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憂鬱な13No.s  作者: EBIFURAI9
【第三章】彼女の愛したセカイに葬送曲を【上】
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憂鬱な殺人余話-3

 自らの血で湿った掌の感触で、ネルンの表情は不快感に歪んだ。


「お前たちは、何者だ?」


 地を舐めながら、ネルンは黒い女たちに問う。

 それに対する少女=アリエッタの回答は、氷塊の弾丸だった。彼女の撃ち出した氷塊が、ネルンの右肩を穿つ。

 ネルンの絶叫が、夜闇の中に響き渡る。


「質問するのは私。貴方は答えるだけでいい」


 地面をのたうちまわるネルンへ感情の無い表情を向けながら、アリエッタは冷たく言い放つ。


「エニグマは、この事件に関係しているのかしら? この件の黒幕は彼女?」


「……あの人は、何も関係ない。俺が、一人でやった」


 少しためらう素振りを見せてから、ネルンは答えた。

 未だにエニグマを庇おうとする自分を、ネルンは内心でわらう。

 しかし彼はまだ、エニグマを信じていたかったのだ。直接彼女の口から見限ると言われるまで、その信頼を放棄する気は無かった。それほどに、ネルンがエニグマに向ける敬意は深い。


「……そう」と低く言いながら、アリエッタはネルンの左上腕を撃ち抜いた。

 痛みに泣きわめくネルンへ、アリエッタは淡々と言葉を投げつける。


「貴方一人の犯行じゃない事は、とっくに調べが付いているの。そういう躊躇ためらった庇い方は、繋がりを肯定している様な物よ。レクティバス博士が実行犯とはとても思えないから、きっと彼女が隠蔽を手伝った協力者なのでしょう。そうすると、分からないのは生死体ゾンビを操っている三人目。彼女は何者なの?」


「どうせ……どうせ、喋ったところで、俺は殺されるんだろう?」


「……さあ、どうかしら。こっちだって、対価無しに情報を得ようとは思ってない。貴方の情報が役に立つのなら、私達は何もしないわ。元より貴方のような小物に興味はないもの」


 無感情に言葉を並べるせいでアリエッタの心中を読めず、ネルンは訝し気に彼女を見る。

 待つ気はないとばかりに弾丸を再装填するアリエッタを前に、ネルンは一の望みをかけて口を開いた。


「……ぐ、グレゴリーと言う子供だ。全身真っ白で……そうだ、眼帯だ! 眼帯をしていた。あんな奇抜な恰好してる子供なんて、そう居るもんじゃない。見ればすぐに解る」


「グレゴリー……聞かない名前ね。貴方とはどういう関係なの?」


 その問いをアリエッタが投げた途端、ネルンが取り乱すように狼狽えた。


「知らない。―――俺はあんな化け物知らない! いきなり目の前に現れて、わけの分からない事を。それに俺、アイツを刺したのに、死ななかったんだ! 何度も何度も、刺したんだ。生きてるはずないのに。ネクロマンサーだって……アイツ自分でそう名乗ったんだ!」


「ネクロ……なに?」


 聞き慣れない単語に首をかしげたアリエッタへ、ミューが補足を入れた。 


「おそらく、ネクロマンサーかと。私の世界での、生死体ゾンビ使いの呼び名です」


「そう。貴女の世界の……死ななかったというのも、それなら納得ね。シエルの時と同じじゃない」


「召喚者はそっちの少女の方だったという事ですか……」


「まだレクティバス博士の方も、疑わしい。最悪、"二人とも"という可能性も忘れてはダメよ」


「承知しております」


 二人のやり取りに置いて行かれながらも、ネルンは疑問の答えを求めてアリエッタに尋ねた。


「お前ら、知ってるのか、あの化け物が何なのか?」


「……質問は受け付けないと言ったはずよ。それに教えたところで、どうせ貴方に理解できるはずもない」


 再びネルンへと意識を向けたアリエッタは、やや苛立った様に答えた。


「まあいいわ。その様子だと、何も知らされてない様ね。エニグマに良い様に使われていただけで、どうせ彼女の正体も知らないんでしょう」


「正体……?」


 少しだけうんざりした様に息を吐いて、アリエッタはネルンに背を向けた。


「……もういい。ミュー、適当に止血して連れてきて頂戴。約束通り持って行くわよ」


「承知しました」


「おいっ、待て! 何をする気だ! 情報を渡せば俺を殺さないって―――」


「ハッ―――あの程度の事でこっちが満足すると? まあ、もっとも、あの博士ほど慎重な人が、貴方みたいな口の軽い男に、重要な事を明かしているとはとても思えないけれど」


「このっ、クソガキ!」


「ふっ、何とでも。でもまあ、約束通り()()()何もしないわ。貴方を殺すのは、私達じゃない。正当にその権利を主張できる人たちが、この街には大勢いるもの。いいわね、人気者で。―――ねえ、貴方をこれから、いったいどこへ連れて行くと思う?」


 振り向いたアリエッタの表情は、愉しそうに笑っていた。

 悲鳴を上げて、ネルンは逃げ出した。まだ無事な片足を必死に動かして、地面をう。

 そんなネルンを、ミューは淡々とした足取りで追いかけて、捕まえた。


「止めろ! 放せ! 嫌だ! まだ、死にたくない!」


「……―――っ」


 ネルンの命乞いがしゃくさわったのか、ミューは唐突にネルンの右腕をへし折った。

 ネルンの悲痛な叫びが、寂寥せきりょうたる港に響き渡る。


「ミュー、もいじゃ駄目よ」


「承知しております」


 淡々と交わされる二人のやり取りに、ネルンは非難の声を上げる。


「このっ、悪魔どもめ!」


「ふふっ、どの口が言うのかしらね。貴方だって、散々罪のない少女達を殺してきたのでしょう。なら、覚悟を決めなさい。―――お前は、終わりよ」


 最後だけ怒りの籠った言葉を放って、後は興味も無さそうにアリエッタはその場を去る方向へ歩き出す。

 ミューも、ネルンの傷口を雑に凍らせて塞いでから、その身体を拘束して担ぎ上げ、アリエッタの後を追った。

 青ざめたネルンの助けを求める声が、埠頭に響き渡る。

 そうして三人の姿は、街の暗闇へと溶けて行った。

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