


 ミューのその一言で、イハナとネネッシュ、そしてクラムの表情が引き締まる。


「また敵襲ですか?」


 不安そうなネネッシュの問いに、ミューは分からないと首を振った。


「それを確かめて来ます」


「……気を付けてくださいね」


 ミューは一礼して、玄関口へと向かう。生体感知に映っている反応は、一つだけだ。襲撃者にしては、人数が少ない。通りがかった一般人と考えるのが妥当であるが、突然何の前触れもなく現れた反応には、やはり違和感しか感じられなかった。


 反応が突然現れる現象は、過去に二回。倉庫群地下での生死体ゾンビの襲撃と、今朝宿で起きたアシュメス達の襲撃である。

 生体感知の不調か、それとも何か別の理由があるのか。ミューは判断がつかない出来事に、内心気味悪がっていた。こういった説明できない現象こそ、召喚者の分野であるという懸念がミューにはあるからだ。


 ミューが扉を開けると、そこに立っていたのは一人の女性だった。

 暗闇の中にたたずむその姿に、ミューは驚く。


「レクティバス博士……」


「やあ、ようやく会えたね。―――それにしても、酷い有様だ。また、派手に撃たれたものだ」


 道路の中央に佇むエニグマは、破壊されて穴だらけの拠点を見て笑った。


「……申し訳ございませんが、お嬢様はこちらには居りません」


 警戒しながらも落ち着き払ったミューに、エニグマは邪悪な笑みを浮かべて見せた。


「問題ない。今日は君に会いに来たのだから。むしろ邪魔が入らないよう、彼女には退席してもらったんだ」


 エニグマの言葉に、ミューは目を一瞬すがめた。


「先ほどの襲撃は、貴女の差し金だと?」


「ああ、その通りさ。君と私の逢瀬に、無粋な邪魔は入れられたくなかったからね」


「……なぜ、私に? 貴女との関わりなんて、無いにも等しい。会ったのは、ただの一度きりだというのに」


 エニグマは楽しそうに、鼻を鳴らす。


「君が私を知らなくとも、私は君を知っているのだよ。君という存在、至高の顕現とも言うべきその器を、私は永く追求し続けてきたのだから」


「器……貴女は、私の事を―――」


「ああ。人形だという事は、初対面で見抜いていたよ。()()()(かお)をしていては、気付かない方がおかしい。実に皮肉な話じゃないか、なあ?」


 ひとり可笑しそうに笑いだしたエニグマへ、ミューは戦闘用の構えを取る。異常な相手に恐怖を感じて、最大限の警戒態勢をとった。

 そんなミューを、エニグマはにやけ顔で見つめた。


「ふふっ、大人しく私に付き合ってくれる気はあるかな?」


「貴女の目的は?」


「君の身体を調べる事。危害を加える事は無いと、保証しよう」


「断ったら?」


「……その選択肢はないさ。君は私に従うしかない」


「そうですか……第七拘束解放!」


 ミューの音声トリガーに反応して、ミューの体内から銀色の液体が放出される。液銀はその背後で七つの剣を形取り、宙に浮かび上がった。


「貴女を拘束します。それが、主の意思だ!」


「……やはり頭は要らないか」


 エニグマはミューの対応を楽しむように嗤い、指を鳴らした。

 途端、彼女の手元に電子タブレットが現れる。エニグマが電子タブレットをタップした途端、ミューを取り囲むようにして、空中に魔法人形の群れが出現した。

 天使の上半身と、蜂の様な下半身を持つ、カランドと呼ばれる魔法人形だ。

 視界に映る魔法人形の大群と、突然生体感知に表示された無数の反応に、ミューは驚愕した。


「この能力……これが貴女の力なのですね。物質を召喚―――いえ、転移させる業。ようやく納得がいきました。倉庫地下で貴女達の反応が唐突に消えたのは、このせいだったのですね。突然現れた生死体ゾンビの群れも、宿に現れたアシュメス達も、全て貴女が一瞬で運んだのか」


 ミューの予測に、エニグマは声高らかに手を打った。


「Genau! 私は君と同じ、召喚者だからな」


「召喚者……やはり貴女は、シエルと同じ―――っ!」


 複数のカランドが、一斉にミューへ襲い掛かった。

 ミューはそれらを、ことごとく剣で解体していく。

 多数を前に、単騎で勇猛に立振る舞うミューを見て、エニグマが拍手を送る。


「素晴らしい! 何度も観察したが、実物はやはり迫力が違うな!」


「このっ!」


 ミューは迫りくる五体のカランドを一気に薙ぎ払い、余裕の表情でたたずむエニグマへ突撃した。

 空中を漂うカランド達は、ミューの速度に反応する事ができない。わずかに行動が遅れるカランド達の間をすり抜けて、ミューはエニグマに迫った。

 ミューの七本の銀剣は、余裕でエニグマを仕留められる距離に近づいた。

 それでもエニグマは、行動一つ起こさず不敵に笑い続けている。

 何かがある。そう感じたミューが自身にブレーキをかけて後ろに跳んだ瞬間、突然目の前に"穴"が現れた。

 空中に浮かんだ、空間を裂いたような割れ目。それがミューに迫り、その身体をすっぽりと吞み込む。"穴"に呑み込まれたミューの姿は跡形もなく消え去り、穴すらも後には残らない。


 ミューが居た地点を見つめて、エニグマは静かに呟いた。


「ハードがどんなに優秀でも、ソフトがこれでは話にならないな。私の能力を見破ったのなら、この程度の事は予測できてしかるべきだ。君は、私の能力の射程圏内に入るべきではなかったのだよ、ミュー君」


「ミューさんっ!」


 少女の叫びに、エニグマは顔を上げた。崩れかけた建物の玄関口にネネッシュが立っていた。

 エニグマは意外そうに、一瞬目を見開く。


「おやおや……君はミライジャの妹か。こうして直接会うのは初めてかな?」


「貴女は、この前の……どうして、姉の名前を? ミューさんをどこへやったの?」


「これは君の関わるべき問題ではないよ。ミライジャは君を嫌っていたがね、それでも大切には思っていたようだ。こんな街のいざこざには、巻き込ませたくないと考えていたんじゃないかな。亡き家族を思うのなら、君は今すぐ自分の屋敷に戻るべきだ」


「貴女は……そう、貴女がエニグマ!」


 敵意を示すネネッシュの険しい表情に、エニグマはうっすらと微笑み返す。


「ネネッシュちゃん、どうしたんすかっ!」


 拠点の中から、ネネッシュの身を案じてイハナが追いかけて来た。

 それをやや面倒そうに見て、エニグマは二人へ伝えた。


「アイルフィールへ伝えろ。無事に返してほしいのなら、邪魔をしない事だとな」


 エニグマは不敵にそう言って、手元の黒い板を持ち直した。それが異界の道具である『電子タブレット』なる物だとは、ネネッシュ達が知る由もない。

 エニグマは電子タブレットをタップした。瞬間、空間の裂け目が、エニグマの前にまるで通路の様に開いた。


「達者でな、アンデレトワ」


 そう言い残して、エニグマは空間の裂け目へと消えて行った。

 空中に居たカランドたちも、それに引きずられるようにして一斉に消え去った。

 不気味なほどに静かな夕闇の中、ネネッシュは起きた出来事を処理できずに硬直していた。


「消えた……?」


 ネネッシュは、人が瞬時に消え去る魔法など知らない。幻覚にかけられた覚えもない。

 だが、確かな事実として、ミューがエニグマに連れ去られた。


「行かなきゃ!」


「あっ、ちょっと!」


 ネネッシュは考える事を止めて、走り出した。イハナの制止に気付かないほどに、ネネッシュは一つの意思に集中していた。

 向かう先は、アリエッタ達の向かったスカジャハスの事務所。

 この危機的な状況を、知るべき人間がそこには居る。クラムの時の様な後悔をしない為に、ネネッシュは全力でアリエッタの下へと駆けて行った。

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