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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第三章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【上】
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ネネッシュ-2

 スカジャハスを頼って半獣人街バルヘンクァールを訪れたアリエッタ達に、サスティバンは快く新たな拠点を用意した。そこは街の中では珍しく、綺麗で広い物件だった。


「ここを使ってくれ。スカジャハスの要人たちが使う場所だからな。使い心地は廃墟よりいいはずだ」


 サスティバンはそう言いながら施錠された玄関を開き、アリエッタ達を招き入れた。


「また随分と好待遇ね。いいの? 私達にこんな場所を貸して」


 アリエッタの感想に、サスティバンは爽やかに笑った。


「いいんだよ。これは街の総意だ。昨日の件はすでに街中に伝わってる。その上で、街の皆がお前たちにここを貸す事を決めたんだ。それだけの信頼を、アンタは得たって事だ」


「そう。それは光栄な事だわ」


 そんな会話の横で、ネネッシュは何かを探すように周囲を見回した。

 その様子が目について、サスティバンは不思議そうにネネッシュへ声をかけた。


「どうした?」


「あの、クラムは……」


「ああ、そういやまだ来てないな。この場所は伝えてあるし、もうじき着くんじゃないか」


「そうですか。……あの、私、外でクラムを待ってますね」


 そう言い残して、ネネッシュは外へと駆けて行った。

 どこか余裕のないそんな様子に、サスティバンは、気の毒そうな表情を浮かべる。


「アイツも、兄貴の事でこたえてるのかね」


「そうでしょうね。私が言うのもなんだけど、家族を立て続けに二人も亡くしたのだもの」


「しかも、片方はダチを殺しかけた殺人鬼だもんな。やり切れねえよ……」


「……エニグマに証拠を突き付けて、早くこの事件を終わらせましょう。私達にできる事は、誰もが納得できる形でこの惨劇を締めくくり、風化させる事だけよ」


「ああ、そうだな」


「早速、これからのことを話しましょう。向こうがこちらの挑発に喰い付いてきた今が好機よ」


 アリエッタはミューに荷物を広げさせ、運んできた資料を広げて作戦会議を始めた。

 そんな新たな波乱が起こりそうな気配のすぐ外で、ネネッシュは独り項垂うなだれていた。

 彼女は玄関の石階段に座って、クラムの到着を待っていた。

 ―――否、正確に言えばそれも違うのだろう。ネネッシュは、一人になりたかったのだ。

 ネネッシュは、立て続けに起こる出来事に、精神的に追い詰められていた。


 兄の本性と凶行。姉の死と、家の相続。そして、クラムの負傷と、アリエッタの狂気。

 それら全てが、廻りめぐって自己嫌悪へと変わってしまうのが、ネネッシュの悪癖である。

 アリエッタの様に、強い意志で受け止められない自分が悪い。

 ネルンの事を察してあげられなかった自分が悪い。

 クラムを巻き込んでしまった自分が悪い。

 そんな風に、自分を追い込んでしまう。それがどれだけ見当違いな理屈かを理解していても、ネネッシュはそう思い込んでしまう。


「駄目だな……ミューさんにも言われたのに」


 独り言つ。

 結局、自己嫌悪に陶酔しているだけで、物事を正確に受け止めようとはしていない。それはネネッシュ自身、百も承知の事だ。

 ミューに強く指摘された逃げの姿勢を、それでもネネッシュは止められない。


「……私はやっぱり、そんなに強くはなれないよ」


「居た! やっと、見つけた!」


 舌足らずな少女の声に、はっと、ネネッシュは顔を上げた。

 いつの間にか、彼女の目の前には幼い女の子が立っていた。それは、生死体ゾンビの攻撃の巻き添えを受けて傷つき、ネネッシュが必死の応急処置で救った、いつぞやの子供だった。


「貴女、あの時の―――そう、もう大丈夫なんだね」


「うん! お姉ちゃんのおかげだよ! ありがとう!」


 女の子は底抜けに明るく笑った。力強い陽気に、ネネッシュも釣られて笑顔になる。

 そんな女の子の後ろから、半獣人ウェアクァールの女性が近づいてきた。女性はネネッシュへ、深く頭を下げた。


「貴女が、娘を救って下さったと、スカジャハスの方から聞きました。本当に、ありがとうございます」


 女性は涙ぐんで、何度も頭を下げた。それを止めながら、ネネッシュは穏やかな心持ちで答えた。


「お礼を言うのは、私の方かもしれません」


「えっ?」


 不思議そうにする女性と、笑顔の少女を交互に見るネネッシュ。

 ネネッシュは女の子の手を取り、言った。


「生きていてくれて、ありがとう。元気になってくれて、ありがとう。私にも、ちゃんと出来る事があったんだって、分かったよ」


 選べなかった選択肢を悔やむより、選べた行動を誇るべきだと、ミューは言った。これから何を選ぶのかを、考えるべきとも。

 悔いは多いが、その分誇れる行動も沢山あったはずだと、ネネッシュは思い起こす。目の前の少女が、その何よりの証明だった。


「これ、お姉ちゃんにお礼!」


 少女が差し出した赤い花を見て、ネネッシュは感極まって涙を浮かべた。それを乱暴に拭って、ネネッシュは花を受け取った。


「ありがとう。綺麗なお花ね」


「えへへー、お母さんと探したの」


「そうなの……」


 ネネッシュは愛おしくなって、少女の頭を撫でた。その手に感じる温かさが、ネネッシュには何よりも尊いものに感じられる。

 不意に、ネネッシュを呼ぶ者が居た。


「おーい、ネネッシュー!」


 聞き覚えのある声に、ネネッシュは顔を上げ、そして立ち上がった。

 そこには、車椅子に座るクラムの姿があった。スカートの裾から覗く、球体関節で繋がった足を目にして、ネネッシュはとうとう泣き出した。


「ごめんね、連絡できなくて。心配、かけたかな」


 イハナに押されて、クラムは気まずそうにネネッシュへ近づく。

 ネネッシュは返答する余裕が無い程に、激しく泣き続けた。そんな様子に、女の子も心配そうにネネッシュを見つめる。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


「……うん…………だい、じょうぶ―――安心、したら……しただけだから。大丈夫、だよ」


 ぐしゃぐしゃになった泣き顔を、笑顔に変えて、ネネッシュは答えた。

 クラムは申し訳なさそうにして、ネネッシュに謝る。


「ごめん、ネネッシュ―――」


「おかえりなさい、クラム!」


 クラムの謝罪を押し切って、ネネッシュは全力の笑顔で親友を出迎えた。そんな姿に、クラムは一瞬だけ驚いて、それから笑ってそれに応えた。


「……うん! ただいま、ネネッシュ!」

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