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後編

「これが一番、難題だなぁ」

 鮮やかな輝きを放つ宝飾品の列を吟味しつつ、少年が顎を指で撫でながら呟くと、豹耳の妖艶な婦人が、口元に手を当てて上品に微笑みながら、そっとアドバイスをします。

「うふふ。プレゼントするお相手さんのことを、真剣に考えているのね。それほど愛が深いなら、こういうのは、いかがかしら?」

 婦人は、ビオラの花飾りが付いた髪留めを三つ、フェルトを敷いたトレーの上に並べます。

「これは、パンジーですか?」

「よく似てるけど、これはビオラよ。どれも忠誠や律義さを表すけど、それに加えて、白は純真さを、黄色は幸福を、紫は揺るがぬ思いが込められているわ。恋に悩める騎士さまには、ピッタリだと思うけど?」

「こ、恋じゃありませんよ! 今日は、ただ、お使いを頼まれただけで」

 顔を真っ赤にしながら少年が否定すると、婦人は、可笑しそうにクスクスと声をもらしつつ、選択を迫ります。

「あらあら、片想いなのね。だったら、これが一番良いんじゃないかしら? どう? お眼鏡にかなわないのなら、別の品を用意しますけど」

「いや、これにします」

 少年は、婦人が持つ髪留めを指差して言いました。

「はい、ありがとうございます」

  *

「キャー」

「大人しくしやがれ」

 夕闇が迫る路地から、絹を裂くような悲鳴と、粗野な濁声が聞こえました。

「この声は、まさか」

 少年は、声のする方へ駆けて行きます。すると、なんということでしょう。そこでは、庶民の姿に変装したスカーレットが、獅子のような鬣を持つ荒くれ者に捕まっているではありませんか。

「その子を放せ!」

 抱えていた三つの紙袋のうち、魚が入っている袋を荒くれ者の顔面に向けて投げつけると、隙を突いて少年は素早く少女の手を引いて抱き寄せ、彼女の手に残りの袋を手渡すと、腰に差してある短剣をサッと抜き、その震える切っ先を荒くれ者の喉元に向けながら高々と宣言します。

「僕の瞳が(あお)いうちは、この子を傷つけることは許さない!」

「ちぇっ。お手付きなら、仕方ねぇな。興も醒めたし、この場は、引き下がってやる。あばよ!」

 吐き捨てるように言うと、行きかけ駄賃とばかりに落ちている紙袋を拾い上げ、荒くれ者は、そのまま持ち逃げしていきました。

  *

「お怪我はありませんか、女王さま」

 片膝をついて少年が心配そうに言うと、少女は、持たされた荷物を少年に返しつつ、プリプリと怒りながら言います。

「お使い一つに、時間をかけすぎよ。待ちくたびれたじゃない」

「すみません。なかなか、お目が高い女王さまの好みに合うような品が見当たらなかったものですから。しかし、お一人で街を出歩くのは、感心しませんよ、スカーレットさま」

 少年が軽率な行動を諫めると、少女は頬を膨らませてプイと顔を背け、猫耳を垂れながら気恥ずかしそうに言います。

「だって、寂しいじゃない。広い宮殿に、ひとりぼっちでいたら」

「ワガママですね」

「ワガママな子は嫌い?」

「そうですね。ワガママな子は嫌いです」

 少女が目を見開き、ピンと猫耳を立てて少年のほうを向くと、少年は、悪戯っぽい笑みを浮かべながら言います。

「でも、ワガママなスカーレットさまは、嫌いではありません」

「もぅ。ネイビーの意地悪! ――さぁ、宮殿に戻るわよ。エスコートなさい」

 少女が片手を差し出すと、少年は、その手を恭しく握り、二人は、仲良く歩いて帰りましたとさ。

 めでたし、めでたし。

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